第687回:七福神の道 - 烏山線 -
烏山線のキハ40形ディーゼルカーはロングシートだった。キハ40といえばローカル線の旅の友。クロスシートに座って足を投げ出し、窓を開けて風を受ける。そんなイメージだったけれど、オールロングシート車があった。烏山線は通勤通学時間帯に混雑するらしい。製造番号は1004だ。1000番台がロングシート改造車らしい。車内は便所も撤去されて室内は広々としている。前後の中央、窓側にあるはずの煙突もなく、空いた場所に消火器とゴミ箱がある。ディーゼルエンジンだから排気は必要なはずで、天井と壁の境目にダクトカバーが横たわり、客室を広くするために工夫している。
キハ40形「大黒天」号
ギュルルルとエンジン音が高鳴り、列車が走り出す。いったん東北本線に沿って北へ向かい、右へ逸れていく。森に入るかと思ったらすぐに通り抜けた。この木々はなんだろう。道路もないから並木とは言えず、防風林だろうか。住宅地と田畑の地域を区切るように連なっている。
沿線7駅に七福神が宿る
烏山線は起点の宝積寺駅を除いて七つの駅があり、7にちなんで各駅が七福神にあやかっている。宝積寺駅の次は下野花岡駅で、寿老人の看板が掛かる。寿老人は長寿の神様。白髭のおじいさんが田植えを眺めつつおにぎりを食べている。うまい飯を食えば長生きできる。そうだろう、そうだろう。
そういえばこのディーゼルカーにも七福神のステッカーが貼り付けられていた。この車両は大黒天だ。もしかして、ディーゼルカーも7両あって、七福神を揃えているかもしれない。このディーゼルカーたちを置き換える蓄電池電車ACCUMも七福神のステッカーを貼るだろうか。まさか、そのための先行電車改装か……。
日が暮れていくにつれて、景色も色あせていく。空だけが明るさを残し、頭上は水色、地平に近くなると赤みが差す。日没後だから景色は期待できない。各駅で七福神の駅名標でも撮っておこうか。前回の乗車は1983年の9月。34年も前か。どんな景色だったろう。特に印象がなかったようで覚えていない。だから新鮮な風景のはずだけど、ずっと田園地帯が続いている。ACCUMの導入に向けてロングレール化されたようで、キハ40の走行に疾走感がある。
薄暮の車窓、アマチュアカメラマンが待機中
沿線にカメラマンが多数。やはり最後のキハ40を狙っているようだ。彼らのためにACCUMを引っ込めて、キハ40形のお別れ運転をしているか……。いや、どうもひがみっぽくていけない。景色はどんどん暗くなっていく。民家の灯り。列車を降りて散歩をすれば、夕餉の支度の匂いが漂いそうである。
福禄寿号とすれ違った
仁井田駅は布袋様、鴻野山駅は福禄寿。福禄寿は正月のお寺でいただく破魔矢に付いていたような。いや、寺のものに神は付かないか。福禄という縁起の文字が入っただけか。大金駅は大黒天。この車両と同じ農業の神様だ。大金駅と宝積寺駅は金運縁起の組み合わせでも知られている。小塙駅は恵比寿様。漁業の神様だ。滝駅は弁財天。弁財天は大金駅の方がふさわしいような。
烏山駅到着、架線下DCの姿
烏山駅は毘沙門天
烏山駅は毘沙門天。福の神。勝負の神。17時11分に着いた。駅前に食堂があって、温かそうな灯りを発する。焼き魚と白飯と味噌汁。沢庵と白菜のお新香を少し。そんな定食が似合いそうな。しかし、ここで長居をすると自宅への終電に間に合わない。残念だけど、改めてACCUMに乗ってこよう。
緑の板を立てかけた駅舎
烏山駅は平屋に大きな板を立てかけたようなデザインだ。緑の板がななめになって、黄色い棒の柱が支えている。この柱を引っこ抜くと緑の板が倒れるかもしれない。ああなるほど、鳥を捕まえる罠か。烏山駅の鳥の罠。
腕木式信号機が保存されている
プラットホームはひとつ。線路も1本。その線路の上だけ架線が張ってある。ACCUMに充電する設備だ。その下にディーゼルカーが停まっている。電化路線を走るディーゼルカーを架線下DCというけれど、これも短い架線下DC。非電化と電化の入れ替わりを象徴する眺め。ああ、関東からキハ40形が消える。これが見納め、乗り納めか。
今日は来た列車で折り返し
宝積寺駅前、電飾が点灯していた
第687回の行程地図
2017年01月08-09日の新規乗車線区
JR: 0.3Km
私鉄: 13.9Km
累計乗車線区(達成率)
JR(JNR):21,365.7Km (93.91%)
私鉄: 6,383.0km (91.89%)
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