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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第442回:地下鉄と夜行バス - 大阪市営地下鉄御堂筋線 -

更新日2012/10/04



地下鉄御堂筋線の電車はレトロな表情の10系だった。先頭車には1826という番号がある。上二桁のうち、1が10系を表し、8は形式、26が製造順であり、編成番号を示している……と思う。どの車両も末尾が26になっているからだ。そしてこの第26編成は1989年製。10系で最後に作られ、23年を経過している。ただし車内はリフォームされているようで古さを感じさせない。

御堂筋線のラインカラーは赤。もっとも目立つ色を与えられるからには主要路線である。北の地上区間には新大阪駅があるから、大阪を訪れる人が最も利用する路線かもしれない。私も大阪市営地下鉄で初めて乗った地下鉄が御堂筋線だった。勤め人の頃、大阪出張で新大阪から梅田まで。大阪出身の先輩と同行した。大阪の人は、JRで大阪駅に出るよりも、地下鉄で移動する方が習わしのようであった。


御堂筋線を踏破

その御堂筋線も、南側の区間はよそ者に縁がない区間である。第一、ここは御堂筋ではなく、あびこ筋である。御堂筋線は大阪で最も早く開通した地下鉄でありながら、全通まで長い時間を要した。当初は中心部の梅田と心斎橋を結び、続いて難波へ、そして天王寺へ延伸する時に御堂筋を外れた。これは単純な理由で、主要な街を結ぼうとしたからだろう。

そもそも当時は御堂筋線という名前はなかったらしい。単純に、地下鉄第一号路線として、利益の見込める駅を結んだに過ぎない。その延伸ルートを逆にたどり、天王寺から動物園前を過ぎ、右へ曲がって大国町。これで御堂筋線を踏破した。旅の目的がすべて終わった。

大国町の少し南から御堂筋。御堂筋の南側を通っている四つ橋線が合流する。この先、四つ橋線は御堂筋から離れるものの、通り一本隣を並んで並行する。いわば御堂筋線の混雑区間を快速運転するわけで、東京の銀座線と半蔵門線のような関係だろうか。


梅田ターミナルは広々

梅田駅に着いた。天井が高くドーム型になっていて、かなり贅沢なしつらえである。20時10分過ぎであった。上層のコンコースから電車を眺めつつ、携帯端末で飲食店を検索する。夕食は洋食、ビーフカツに決めた。地上に出て、新梅田食堂街に入った。食べ物屋がぎっしりと並び壮観である。目当ての店は見つけたけれど、面白いから路地を検分する。大阪に来るたびに1店ずつ寄ってみようかと思う。

大阪では肉といえば牛肉を指し、豚肉はブタ、鶏肉はトリまたはかしわというそうだ。関東の肉まんはこちらでは豚まんである。どうも牛肉をきっちりと格上にしたいという気質があるようだ。だから、トンカツより格上のビーフカツなる食べ物がある。

これがどうも私には馴染めない。牛肉はステーキで食べると風味があるけれど、カツレツにすると牛の旨みが揚げ油に紛れてしまう。しかし、それはほんとうに旨いビーフカツに出会わなかったからだとも思っていた。そこで、ビーフカツの名店という店に入った。昔ながらの真面目な洋食店という雰囲気であった。


美味しそうに撮れた牛カツ

カツは大きく、デミグラスソースを敷いた白い皿に盛りつけられていた。さっそく大きめに切って頬張ってみる。しかし、やはりトンカツやチキンカツより旨いとは思えなかった。多くの人が旨いという店で、どうもピンと来ない。これはもう、私とビーフカツの相性が悪いということだろう。納得した。もうビーフカツは食べない。

食堂街を出て、JRの大ガードをくぐり、左へ曲がる。きらびやかな建物は大阪駅の新駅ビル、ノースゲートであった。きらびやかなJRバスターミナルを横目に、梅田北ヤードの地下道をくぐり抜ける。そこに梅田スカイビルがあり、ウィラーエクスプレスのターミナルラウンジがある。旅の最後の乗り物は夜行バスだ。


梅田貨物駅

出発まで1時間半もあった。前回ここからバスに乗った時は、スカイビルの展望フロアに上った。今回は違う方法で時間を過ごしたい。私は道を戻って、梅田北ヤードのフェンスに取り付いた。この線路群は梅田貨物駅の移転廃止によって撤去される予定である。私にとっては、おそらく今日で見納めの風景だ。

暗闇に佇むコンテナ貨車を眺めていると、貨物列車や関空特急『はるか』が走りすぎた。手前の線路は東海道線と阪和線を結ぶ短絡線であった。ここは私もかつて上り『はるか』で通過したはず。この線路は地下化され、新駅ができるという。業績低迷という『はるか』が、ようやく大阪都心のお客さんを拾えるようになる。


貨物列車が光跡を残す

ウィラーバスターミナルに戻った。相変わらず賑わっている。かつて夜行列車で賑わった駅の待合室を想起する。若い人が多く活気がある。すらりとした美人の白人女性が、上手に箸を使って弁当を食べている。

係員の案内でバスへ。23時20分発のディズニーランド行き223便である。このバスは品川駅を経由するから、私にとって便利である。品川の路線バスターミナルは駅から遠いけれど、このバスはツアーバスだから駅前の路上で降ろしてくれる。

ウィラーエクスプレス223便の座席は新たに導入されたニュープレミアムだ。前回、ここから品川まで乗った時はスカイライナーという3列座席だった。ニュープレミアムも3列。ただしシートクッションが深く、リクライニング角度も大きい。料金はちょっと上がったような気がするけれど、これはよく眠れそうである。私はコンビニで仕入れた缶チューハイを飲んで背もたれを倒した。


ウィラーエクスプレス223便

しかし、上質なシートにも盲点があった。チェックインしたところ、最後部の2列側窓際だった。窓際は嫌いではない。夜行だからカーテンは閉じっぱなしとはいえ、隙間からこっそり外を覗ける。しかし、通路側の客がフルリクライニングして、フットレストも使ってしまうと、外に出られなくなってしまう。フットレストが足を高く上げてしまうから、跨げない。

不幸中の幸いは、ここが最後部だったことだ。午前3時ごろ、浜名湖の休憩所に着いた時、私はぐっすり眠っている人を起こさずに、背もたれのほうを乗り越えて、軽業師のように後ろから出入りした。中央部だったらこうはいかない。夜はどうせ景色が見えないから、あらかじめ通路側を指定したほうがいいようだ。


仕切りカーテンもありプライベート感が高い

次の休憩所は海老名。午前6時少し前だった。3時間とはいえ、シートが良いので眠れた。また背もたれを乗り越えて外に出る。トイレに行き、缶コーヒーを買う。自販機コーナーに「世界初 一杯毎に豆をひくコーヒー」があった。値段はほかのドリップコーーヒーの5割増しくらいか。客単価を上げるために大変な努力をしている。


早朝の海老名はバスで混雑

東名高速は空いており、新宿に定刻より少し早く到着。ほとんどのお客さんが降りた。ずっと眠っていた隣人も降りた。大したものだ。こういう人を窓際にすればいいのに、と思う。

周囲に人がいなくなり、バス後部は私だけ。堂々と窓を開けてくつろぐ。もっとも周囲の座席は寝乱れたままで、私は旅館に取り残された寝坊者のようであった。


品川駅に到着。旅の終わり

第442回の行程地図

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2012年03月25-27日の新規乗車線区
JR:265.4km
私鉄:127.2km

累計乗車線区(達成率)
JR(JNR):18,935.3km (84.22%)
私鉄: 5,866.7km (82.93%)

 

 

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

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■著書
『A列車で行こう9 公式エキスパートガイドブック』
杉山 淳一著(株式会社エンターブレイン)





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