第10回: さらば、冗長表現
音楽の分野に"絶対音感"という言葉があります。絶対音感を持つ人は、生活音の音程がわかるそうです。生活音が不協和音を起こすと耐えられなくなる。それと同じように、文章校正の達人は"絶対文感"のような感覚を持っています。私も少しはその感覚を持っているかもしれません。もっとも、自分の文章を読むと、その感覚の薄さに泣きたくなります(笑)。
それでは、前回の"悪い見本"を直しましょう。
B
杉山さんの新居にお邪魔しました。門に薔薇が描かれています。まるでイギリス庭園の入り口のようです。その門に続いて玄関を開けます。廊下のつきあたりにリビング。しかし、お台所はありません。実は、ダイニング&キッチンは2階にあります。
修正した理由は次のとおりです。
1 "門が"という主語の前の形容詞はひとつ程度にとどめる。
形容詞が多い時はそれだけでひとつの文にする。
2 同じ意味の動詞、形容詞がふたつある文はまとめる。
3 "案内されて"は家の紹介には関係ないので削除。
事実であっても、意味を伝える上で不要な言葉は使わない。
4 キッチン、ダイニングなど、意味が通じる言葉は説明しない。
5 カタカナは視覚的に強いイメージがある。同じ意味の日本語に変
更。
さて、2、4、5、6の共通の指摘は"重複"です。冗長表現の最大の原因は"単語や意味の重複"にあります。
たとえば、
●……と何度も繰り返した。
繰り返すことは何度も行うことです。
●運転するドライバーは……
ドライバーは運転する人です。あたりまえです。でも、"運転しないドライバーは……"という表現はアリです。読者の関心を引くチカラがあるからです。
●この塾で学ぶ生徒だちは……
生徒が塾で学ぶ、これもあたりまえです。わざわざ書く価値はありません。"この塾の生徒は……"で足ります。
これはもっとも誤用しやすい言葉づかいです。文章のすわりが悪いと、無意識のうちに語呂合わせの言葉を捜します。しかし、語彙の少ない人は同じ意味の言葉をくっつけて、無駄な言葉を増やします。"言葉のリズム"を会得した人が陥りやすい罠といってもいいでしょう。
言葉で安易な選択をする。それは文章という商品の仕上げをサボることです。怠けていると、身体だけではなく、文章も贅肉がついてしまいますよ。
→ 第11回:個性なんかイラナイ!