■感性工学的テキスト商品学~書き言葉のマーケティング

杉山淳一
(すぎやま・じゅんいち)


1967年生まれ。信州大学経済学部卒業。株式会社アスキーにて7年間に渡りコンピュータ雑誌の広告営業を担当した後、'96年よりフリーライターとなる。PCゲーム、オンラインソフトの評価、大手PCメーカーのカタログ等で活躍中。


第1回:感性工学とテキスト
第2回:英語教育が壊した日本語
第3回:聞くリズム、読むリズム
第4回:話し言葉を追放せよ
第5回:読点の戦略
第6回:漢字とカタカナの落とし穴
第7回: カッコわるい
第8回: 文末に変化を
第9回: "冗長表現"が文章を殺す
第10回:さらば、冗長表現
第11回:個性なんかイラナイ!

■更新予定日:隔週木曜日

 

第10回: さらば、冗長表現

更新日2002/07/11


音楽の分野に"絶対音感"という言葉があります。絶対音感を持つ人は、生活音の音程がわかるそうです。生活音が不協和音を起こすと耐えられなくなる。それと同じように、文章校正の達人は"絶対文感"のような感覚を持っています。私も少しはその感覚を持っているかもしれません。もっとも、自分の文章を読むと、その感覚の薄さに泣きたくなります(笑)。

それでは、前回の"悪い見本"を直しましょう。


杉山さんの新居にお邪魔しました。門に薔薇が描かれています。まるでイギリス庭園の入り口のようです。その門に続いて玄関を開けます。廊下のつきあたりにリビング。しかし、お台所はありません。実は、ダイニング&キッチンは2階にあります。

修正した理由は次のとおりです。

1 "門が"という主語の前の形容詞はひとつ程度にとどめる。
  形容詞が多い時はそれだけでひとつの文にする。

2 同じ意味の動詞、形容詞がふたつある文はまとめる。

3 "案内されて"は家の紹介には関係ないので削除。
事実であっても、意味を伝える上で不要な言葉は使わない。

4 キッチン、ダイニングなど、意味が通じる言葉は説明しない。

5 カタカナは視覚的に強いイメージがある。同じ意味の日本語に変
更。

さて、2、4、5、6の共通の指摘は"重複"です。冗長表現の最大の原因は"単語や意味の重複"にあります。

たとえば、

●……と何度も繰り返した。
 繰り返すことは何度も行うことです。

●運転するドライバーは……
 ドライバーは運転する人です。あたりまえです。でも、"運転しないドライバーは……"という表現はアリです。読者の関心を引くチカラがあるからです。

●この塾で学ぶ生徒だちは……
 生徒が塾で学ぶ、これもあたりまえです。わざわざ書く価値はありません。"この塾の生徒は……"で足ります。

これはもっとも誤用しやすい言葉づかいです。文章のすわりが悪いと、無意識のうちに語呂合わせの言葉を捜します。しかし、語彙の少ない人は同じ意味の言葉をくっつけて、無駄な言葉を増やします。"言葉のリズム"を会得した人が陥りやすい罠といってもいいでしょう。

言葉で安易な選択をする。それは文章という商品の仕上げをサボることです。怠けていると、身体だけではなく、文章も贅肉がついてしまいますよ。

 

→ 第11回:個性なんかイラナイ!