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第13回:サンドクリークへの旅 その2

更新日2023/04/06

 

そんな地所に700人からのシャイアン族を押し込めたのだ。それが集団虐殺の2ヵ月前のことだ。サンドクリークは周囲に何もないところだ。いわば第三者的目撃者の存在し得ない地点だ。それに囲み込んでしまえば、インディアンどもが身を隠したり、逃げることが不可能に近い地形なのだ。 

私は確信しているのだが、サンドクリークにシャイアン族を追いやった時点で、エヴァンス知事とシヴィングトン大佐は、最初からブラック・ケトルが率いるシャイアン族の絶滅を図っていたのだと。ブラック・ケトルとの和平協定など、守る気はハナからなかったと思う。

というのは、11月の半ばにはシヴィングトン率いる第三コロラド義勇騎兵隊はデンバーを出て、フォートライアンに向かい、第一コロラド義勇騎兵隊と合流しているからだ。総勢850騎にもなった。シヴィングトンは最後まで攻撃目標を明かさなかった。ドッグソルジャーの居場所を探る斥候すら派遣していない。飢餓状態にある簡単な攻撃目標、ブラック・ケトルのシャイアン族が押し込まれているサンドクリークを襲うと決めていたとしか思えない。

私は二度、この地、サンドクリークを訪れている。二度目は昨年2022年11月29日、サンドクリークの虐殺の遭った日に訪れようとしたが、私の小屋があるロッキーの西側から雪に閉ざされた山脈を越えることができなくて、二日遅れの12月01日に現場に着いたのだった。

大きな幹線ハイウエイI−70をライモン(Limon)で国道40号を南下し、キッドカーソン村へ向かった。やはり、夕暮れ前にサンドクリークに着こうと焦っていたのだろう、田舎町を通過する時、小さな町のシェリフに注意しなければならないこと、スピード出し過ぎで、町や村を通り過ぎていく車を地元のシェリフが集中的に狙うと知っていながら、スピード違反で捕まってしまったのだ。慇懃、丁寧に対応されたにしろ、160ドルの罰金を食ったのだった。

もうその日のうちにサンドクリークに着くことは諦め、おそらく近年まれなほど古臭く、狭い朽ちかけたモーテルに泊まったのだった。それは最悪ランキングのナンバーワンに位置付けられるモーテルだった。

サンドクリークへ行くにはキッドカーソンの村から真南に下り、イーズの町から96号線を東に11マイル走り、以前確かにあったシヴィングトンという道路のサインは消えていた。そこを、今度は砂利道を真北に向かって8マイル上る。そこに国立公園歴史地域の看板があり、それと分かる。

No.13-01
サンドクリーク国立歴史的地域、サンドクリークまで後8マイルとある

この埃っぽい砂利というのか砂、土の道路を北上する。

No.13-02-1
この8マイルの砂利道に以前なかった道路標識があり、
アラパホ族の和平派酋長のホワイト・アンテロープの名前が付けらてれていた

No.13-02
一番左がアラパホ族の酋長ホワイト・アンテロープ

サンドクリークで白人騎兵隊に殺されたアラパホ族の酋長ホワイト・アンテロープ。彼が最後まで白人との和平を信じ、ティピー(インディアン式のテント)に アメリカの国旗と白旗を揚げ、部族にも白い旗を揚げさえすれば殺されることはない、抵抗はやめよと口説いたが、彼自身、武器を手にせず無抵抗のうちに殺された。

白人を信用するな、和平交渉などで停戦を約すな、決して奴らと握手などするなという過激なドッグソルジャーの主張の方が、今から鳥瞰的に観ると正しかったと思わずにいられない。

No.13-03
かつて存在していた「シヴィングトン」村のサイン 

州道96号線とホワイト・アンテロープ・ウエイの分技点に、シヴィングトンと名付けられた村があったが現存しない。恐らく虐殺の張本人であるシヴィングトンの名前を残したくないインディアンの意思、運動があってのことだろう。30年前に来たときには確かにあったはずだが、道路のサインすらなくなっていた。

残された写真を見ると、大きな家、酒場などがあり、州道96号線の町として栄えていた時代もあったのだろう。このように大きな雑貨屋、居酒屋兼レストラン、ホテルがあった。食事は20セントとある。

 

サンドクリークはすっかり様変わりしていた。20数年前に訪れたとき、小さな立て看板はあったが、どの地点に集落があり、どの方向から騎兵隊が攻め込んできたかの説明などは全くなかった。ボブ・スコット(『Blood at Sand Creek』Bob Scott著)の本を手にして、その地を歩き回った。当然だが、私のほかには誰もいなかった。

No.13-04

今では国定公園ではないが、国立公園課の元で国立歴史的地所(National Historic Site)になっていて、プレハブ、トレーラーハウスではあるが、事務所のような本部が置かれ、長い遊歩道が整備され、要所、要所に説明文のプラーク(看板)とベンチが置かれていた。

50余年前に訪れたアウシュヴィッツですら、今では公園化されたように、サンドクリークも半日ゆっくり過ごし、本部近くの木陰のベンチでサンドイッチをパクつけるように配慮されていた。もちろん、簡易トイレも設置されていた。

No.13-05
「サンドクリークの虐殺」の現場略図

-…つづく

 

 

第14回:サンドクリークへの旅 その3

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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第1回:消えゆくインディアン文化
第2回:意外に古いインディアンのアメリカ大陸移住
第3回:インディアンの社会 その1
第4回:インディアンの社会 その2
第5回:サンドクリーク前夜 その1
第6回:サンドクリーク前夜 その2
第7回:サンドクリーク前夜 その3
第8回:サンドクリーク前夜 その4
第9回:サンドクリーク前夜 その5
第10回:シヴィングトンという男 その1
第11回:シヴィングトンという男 その2
第12回:サンドクリークへの旅 その1

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