■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)



中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。




第1回~第50回まで

第51回:スポーツ・イベントの宣伝効果
第52回:国家の品格 その1
第53回:国家の品格 その2
第54回:国家の品格 その3
第55回:国家の品格 その4
第56回:人はいかに死ぬのか
第57回:人はいかに死ぬのか~その2
第58回:ガンをつける
第59回:死んでいく言語
第60回:アメリカの貧富の差
第61回:アメリカの母の日
第62回:アメリカの卒業式
第63回:ミャンマーと日本は同類項?
第64回:ミャンマーと民主主義の輸入
第65回:日本赤毛布旅行
第66回:日本赤毛布旅行 その2
第67回:日本赤毛布旅行 その3
第68回:スポーツ・ファッション
第69回:スペリング・ビー(Spelling Bee)
第70回:宗教大国アメリカ
第71回:独立記念日と打ち上げ花火
第72回:ティーンエイジャーのベビーブーム
第73回:アメリカで一番有名な日本人
第77回:ロパクってなんのこと?
第78回:派手な政治ショーと選挙
第79回:「蟠桃賞」をご存知ですか?
第80回:日本の国際化と国際化した日本人
第81回:またまた大統領選挙
第82回:またまた大統領選挙 その2
第83回:勝海舟と700,000,000,000ドル
第84回:長生きをする秘訣は?
第85回:歴史的瞬間
第86回:日本旅行で困ったこと?
第87回:大統領選挙の怪


■更新予定日:毎週木曜日

第88回:"パーキンソンの法則"と金銭感覚

更新日2008/11/27


30年以上薄給で中学校の先生を勤め上げ、引退した私の父親は、この20年恩給で暮らしています。つつましく暮らせば飢えることはない程度の老後の生活を楽しんでいます。母がアールツアイマーだと診断され、まだ症状が軽いうち、本人が楽しめるうちに、と一生一度の大名旅行を企てました。地中海クルーズに出かけたのです。

何でも、とても豪華なクルーズだそうで、船室も最上級ではないけど、海側バルコニーが付いたスイートにし、妹たちは、お父さん、お母さん破産するんじゃないのと心配したほどの散財ぶりでした。日本流に言えば"冥土の土産"ということになるのかしら。

お土産話を聞くために電話したところ、エジプトのギゼーのピラミッドの前でお母さんが半強制的にらくだに乗せられ、50ドル請求され、すったもんだの末、2ドルしか払わなかったこと(恐らく2ドルはピラミッドらくだ業界始まって以来の最少額ではないかしら)。ローマで旅行最後の夜、トスカーナ料理(もっとも、私の両親はフィレンツエ風もナポリ風も区別できるとは思えませんが、アメリカでトスカーナが流行っているので、どこからか耳に入れたのでしょう)に出かける予定だったところ、あいにくの雨にたたられ、使い捨てのような傘がホテルの売店で5ドル相当もしたので外出をあきらめ、昼間の市内観光のときに出たランチボックスの残りをホテルの部屋で食べたと言うのです。

相当背伸びをして彼らにとって超豪華なクルーズを決め込んだのはいいけど、やはり普段の生活レベルから抜け出るコトはできなかったようです。

私たち人間にはそれぞれイメージできる数字や単位の限度があるといわれています。日頃から、物理や化学、天文学に親しんでいる人ならいざ知らず、100万分の1グラムとか何万光年の距離と言われてもピンときません。

お金に関しては"パーキンソンの法則"というのがあります。道端に1セント銅貨が落ちていても拾う人は少ないけれど、10セント、25セントになると拾う人は増え続け、1ドル、5ドル紙幣だとほとんどの人が拾います。拾うか拾わないかの境目あたりが、その人の最小関心金額ではないかと言うのです。パーキンソンは、"関心喪失点"と呼んでいます。その金額があまりに小さいか、大きすぎると関心がなくなってしまうというのが彼の理論です。

逆に最大の方は、私の意見ですが、自分のサラリーと今まで購入した最高額、車や家などの10倍くらいがせいぜい実感できる数値ではないでしょうか。銀行で働いている友人は、実際に何百万ドルの小切手を手にしたり、お札を数えていても、仕事上の数字でしかなく、数百万ドルのお金を数えた後で、お昼ご飯に2ドル99セントのマクドナルド・コンボで我慢するか、5ドルのピッツアハットにするかに影響を及ぼすことはないと言っています。

パーキンソンは、イギリスの予算委員会が扱う予算額とそれを決定する時間の関係を調べ、1,000万ポンドの原子炉建設を決定するのに2分30秒しかかからず、事務職員の駐車場を350ポンドでつくるか否かに45分かかり、福祉協会のお茶代35シリングを認めるかどうかに1時間15分かかったことを例にとり、ここから彼はパーキンソンの法則の一つ、「議会で費やす時間はその項目の金額に反比例する」を導いています。

この頃、アメリカ政府の借款、救済金、大企業の赤字の数字が余りに大きく、私たちの最大関心金額からあまりにもかけ離れているので、実感がありません。パーキンソン流に言えば最大喪失金額をはるかに超えているのです。何でも生活感覚が麻痺している時が一番ショーバイ上の儲け時、大きな商談を進めるときなんだそうです。貧乏をしている人でも結婚式や葬儀の時には普段の経済感覚からは考えられないような、大判振る舞いしたりするのがその例です。 

今、アメリカ政府が大企業にしている何兆ドルに及ぶ大判振る舞いを決定するのに要した時間は、パーキンソンの法則を当てはめると、秒単位だったのではないかしら。

 

 

第89回:アメリカ合州国大統領の犬