第12回: 体言止めは投げやりの証拠
テレビニュースや新聞記事で気になる表現があります。テレビニュースや新聞記事で気になる表現があります。たとえば先日、新聞に市営プールのプール開きの記事が掲載されていました。
プールの安全指導を担当する杉山さんは、「ぜひ、たくさんの子供たちに来ていただければ」と話しています。
"来ていただければ"のあとはなんでしょうか? このニュースは、明るい、楽しい雰囲気で伝える情報です。だから、来ていただければ"うれしい"でしょうね。"やりがいがあります"かもしれませんね。でも、もしかしたら心の中では"めんどくさい"かもしれません。"ひっぱたいてやりたい"なんて思っているような指導員では困りますね。
牧場体験学習の模様を伝える記事で、牧場のオーナーが"子供たちに新鮮なミルクを味わっていただけたら"と語ります。味わっていただけたら"うれしい"ですか。ほんとうは"商売上がったりだ"なんて思っているかもしれません。もしかして"毒見役の代わりになるなぁ"だったら嫌ですね。"たら"や"れば"、で終わる文章は、とても気になります。ほんとうに善意を伝えたいニュースなら、はっきり最後まで書いて、きちんと意味を"確定"してください。
日本は義務教育が行き届き、文盲率がとても低い。だから、このような文章はたいてい書き手の意図どおりに読んでもらえます。でも、"うれしい"とか、"ありがたい"とか、良い意味の言葉まで省略してしまう記事は感心しません。新聞記事の場合は文字数が限られています。でも、よく見てください。"たら"、"れば"を使っても、最後の行が3文字程度で終わっている記事がいくらでもあります。つまり、やむにやまれず文章を削ったため、"たら"、"れば"で止めたようにはみえません。"たら"、"れば"で止めてしまう文章が習慣になっているだけです。良い言葉はハッキリ書きましょう。
文末を省略しないできちんと書く。これも商品としての文章制作には大切な心がけです。無意識に末尾を省略する人は、文末の言葉で意味や印象を高める、という技術を知らないと思われます。言葉を大切にしない人だな、と思います。
ついつい、文末を省略して書いてしまう。その癖はこのさい、徹底的に直しましょう。もうひとつ、文末の省略で気を付けたい書き方があります。
それは"体言止め"です。
"体言止め"の"体言"とは"名詞"です。つまり"体言止め"とは、名詞で終わる文章。読者に対して、とても投げやりな印象を与えます。
はい、上の文でさっそく"体言止め"を使ってみました。"体言止めで終わる文章。"なんだか、とつぜん放り出されたような印象があります。
次に修正した文章を挙げますので、読み比べてみてください。
"体言止め"の"体言"とは"名詞"です。つまり"体言止め"とは、名詞で終わる文章です。読者に対して、とても投げやりな印象を与えます。
どうでしょうか。"です"と、たった2文字を加えただけで、とても優しい印象になりますね。実は"体言止め"は、名詞の意味を強める効果があります。主に短歌や詩で使うテクニックです。そこで、単語の意味を強めたい"見だし"や"タイトル"で使うと効果があります。しかし、文章の中で使うと違和感が出てきます。意味が強すぎてしまうからです。日常会話でも気を付けたほうがいいですよ。
先生 「君の故郷はどこですか」
生徒A「東京」
生徒B「東京です」
どちらの生徒のほうに好感を持てますか?
→ 第13回:主語と述語のオイシイ関係