のらり 大好評連載中   
 
■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第368回:流行り歌に寄せて No.173 「虹色の湖」~昭和42年(1967年)

更新日2019/02/28


中村晃子という人は、私は以前からずっとフランス人を連想させる雰囲気を持った人だと感じていた。目、鼻から唇にいたるまでのラインによるものなのか、あるいは全体の印象か、ブリジット・バルドーやミレーユ・ダルクに面影が似ていると思う。

フランス人であるダリダとアラン・ドロンの『あまい囁き』(原曲はイタリアのミーナとアルベルト・ルーポによる)を細川俊之とカヴァーしていたのも、その印象を強めたのかもわからない。

今回初めて知ったのだが、彼女の芸能界入りのきっかけは、高校生の時に「ミス・エールフランス・コンテスト」で準ミスに入賞したことからとのことで、あながち、私の一方的で、的外れな思い込みでもないのではという気がする。

その入賞から、昭和38年には松竹へ入社し、女優として映画界にデビューする。昭和40年から翌年にかけて、橋幸夫のヒット曲を映画化した『雨の中の二人』など、田村正和とのコンビでのシリーズが作られたが、思うように売れなかったようである。また、安藤昇の『掟』タイトルのシリーズでも、2作ほど相手役に抜擢されている。

一方で、昭和40年に『青い落葉』という曲で、歌手としてもキングレコードからレコードデビューを果たす。今回の『虹色の湖』はデビューから丸2年を費やし、7曲目にしての初めてのヒット曲である。ランキング3位まで昇りつめ、キングレコードの粘り強い歌手の育成の姿勢が功を奏した、好例であると思う。


「虹色の湖」 横井弘:作詞 小川寛興:作曲 森岡賢一郎:編曲 中村晃子:歌
 

幸せが住むという 虹色の湖

幸せに会いたくて 旅に出た私よ

ふるさとの村にある 歓びも忘れて

あてもなく呼びかけた 虹色の湖


さよならが言えないで うつむいたあの人

ふるさとの星くずも 濡れていたあの夜

それなのにただひとり ふりむきもしないで

あてもなく呼びかけた 虹色の湖


虹色の湖は まぼろしの湖

ふるさとの想い出を かみしめる私よ

帰るにはおそすぎて あの人も遠くて

泣きながら呼んでいる まぼろしの湖


骨太のビート感は、演奏の『津々美洋とオールスターズワゴン』が生み出したもの。当時GSブームの中で、一人の歌手がGS調の曲を歌う時(独りGSなどと呼ばれていた)にバッキングアップ要員として大活躍したバンドである。

コーラスはザ・エスカーヤーズ。この時代のキングレコードから出る多くの歌手のバックコーラスを務めている。

作詞・作曲は『さよならはダンスの後に』『おはなはん』(いずれも倍賞千恵子)のヒットで有名な横井弘、小川寛興のコンビである。

横井弘は、苦しい戦争体験の後、長野県下諏訪町に一家で移住し、近くの湖畔や山々を散策しながら詩作に耽ったという。伊藤久男の歌唱で有名になった『あざみの歌』は八島ヶ原湿原で作られたというが、今回の『虹色の湖』のイメージの元となったのがどの湖なのか、興味深いところである。

小川寛興が『月光仮面』『七色仮面』『鉄腕アトム』『怪傑ハリマオ』をはじめ、テレビドラマのテーマ曲作者の第一人者であることは以前にも触れたが、実に多くのジャンルをこなす人である。今回の曲も、グングンと聴く人の耳を引っ張っていく感じがとても心地よい。

さて、デビュー以来、いろいろな話題を与えてくれて、そしていつも華やかなイメージに包まれている中村晃子の姿を最近見ることができないのは、大変寂しい思いがする。今はご兄弟と習志野の豪邸にお住まいであると聞くが、また近いうちに、私たちの前に帰ってきてもらいたいと願っているのだが。

-…つづく

 

※前々回の『バラ色の雲』のご紹介の中「森岡賢一郎:作曲」とあるのは、「森岡賢一郎:編曲」の誤りでした。お詫びして訂正申し上げます。奇しくも、今回も同じ編曲者になりました。

 

 

第369回:流行り歌に寄せてNo.174「小樽のひとよ」~昭和42年(1967年)


このコラムの感想を書く

 

 

 

 


金井 和宏
(かない・かずひろ)
著者にメールを送る

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


バックナンバー

第1回:I'm a “Barman”~
第50回:遠くへ行きたい
までのバックナンバー

第51回:お国言葉について ~
第100回:フラワー・オブ・スコットランドを聴いたことがありますか
までのバックナンバー

第101回:小田実さんを偲ぶ~
第150回:私の蘇格蘭紀行(11)
までのバックナンバー


第151回:私の蘇格蘭紀行(12)
第200回:流行り歌に寄せてNo.12
までのバックナンバー


第201回:流行り歌に寄せてNo.13
第250回:流行り歌に寄せて No.60
までのバックナンバー


第251回:流行り歌に寄せて No.61
第300回:流行り歌に寄せて No.105
までのバックナンバー


第301回:流行り歌に寄せて No.106
第350回:流行り歌に寄せて No.155
までのバックナンバー


第351回:流行り歌に寄せて No.156
「僕らの町は川っぷち」~昭和42年(1967年)

第352回:流行り歌に寄せて No.157
「この広い野原いっぱい」~昭和42年(1967年)

第353回:流行り歌に寄せて No.158
「小指の想い出」~昭和42年(1967年)

第354回:流行り歌に寄せて No.159
特別篇 「森田童子の訃報に接して その1」

第355回:流行り歌に寄せて No.160
特別篇 「森田童子の訃報に接して その2」

第356回:流行り歌に寄せて No.161
「僕のマリー」~昭和42年(1967年)

第357回:流行り歌に寄せて No.162
「夜霧よ今夜も有難う」~昭和42年(1967年)

第358回:流行り歌に寄せて No.163
「花はおそかった」~昭和42年(1967年)

第359回:流行り歌に寄せて No.164
「世界の国からこんにちは」~昭和42年(1967年)
第360回:流行り歌に寄せて No.165
「ブルー・シャトウ」~昭和42年(1967年)

第361回:流行り歌に寄せて No.166
「あなたのすべてを」~昭和42年(1967年)
第362回:流行り歌に寄せて No.167
「花と小父さん」~昭和42年(1967年)

第363回:流行り歌に寄せて No.168
「真赤な太陽」~昭和42年(1967年)

第364回:流行り歌に寄せて No.169
「好きさ好きさ好きさ」~昭和42年(1967年)

第365回:流行り歌に寄せて No.170
「君に会いたい」~昭和42年(1967年)
第366回:流行り歌に寄せて No.171
「バラ色の雲」~昭和42年(1967年)

第367回:流行り歌に寄せて No.172
「新宿そだち」~昭和42年(1967年)


■更新予定日:隔週木曜日