第6回: 漢字とカタカナの落とし穴
ライターの文章は"誰が読んでも理解できる"が基本です。難しそうな文は売り物としては失格です。しかし、"誰が読んでも"とはあいまいな表現ですね。私たちの社会には幼児から高齢者までさまざまな人がいます。誰でも読めるには、すべて"ひらがな"にすべきでしょうか?
実はこの"誰でも"には基準があります。その基準とは"中学校卒業"です。つまり、義務教育を終了した人なら誰でも読める文章がベストというわけです。中学生、小学生以下の子供は読めなくてもいい、という意味ではありません。義務教育を受けている人のそばには、教育を施す人がいます。その人が読んであげればいい、という考えかたです。
それでは"誰でも読めるわかりやすい文章"を書くためのヒントを紹介します。
●漢字を多用しない。
ワープロを使って文章を書くときに、もっとも陥りやすい書きかたです。ワープロを使うと、辞書を引かなくても簡単に漢字を呼び出せます。たしかに漢字をたくさん使うと内容が濃いように思えます。私たちは学校で"ひらがな、カタカナ、漢字"の順に学びました。だから、"ひらがなよりも漢字のほうが上級"とか、"漢字が多いほうが知的に見える"、"ひらがなばかりだと幼稚"と思いがちです。
しかし、ライターはなるべく漢字を使わないように心がけます。なぜなら、漢字がたくさん入った文は難しそうに見えるからです。ライターは"わかりやすい文章"を書く仕事です。"難しそうな文章"は、ライターの本文に反する仕事です。
漢字を多用しない理由はもうひとつあります。それは、"音読み"と"訓読み"です。音読みは漢字とともに大陸から伝わってきた読みかたです。訓読みは、漢字の意味を元に、日本に元からある言葉を当てた読みかたです。
この漢字に日本の言葉を当てる読みかたについて、ライターはなるべくひらがなを使います。なぜなら、漢字がもともと持っている意味に、言葉が引きづられてしまうからです。この文章では何度も"読みかた"と書いています。"読み方"とは書きません。なぜなら"方"という漢字には"方向"という意味が強いからです。
漢字を使うときは、もともと書こうと意図した意味が壊れないように注意しましょう。ここでも"使うとき"という言葉に"時"をつかいません。
また、間違った"当て字"も使わないでください。
食べて見る。走って見る。触って見る。
はまちがい。
食べてみる。走ってみる。触ってみる。
が正解です。
この場合の"みる"は試すと言う意味で、"目で確認する"という意味はありません。
●一般的ではないカタカナ用語は避ける。
漢字の使いかたと同じように、カタカナの使いかたにも気を配りましょう。カタカナは外来語や擬態語、擬音語に使用する。これが大原則です。カタカナはかなり特殊な用途に使う文字です。
したがって、文章にカタカナがあるだけで、十分に目立ちます。ホテル、ホームラン、クレジットカードなど、名詞としてカタカナが定着している場合はなにも問題はありません。しかし、形容詞や概念を示す言葉で使うときは、カタカナを使うべきかどうか吟味しましょう。
たとえば、
コンサバディブな結婚観
という表記よりも
保守的な結婚観
のほうが的確に意味を使えます。コンサバティブというカタカナ用語を使うと、何か新しい価値観であると勘違いされる可能性があります。もちろん意味としては正反対です。
同じように
シックな装い
も、シックと言う言葉をきちんと理解しないと、"クラシック"の"シック"だと誤解され、"古風な"というイメージに誤解されるかもしれません。
洗練された装い
のほうが適切です。
"カタカナ言葉など、いまでは誰でも知っている。誤解するほうが悪い"、と思うかもかも知れません。しかし、カタカナ言葉よりも適切な日本語があるなら、日本語を使うべきです。
ライターにとって"誤解するほうが悪い"という言い訳は禁じ手です。ライターは正しく理解される言葉を使う職業です。"誤解されるような言葉を使う"ことは、テキストと商品の"欠陥"となります。
漢字やカタカナは薬のようなものです。効果的に使えば的確に意味を伝えられます。しかし、使いかたを誤ると効き目がなくなり、副作用さえ起こします。用法、用量を守って正しく使いましょう。
→ 第7回: カッコわるい