■くらり、スペイン〜イベリア半島ふらりジカタビ、の巻

湯川 カナ
(ゆかわ・かな)


1973年、長崎生まれ。受験戦争→学生起業→Yahoo! JAPAN第一号サーファーと、お調子者系ベビーブーマー人生まっしぐら。のはずが、ITバブル長者のチャンスもフイにして、「太陽が呼んでいた」とウソぶきながらスペインへ移住。昼からワイン飲んでシエスタする、スロウな生活実践中。ほぼ日刊イトイ新聞の連載もよろしく! 著書『カナ式ラテン生活』。


番外編:もろモロッコ!(1)

番外編:もろモロッコ!(2)
番外編:もろモロッコ!(3)
番外編:もろモロッコ!(4)
番外編:もろモロッコ!(5)
番外編:もろモロッコ!(6)
番外編:もろモロッコ!(7)
番外編:もろモロッコ!(8)
番外編:もろモロッコ!(9)
番外編:もろモロッコ!(10)

 

■移住を選んだ12人のアミーガたち、の巻(連載完了分)

■イベリア半島ふらりジカタビ、の巻(連載完了分)

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番外編:もろモロッコ!(11)

更新日2004/05/20


1月3日

ピッチャーにたっぷり入った、絞りたての濃いオレンジジュース。さっくり焼きあがったチョコデニッシュにクロワッサン。香ばしいフランスパンにはコクのあるバターをたっぷり、気が向けばジャムも添えて。そして、陶器の素朴なボールに、カフェ・オ・レをなみなみと注ぐ。モロッコでこれまで毎朝食べてきた、感涙のフレンチ・スタイル・ブレックファーストも、今日で終わりかぁ。感慨深く、もりもり食べる。スペインじゃ、こんなに美味しいクロワッサンは食べられないよぅ。


9時、市内散策の前に銀行へ両替に行く。と、閉まっている。あ、土曜日だった!

 ホテルに戻って両替を頼むと、「現金がない」と断られる。どんな理由だよ、って突っ込んでみたところでここはモロッコ。なることはなる、ならぬことはならぬ、ただそれだけのことだ。

最悪の場合は空港まで行けば開いてるでしょ、と乗り込んだタクシーで、たまたま通りがかった大きな銀行が開いていた。一安心、と、車を降りて長い列に並ぶ。ところが全然進まない。しばらくして、係員がフランス語でなにか叫びはじめた。「コンピュータのシステムがダウンしたので、今日はダメー」ということらしい。どんな理由だよ、って突っ込んでみたところでここはモロッコ。っていうか、スペインでもよくあることなので驚かずに諦めるのみ。ただ、アメリカではあまりないらしく(日本でもないか)、キャリーとコータローは「ひゃー!」と仰天していた。

そうだ大きなホテルなら両替してくれるだろうと、再びタクシーに乗って向かった高級ホテルでは、「宿泊のお客様以外は、」と断られる。ならぬことはならぬのだ。それにしても……と困っていると、「新市街のシェラトン・ホテルなら両替してくれますよ」とアドバイスをしてくれる。礼を言って三たびタクシーに乗り、シェラトン・ホテルへ。

「そんなことはできません」。シェラトン・ホテルであっさりそう言われた。あいたー。ここでも事態はまだ「ならぬ」のだった。「新市街の銀行は?」「今日は全部閉まってます」「じゃあどこでできましょうぞ?」「トラベル・エージェンシーならできますよ」。その場所と名前を地図に書き込んでもらい、またタクシーに乗る。4度目か。

このタクシーのお兄ちゃんがいい人で、事情を知ると「それならタバコ屋でできるよ」と、わりと強引に街角のキオスクのところで降ろされる。いや、あの、トラベル・エージェンシーにさぁ……。見上げるとたしかにキオスクに両替の看板は出ているが、路上だし、なんかコミッションとか多めに取られそうで、不安。どうしよーう、と、途方に暮れかけたとき、隣に銀行の窓口を発見。

その両替用の小さな窓口は、むろん、閉まっている。半分やけになりつつ「エクスキューズ・ミー! ペルドーン!」とか言いながら、窓ガラスをドンドン叩いてみた。と、奥のドアが開いて男が顔を出し、なんだか指で建物の隣のドアを示す。いぶかしく思いながらもそこで待っていると、ドアが開いて、「両替? じゃ、中へどうぞ」と入れてくれた。んー、どーいうことー?

警戒しながら入る。中には男が4人。二人は小さな机の上の小さな金庫の中の現金を数えているところで、残る二人はその隣に立ってなんやら楽しそうに喋っている。そのうち、その二人はコーラを片手に、笑いながら消えてしまった。なんか、ただの友達が立ち寄ったっぽい雰囲気だった。えー、銀行なのにー? っていうか、だいたい土曜なのに開いてるの? 裏口営業??? たしかに裏口から入ったけどさ……。謎が謎を呼ぶ。

ただ、肝心の両替は、正規のレートで、下一桁まできっちりとやってくれた。おかしかったのは、ユーロ紙幣はノーチェックだったが、米ドル紙幣は紙も破けよとばかりにゴシゴシ擦ってチェックしたこと。偽札が多いのだろうか? ともかく、無事に両替ができて一安心。なるときはなるのさ。そう考えればモロッコよいところ。外に出ると、10時半になっていた。

教訓:両替は平日のうちに。


今日の最大の目的は、タンネリを見ること。これは革をなめし、染色するという工程をやっているところ。モロッコ土産として有名な革製品が作られるところを、見られるのだ。

スークの中は、イスラム教徒の祈りの日であった昨日(金曜日)とうって変わって、狭い通路にぎっしりと、まるで「ドロドロ血液」の映像のように人が澱みつつ、辛うじて少しずつ動いている状態。それでも私たちをいつしか自称ガイドさんたちが取り囲み、「ガイド、タカクナイ、ガイド、タカクナイ」と、悪夢のようにしつこく口々に囁く。袖を引っ張られるのなんて当たり前。

旅の始まりだったマラケシュでは、4年前から政府の観光政策の一環として強引な客引きは逮捕するようになったと言っていたこともあって、味気ないほど客引きがいなかったけど、ここフェズは取締りが緩いのか、たまたまなのか。とにかくはじめて、キャリーとコータローが「モロッコの客引きはすごいぞ!」と言っていたのの一端を感じることができた。

ちなみに二人は10年前、ホテルの宿泊カードに記入した内容が数時間後には外の客引きみんなに知れ渡っていた、という恐怖の体験もしている。ということで、私も念のため、職業欄には「空手家」と書いておいたのだが、今回はそんな目には遭わずに済んだ。モロッコ、観光しやすくなっているのかもしれない。これでも充分に。


さて、タンネリ。なんせスークは迷路のようなので、ガイドなしに歩くのはたしかにやや困難。そこで、タンネリらしい方面へ行くツアーの尻尾にくっついて進むことにする。案の定、しばらく進んだ後、革製品屋に入っていった。ツアーガイドが、一人ひとりにミントの葉を渡している。そこで私たちに気づき、「あんたら、うちのツアーと違うね?」とかなんか言った。でもよく解らなかったのでニコニコしていると、「まぁ、いいや」みたいな感じで、私たちにもミントを手渡して中へ入れてくれた。なるときには、なるもんす。

店の中は、カラフルな革製品がぎっしり。ただ、ものすごく臭い。ここでやっと、ミントを手渡された意味がわかった。緑の葉を鼻の穴に当てながら、奥に進む。そこは一面がベランダになっていて、眼下で行われている革の染色作業を見ることができるようになっている。

ものすごく印象的な光景だった。白っぽいフェズの街並が一段低くなっているところに、石に穿った穴が染料を満々と湛えてズラリと並んでいて、人間はその縁をひょいひょいと渡りながら作業をしている。味噌や醤油の樽が並んだのに似ているといえば似ているか。それにしても、なんという臭い。生理的になかなか受け付けないこの臭いは、原料となる羊の皮の腐敗臭なのだとか。うえーと思いつつ、バカヤロ俺も羊革の財布とか使ってたべよ、と、しみるような酸い空気の中で、目をしっかと開けて見た。こういうこと考えついたの、人間なんだよなぁ。人間の臭いでもあるわけだ、とかなんとか。

外に出たとき、ミントは萎れていた。


さてさて、お昼は元気に広場のカフェで、日本人でも大きめの私の顔くらいのサイズはあるピタパンを二つ切りにしたものに、トマトやジャガイモや卵と、チキン・ブロシェットやケフタ(挽肉)を挟んだものに喰らいつく。なんの変哲もないコカ・コーラも、そろそろ見納めかと思うと寂しくて、パチリ。

さて、最後の午後も元気に……、と思ったところで、急に気分が悪くなった。アラアラ、と思っているうちに、なんだかグラグラしてきた。しかも、どっと変な汗をかきはじめている。こいつはいかん、と、最後の市内散策を諦めて、私はホテルに戻ってお休みすることに。ホテルに戻る途中、ちょっと悔しくて泣けてきた。あーあ、これからタジン鍋、自分へのお土産に買うつもりだったのになー!

HOTEL DATA:
HOTEL BATHA
PLACE BATHA
1 DOBLE ROOM & 1 SINGLE ROOM + 2 night's dinners 1545DH

 

−…つづく

 

番外編:もろモロッコ!(12)


 
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