第6回:酒場サルーンと女性たち その6
一つの例として、銀山部落クリード(Creede; Colorado)を挙げてみる。
ジェシー・ジェイムス(Jesse James)のコラム(第1回:ジェシー・ジェイムス~創られた英雄 その1)で書いたが、ジェシー・ジェイムスを殺した男、ボブ・フォード(Bob,Robert Ford)がここクリードにダンスホール・サルーンを開いている。
ボブ・フォードの経歴は以前書いた。ミズーリー州知事トマス・クリテンデンは約束していたジェシー殺しの賞金1万ドルをボブに払わなかった。だが、ボブは自分のポートレート写真を売り、また兄と一緒に“ジェシー・ジェイムスはいかに殺されたか?”と名付けたショーをして回って稼いでいたから、かなりの資本金を持っていたことは確かだ。

ボブ・フォード(Bob,Robert Ford)
ジェシー・ジェイムス殺害が1882年4月3日のことだ。それから“ショー”を兄のチャールスと全米を回っていたが、兄の自殺もあり、ショーに見切りをつけて、ニューメキシコのラスヴェガス(ネヴァダの有名になった都市ではない)にサルーンを開いている。ボブは終生ジェシー・ジェイムスを背後から撃った男、自身のボスを殺した男、いわば卑怯者の看板を背負って歩かなければならなかった。
その後、コロラドのワルセンブルグでギャンブルサルーンを開いてそれなりの成功を収めていたが、ロッキーの山中クリードに銀山が発見されたという情報を掴むやいなや、ワルセンブルグのサルーンの内装一式を馬車に積み、クリードに越している。ボブには決断力があり、機を見るに敏だった。また、商才もあったのだろう。
当然、クリードに越す前にボブは事前調査?を怠らず、建物、土地も手に入れている。1892年にボブが鳴り物入りでオープンしたサルーンは、一応壁も屋根もある木造だった。だが、部落を襲った大火で焼失している。開店してから6日後のことだ。火事はクリードの村を総なめにした。
それから、ボブの本領が発揮された。彼は焼け跡を片付けると同時に大型のテントを注文し、ともかくもサルーンを誰よりも早く再オープンしたのだ。こんな時こそ彼の能力が発揮されたのだろう。時に銀山ブームはピークを迎え、村の住人、鉱夫を含めて1万人にも及んでいた。それだけ急激に増えた人口に集う場所が必要だった。

1893年、クリードの上にあるジムタウン鉱山
ボブのダンスホールは、常にいち早く再建される教会よりも早く建てられた。ダンスホールで働いている女性たちの生活も守らなければならないと公式的な理由はあるが、元来ボブの性格が逆境に強かったのだろう。
ボブのサルーン、ダンスホールには女性が5、6名、不特定だがいた。お客は主に鉱夫で、一曲彼女らと踊ると幾らと料金を払わなければならなかった。彼女らは純然たる娼婦ではなかったようだが、馴染みの客ができ、ねんごろになり、あとは交渉次第だった。サルーンのオーナーたちは、客を呼んでくれる彼女らを大切にした。
バーで鉱夫たちが呑む酒の売り上げより、彼女らが稼ぎ出す水アゲの方が良かったからだろうか。ダンスホールでは切符のようなダンス券を男どもに売り、それを一曲踊るごとに鉱夫は一緒に踊ってくれた女性に渡す方式だった。辺境のダンスホールは、カップルがペアで訪れダンスを楽しむところではなかった。そして一日の終わり、店じまいの時にその券をサルーンキーパーが現金に交換してくれるのだ。交換率はおよそ50%だったようだ。実際に鉱夫たちが購入する券の価格の半分が彼女らの実収入になった。
彼女らは全般によく呑んだ。彼女らの呑み代は坑夫らに奢らせるのが常だった。従って、大酒飲みの女性は稼ぎが良いことになる。アルコールで身を潰す女性が多くなる所以だ。
彼女らは、サルーンのオーナーが持っている寮みたいに狭い部屋で集団で暮らしていた。本格的なサルーンの二階に一部屋持つのは例外中の例外だった。娼婦の館(brothel)、明かにセックスを売り物にする館がサルーンとは別に独立するようになるのは、社会の成熟と経済の安定を待たなければならかった。

1942年のクリードの町
クリードに話を戻す。
現在、クリードは鉱山町の面影を微かに残す、ゴーストタウンに近い街道筋のひなびた町だ。それでも、人口257名と2020年の国勢調査にある。ボブがサルーンを開いた銀山最盛期には1万人もが住んでいたことが信じられないくらいだ。これにはデンバー・リオ・グランデ鉄道の影響が大きく、鉄道の開通とともにブームタウンになり、クリードに行けば金になる仕事にありつけるとばかり、職にあぶれた都会人がドッと押し寄せたのだろう。
銀を掘り尽くし、従って鉄道も廃線になると、町はローソクの火を吹き消したように寂れた。現在、クリードはもの好きがロッキー鉱山町、西部の町のノスタルジアを求めて訪れるか、渓流でのマス釣りの人しか訪れない。
ボブはエドワード・オケイリーなる男に自分のテントサルーンの中で散弾銃で撃ち殺された。エドワードがボブに何らかの恨みを持っていたとも、ブームに沸くクリードに進出してきたデンバーのマフィアに雇われたとも言われているが、動機ははっきりしない。ボブの葬儀には50人以上の鉱夫、町の人が参列し、埋葬にも相当数の人が詰めかけているから、ボブがジェシー・ジェイムスを背後から撃ち殺した卑怯者という評判は消え、町の住民、鉱山町に溶け込んでいたのだろう。
ボブ・フォードのダンスサルーンは、クリードの鉱夫たちの息抜きの場所であり、村人の社交場だったのだ。

クリードのメインストリート(ブームタウンの時代;年代不詳)

現在のクリードのメインストリート
第7回:酒場サルーンと女性たち その7
|