第5回: 読点の戦略
更新日2002/04/26
読点とは"、"です。ひとつの文が長くなってしまったときに、文章を読みやすくするためにつかいます。
・東京に本社を置くスカイマークエアラインズはボーイング767-300型機を導入し羽田空港と鹿児島を結ぶ新路線を4月18日から一日あたり3往復で運行する。
この文を初めから最後まで、同じスピードで黙読する人は少ないはずです。ほと んどの方は"導入し"で目を止めて、脳で意味を確認してから"4月18日"以降を読み進めるでしょう。
・東京に本社を置くスカイマークエアラインズはボーイング767-300型機を導入し 、羽田空港と鹿児島を結ぶ新路線を4月18日から一日あたり3往復で運行する。
音読する場合は"エアラインズは"で止め、"導入し"で止め、"新路線を"で止めます。そうしないと息が続きません。
・東京に本社を置くスカイマークエアラインズは、ボーイング767-300型機を導入し、羽田空港と鹿児島を結ぶ新路線を、4月18日から一日あたり3往復で運行する。
ここで気を付けたいポイントは、"黙読と音読のリズムの違い"です。目のリズムと口のリズムは違います。人間は呼吸するため、話し言葉は"ひと呼吸"で区切る習慣があります。このリズムに聞きなれているから、聞くリズムも"ひと呼吸"になるわけです。これは第3回の"聞くリズム、読むリズム"と合わせて考えると
、言葉には"五七五"のリズムが合って、その次の段階で"呼吸"のリズムがあります。
しかしこのリズムで書くと"文章がコマ切れになった"という印象を持ちます。"読むリズム"では、読点を打たれたひとまとまりの言葉を独立して捕らえるため、読み取った言葉が記憶の中で分離されたままになるからです。意味を理解するとき、読み手は分離された言葉をひとつに結びつける作業を行っています。
つまり 、読点を打つほど、理解する手間が増えてしまいます。読点がひとつもない長い文はとても読みにくい。しかし、読点が多いほど読みにくくなります。
・東京に、本社を、置く、スカイマークエアラインズは、ボーイング767-300型機を、導入し、羽田空港と、鹿児島を、結ぶ、新路線を、4月18日から、一日あたり、3往復で、運行する。
このように、ほとんどの文節に読点が入るとたいへん読みにくくなります。ひとつひとつの単語をバラバラに捉えて、全体の文の内容が把握しにくくなるからです。それに加えて、本来の文の切れ目が不明確になります。
掲示板やメールで読点の多い文をよく見かけます。書き手が書く内容をまとまらないうちに書き始めてしまうからです。書きながら考える。手を休める。文が切れた気がする。読点を打っておこう、となるわけです。
読点を打つには戦略が必要です。単なる区切りや軽い休憩のつもりで乱発してはいけません。なるべく読点を打たないで済ませたい。しかし、どうしてもここだけは読点を打たないと読みにくい。そんなとき、慎重に一筆入魂のつもりで打ちましょう。私はひとつの文にひとつ、多くてもふたつしか打ちません。どうしても読点が3つも4つも必要になってしまう場合は、文そのものが長いと考えて
ください。
・東京に本社を置くスカイマークエアラインズは、ボーイング767-300型機を導入する。同社は羽田空港と鹿児島を結ぶ新路線を新設した。運行開始は4月18日から、一日あたり3往復だ。
同じ文を3つの文に分離しました。このほうが読点で切り刻むよりも意味がわかりやすくなります。
読点の戦略には"あえて読点を使わない"というテクニックもあります。たかが点ひとつ、されど点ひとつ。こんな細かいところにも気配りができる。それがプロのライターと趣味で書く人の違いです。
→ 第6回:漢字とカタカナの落とし穴