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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第442回:サンクスギビング~全員集合

更新日2015/12/04



日本で西欧のお祭りを祝うことは、それほど珍しいことではありません。クリスマスにしても、宗教的な意味を抜きにして、結構、パーティームードで飲み食いしますし、バレンタインデーは少しチョコレートメーカーの陰謀の匂いがしますが、すっかり日本に定着しました。もっとも、若い人や恋人同士のことだけでしょうけど…。

最近、驚いたのは"ハロウィーン"です。渋谷界隈が大仮装パーティー会場になったかのように大変な人出で、しかも皆が皆、とても奇想天外な凝ったコスチュームで闊歩しているのには驚きました。何でも取り入れ、日本的にしてしまう日本の若者エネルギーの表れとでも言ってよいでしょうか。

そのうち、日本でもスペインのパンプローナの"闘牛追い祭り(サンフェルミン祭り)" とか、"トマトぶっつけ合い祭り"が始まるかもしれませんね。

日本に馴染みがないアメリカの祝祭日は、"サンクスギビング"ではないでしょうか。元々、アメリカ移民団第一号の人々がほとんど飢え死にしかかっていたのをインディアンに助けられ、冬を凌ぎ、春に植え付けをして、その秋にインディアンを招いて収穫のお祝いをした…という伝説??に基づいた秋の収穫祭です。後に、リンカーン大統領が国の祝日に制定し、アメリカ全土に根付いたものです。

この日は七面鳥受難の日です。一体、アメリカ全土で何羽、何百万羽の七面鳥が丸焼きにされることでしょう。そして、サンクスギビングは家族が集まって、七面鳥とパンプキンパイをタラフク食べる、恐らくクリスマス以上に家族、親戚、友達が集まる祭日なのです。

今年の我が家のサンクスギビングは、シアトルからフェリーで30分ほど渡ったヴァション島の従兄弟のところで行われました。私の父と母、従兄弟の両親(私の叔父、伯母になります)も飛行機を乗り継いでやってきましたし、私たちも往復で4千数百キロのドライブをして駆けつけました。私たちのボロ車のホンダは本当によく走ってくれました。

総勢14人、私の兄弟、叔父、叔母、従兄弟、甥っ子、まあよくぞ集まってきたものです。その賑やかなこと、騒々しいこと、その後の帰り道でダンナさんと車で二人きりになっても、何か耳の裏でワーンワーンと人の声が響いていました。

西海岸に住んでいる弟、妹、それに今回サンクスギビングを主催してくれた従兄弟、そして私の高校時代からの親友とそれぞれの家を覗いてきました。甥っ子たちはともかく、弟や妹、従兄弟は引退の歳ですし、それに叔父叔母たちはとっくに老後の生活に入っています。

それにしても感心してしまうのは、それぞれ自分のライフスタイルに合った土地柄に家を持ち、地に足の着いた生き方をしていることです。退職してからの指針と言うのでしょうか、設計が実にはっきりしているのです。

そんなに具体的に何から何まで計画を立てても、本人の健康を含め、何が起こり、どう変わるか神様のみが知ることだから、余り意味がないんじゃないか…とは流れ者的なウチの仙人の言い分です。

妹はインテリアデザイナーの会社を持っていますが、それなりに斬新なデザインで、海を見下ろす丘に一見タダオ・アンドウ風の超豪華な家を建て、何から何までデザイナーモノで固め、車まで彼女の旦那さんとイタリアの高級車を色違いで2台並べています。すべてがファショナブルなのです。そして、そんな生き方を存分に楽しんでいることが伝わってきます。

従兄弟は、ヴァション島の中央部の森の中にバスが3台くらいは入るアトリエを建て、古い家を自分で修理し、改築し、「ここは、自分のほとんど理想の場所だ」と言い切るほどです。

弟はコンピューターの技師ですが、音楽が好きで、長いこと自分のジャズバンドを組織し、演奏活動を続けています。ポートランドのオーケストラにピンチヒッターとしてお声がかかることがあるそうですから、クラシックもコナセルかなりの腕なのでしょう。

彼はトロンボーン奏者です。ギターとピアノもよくします。そんな彼の家は、広大な傾斜地にあり、音楽ルームを広く取り、コンピューターは隅の小さな部屋、テレビは地下へお追いやり、自分の生き方を上手に活かした家に改築しています。

私の高校時代の親友は、航空会社で今では当たり前になったマイルを貯めてタダの切符をもらえるシステムを最初に開発したコンピューター・テクニシャンで、今も航空会社のトップクラスの偉いさんとして働いています。

ここ西海岸岸に移るまで、アメリカ的に馬鹿でかく、派手で豪華な家を持っていましたが、10年ほど前に変身し、ロケーションは最高のウォーターフロントで敷地は大きいけど、ほとんど小屋のような小さな家を買いました。

彼女はある時、もう物はいらない必要ない…と悟ったそうで、波打ち際のテラスで、ワイン片手に読書に耽るのが最上の楽しみ…そのために海を見渡す小さな家で充分…と言っていました。その小さな小屋でも、私たちの住まいに比べると宮殿並みに立派なのですが…。

打ち明けたところ、今回のサンクスギビングのついでに回った妹、弟、従兄弟の家やライフスタイルにすっかりアテラレました。彼らに比べて、私たちの家、家具、車、生活環境は赤貧洗うとまでは言いませんが、アメリカの下層階級のものだからです。格差が酷すぎます。

うちの仙人ですら、彼等の家や生活設計を見て、「オイ、俺たちゃ~、一体今まで何やてたんだ?」とつぶやいたほどです。ハナから私たちが豪華な生活や良い持ち物に憧れを持たないせいもありますが、私たちの生き方はいつも腰掛け的、一時的なのです。気楽に動ける、引越しできるスタイルなのです。

長い凍てついた高速道路を2日間ドライブして私たちの山小屋に近づき、雪に被われた森と岩山に帰ってきた時、この山裾の広さ、美しさ、静けさに鳥肌が立つほど感動している自分に気がつきました。アメリカ西海岸の大きな木々、深い森と太平洋はとても魅力的ですが、やはり、ここが私たちの土地、我が家なのです。

ウチのダンナさん、しばらく空けていた家の周りの雪かきをし、深い雪の中、盛大に積んである薪の山からリヤカーで薪を家まで運び込み、ストーブに火を点けたりしている様子は、どこか活き活きとしているように見えました。

 

 

第443回:変わりつつある米国英語

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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