■感性工学的テキスト商品学~書き言葉のマーケティング

杉山淳一
(すぎやま・じゅんいち)


1967年生まれ。信州大学経済学部卒業。株式会社アスキーにて7年間に渡りコンピュータ雑誌の広告営業を担当した後、'96年よりフリーライターとなる。PCゲーム、オンラインソフトの評価、大手PCメーカーのカタログ等で活躍中。

第1回:感性工学とテキスト
第2回:英語教育が壊した日本語
第3回:聞くリズム、読むリズム
第4回:話し言葉を追放せよ
第5回:読点の戦略
第6回:漢字とカタカナの落とし穴
第7回: カッコわるい
第8回: 文末に変化を
第9回: "冗長表現"が文章を殺す
第10回:さらば、冗長表現
第11回:個性なんかイラナイ!

■更新予定日:隔週木曜日

 

第9回: "冗長表現"が文章を殺す

更新日2002/06/27


ボクシング選手の身体作りは過酷です。ロードワークを繰り返し、身体から余分な脂肪を削ぎ落とし、戦うために必要な筋肉を残します。その精神は、売るための文章を書く心構えにも通じます。

何度も推敲を繰り返し、余分な言葉を削ぎ落として、メッセージをわかりやすく伝えるための言葉だけを残します。こうして作られた文章は、漫然と言葉を並べた文章に比較して、圧倒的な"強さ"を持ちます。

さて、今回も悪い見本からご紹介します。


杉山さんの新居にお邪魔しました。薔薇を描いたイギリス庭園風の瀟洒な門がステキです。その門を開いて玄関を開けます。案内されて廊下を歩くと、リビングにつきあたります。しかし、お料理を作るためのキッチンがありません。実は杉山さん宅のキッチンと食事をするためのダイニングは2階にあります。

の文にどんな印象を持ちましたか? ごく普通の文章だと思う人は、残念ながらテキストを商品にできません。テキストのセンスがある人は、"だらだらとした文だなあ"、"イライラする"と感じるはずです。

私ならこれだけの欠点を指摘します。

1. 最初の"門が"までの形容詞が長すぎる。

2. "開いて"、"開く"という動詞の重複。
  "瀟洒な"、"ステキ"という形容詞の意味の重複。

3. "案内されて"は必要か?

4. "お料理を作るための"は不要。
  キッチン=料理をするところ。
  "食事をするためのダイニング"も同じ。

5. キッチンという単語が近くてクドイ。

贅肉がついた文章はもろいものです。メッセージが余分な言葉に埋もれてしまうため、印象が薄くなります。文章量が多い。しかし得られる知識が少ない。その結果として、読んでいるうちに疲れます。私は、情報量につりあわないような長い文章を"冗長表現"と呼んでいます。

ライターは、表現する場所として限られたスペースしか与えられません。なぜなら、雑誌やカタログは視覚的なデザインを重視するからです。広告の分野はもっと厳格で、文字は少なく、情報は多く。これが最上とされています。そんな小さなスペースで、読者や広告主に要求される情報をすべて表現する。これがプロのライターの仕事です。

さて、あなたはの"悪い見本"をどのように直しますか? 

私の修正例は次回で紹介します。

 

→ 第10回:さらば、冗長表現