第9回: "冗長表現"が文章を殺す
ボクシング選手の身体作りは過酷です。ロードワークを繰り返し、身体から余分な脂肪を削ぎ落とし、戦うために必要な筋肉を残します。その精神は、売るための文章を書く心構えにも通じます。
何度も推敲を繰り返し、余分な言葉を削ぎ落として、メッセージをわかりやすく伝えるための言葉だけを残します。こうして作られた文章は、漫然と言葉を並べた文章に比較して、圧倒的な"強さ"を持ちます。
さて、今回も悪い見本からご紹介します。
A
杉山さんの新居にお邪魔しました。薔薇を描いたイギリス庭園風の瀟洒な門がステキです。その門を開いて玄関を開けます。案内されて廊下を歩くと、リビングにつきあたります。しかし、お料理を作るためのキッチンがありません。実は杉山さん宅のキッチンと食事をするためのダイニングは2階にあります。
Aの文にどんな印象を持ちましたか? ごく普通の文章だと思う人は、残念ながらテキストを商品にできません。テキストのセンスがある人は、"だらだらとした文だなあ"、"イライラする"と感じるはずです。
私ならこれだけの欠点を指摘します。
1. 最初の"門が"までの形容詞が長すぎる。
2. "開いて"、"開く"という動詞の重複。
"瀟洒な"、"ステキ"という形容詞の意味の重複。
3. "案内されて"は必要か?
4. "お料理を作るための"は不要。
キッチン=料理をするところ。
"食事をするためのダイニング"も同じ。
5. キッチンという単語が近くてクドイ。
贅肉がついた文章はもろいものです。メッセージが余分な言葉に埋もれてしまうため、印象が薄くなります。文章量が多い。しかし得られる知識が少ない。その結果として、読んでいるうちに疲れます。私は、情報量につりあわないような長い文章を"冗長表現"と呼んでいます。
ライターは、表現する場所として限られたスペースしか与えられません。なぜなら、雑誌やカタログは視覚的なデザインを重視するからです。広告の分野はもっと厳格で、文字は少なく、情報は多く。これが最上とされています。そんな小さなスペースで、読者や広告主に要求される情報をすべて表現する。これがプロのライターの仕事です。
さて、あなたはAの"悪い見本"をどのように直しますか?
私の修正例は次回で紹介します。
→ 第10回:さらば、冗長表現