第98回:社会保険を、少しまじめに考えてみる(1)
更新日2007/06/21
私は、今の店をオープンする前は、鉄鋼などの金属製品を扱うメーカーの管理部門で働くサラリーマンの生活を、約13年半送った。仕事がら公共機関には出入りすることが多く、都庁、区役所、税務署、労働基準監督署、警察署、消防署、社会保険事務所、公共職業安定所などに通っていた。殊に社会保険事務所へ出向く回数は圧倒的に多く、勤務期間中に諸届、相談などで400回は下らない回数、足を運んだものだった。
自分の記憶力というものがいかに心許ないものなのか、今回痛切に感じている。現役で社会保険事務をこなしていたときは、一頑張りすれば社会保険労務士になれるくらいのスキルを持って仕事をしていたつもりなのに、10年近くその業務から遠ざかると、全くと言ってよいほど、何をしていたのか失念しているのである。
今はWEBという便利なものがあるから、その関連項目を覗いてみて薄くなってしまった記憶の糸をたどってみると、少しずつ、少しずつ、思い出されてくるものがあった。そう言えばあんなことも、こんなことも行なってきたんだなあ、何だか随分懐かしいなあという気持ちになってくる。
社会保険事務というのは、一般には主として健康保険と厚生年金保険の諸々の事務のことを言い、両者の事務は基本的には連動していると言ってよい。健康保険には、健康保険組合を持つ事業所の組合健康保険と、組合を持たない事業所の政府管掌(日本政府管轄の業務としての)健康保険の二つがあって、私が勤務していたのは政府管掌健康保険の事業所だった。だから、私には組合健康保険の内容はわからない。
(ここからは結構細かい話になるので、時節がら興味のあるという方はお読みください)
社会保険事務所に提出しなければならない届書というものはかなりの数ある。まず、社員が入社、転入してきた場合、反対に退社、転出した場合、あるいは扶養者が変更になった場合は、都度届書を提出する。
入社、転入の届けの際に「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」が提出され、健康保険被保険者証(以下、健康保険証)が作られるわけだが、この時に年金手帳の基礎年金番号が明記されていないと受け付けられないし、手帳の持参が義務づけられ、慎重に照合される。もちろん、この時初めて年金手帳を持つ人には、新しい基礎年金番号が与えられることになる。
その届書には、社員の報酬月額を記入する項があって、その金額によって「標準報酬」というものが決まる。これは、社会保険庁によって決められた「健康保険・厚生年金保険の保険料額表」によって算出し、保険料の支払いを行なう。
この表は、現在のところ健康保険は、標準報酬を58,000円から1,210,000円までの1等級から47等級まで、厚生年金保険は、98,000円から620,000円までの1等級から30等級までの区分に分けている。
例えば、ある42歳の社員の交通費を含めた報酬月額が363,000円だとすると、報酬月額350,000円以上~370,000円未満に該当し、その社員の標準報酬は360,000円となる。
健康保険料・厚生年金保険料は、これに料率をかけて決定する。健康保険料は、介護保険上の取り決めで一般に、40歳未満と65歳以上は8.2%、40歳以上65歳未満は9.43%、厚生年金保険料は14.642%の料率をかけた金額を、会社と社員が折半することになる。
だから、この社員の健康保険料は33,948円で16,974円ずつの折半、厚生年金保険料は52,711.20円で26,355.60円ずつの折半である。(勤務していた頃から、1円のことなのだから小数点以下の数字ができない料率にすればよいのに、計算が面倒でしょうがない、融通が利かないなとは思っていた)
そして、報酬月額は1年に一度、会社が4、5、6月度の給与によって算出し作成する「報酬算定基礎届」の提出によって更新され、保険料額を変更していく。この届書の提出の際には、給料台帳、出勤簿、勤怠管理表なども併せて持参し、社員一人ひとりの報酬と保険料額が適正かどうかを、社会保険事務所の職員が厳格にチェックをする。(また、保険料額表2等級以上の大きな報酬の昇降があった際は、都度「報酬月額変更届」を提出し、随時報酬と保険料額との適正化を図っている)
また、事業所が賞与を支払ったときには「賞与支払い届」を提出し、その金額に応じて特別保険料を支払うことになる。その他にも、健康保険証や年金手帳をなくしてしまったり、破ってしまったりしたときなどにも提出する書類があって、管理体制は整っている。
さらに、社会保険事務所は、所轄内各会社の業務調査を行ない、社会保険事務全般が正しく行なわれているかどうかを調べるのだが、会社側からすれば、4、5年に一度は必ずこの厳しい調査を受けることになる。
ある人が入社し、保険料が決定され、それを支払い、年を追うごとにその保険料を更新し、転職などによって新たに保険料が決定し支払い、また年を追うごとにその保険料が更新し・・・ということが連綿と続いていく。
社会保険庁は、それらの記録を年金で言えば「年金加入記録」として残していくことになる。今、世の中で大きな問題となっているのが、この台帳についてのことだ。
今回はとても七面倒くさい数字や事務のことを書いたが、これは次回で私なりに社会保険について考えていることを書いてみたいと思っているからである。そのために大雑把な仕組みについて触れてみた。
そして基本的には、どこの会社も社会保険事務所も、厳しい管理体制の中できちっと事務を行ない、適正な保険料を支払い、保管しているものであることを言っておきたかったのである。
-…つづく
第99回:社会保険を、少しまじめに考えてみる(2)