第27回:Shanghai (6)更新日2006/07/27
中国にはビザの関係もあって、半月ほどしか滞在することはできなかった。そういうわけで、とにかくのんびりとしている時間はほどんどなかった。なにしろ行きたい所は山ほどあるのだ。
特に急激な経済発展のせいもあって、今見ておかなければ次に来た時には、今とは風景が激変してしまいかねない所ばかりなのだから。そんな中でもぜひ訪れたかった場所のひとつが、東洋のベニスともいわれ2500年もの歴史を誇る古都・蘇州であった。上海駅から出る汽車に乗って、約1時間ほどで蘇州へは行くことができた。
出発前は、たった1時間余りなのだからそれほど苦労する旅とも思っていなかったのだが、その考えが甘かったこというは汽車に乗った瞬間から嫌というほど味わされることになった。そう、ここは中国なのだ。
汽車の中には外国人観光客らしき姿は一切見えず、完全にローカルな人達ばかり。みんながみんな大きな荷物を抱えていて、それらが人に当たろうが、前から居て陣取っている人がいようがお構いなしに押しのける。しかも身を動かす隙もないほどの満員電車なのに、「ガーッ、ペッ」っという大きな音とともに痰を吐き出す。
もちろん汽車の床の上にである。これだけ満員の電車の中で痰を吐き出せばどうなるかはわかりきったことなのに、そんなことにはお構いなしだった。もちろん隣にいる人の背中には、デローッと垂れる痰がべたつくことになる。そして汽車がガタゴトと揺れる度に、それが隣り合った人達の肩や背中に擦れ合うのだ。
最初にその光景を見た時は唖然としてしまったが、周りには気にしている人などいやしないかった。 もちろんそれもそのはず、何しろその彼らだってあちらこちらで「ガーッ、ペッ」なのだから。
一体なんというマナーの国なのだと憤慨するこちらの気もそっちのけで、次はもぞもぞと隣の男が何やら手を下のほうでうごめかしていた。うぬっ、痴漢かコソ泥かと思って気にはなるのだが、いかんせん余りの超満員電車であるから彼の行動は隣同士とはいえ良く見えなかった。
そうこうしているうちに、彼はその手を自分の顔の前に持ってきて、タバコに火をつけ始めるではないか。なんということだ、この満員電車では彼の吐き出す臭い息をかわすスペースすらないのだ。しかも揺れる度に火がチラチラと目の前で揺れるので、危なっかしいったらありゃあしない。
極めつけはそのタバコの灰をピッピッと弾いて、そのまんま周りの人の肩へ巻き散らす始末。「この野郎いったい何を考えてやがるんだ、火でもついたひにゃあ大惨事だぞ」と思って我慢ならずに注意すると、また例のドギツイ視線で睨み付けてくる。何度言っても聞かないので、狭いスペースながら思いっきり膝蹴りを食らわして遣ろうかと真剣に考えたほどだ。
大阪人を遥かに凌駕するずうずうしさの中華圏にあっては、これくらいでなければやっていけないのか、それとも一人っ子政策の悪弊で人のことなど一切気にしない人種が生まれてきたのかしらないが、とにかくこの汽車の旅ほど最悪な旅はそうそう体験できるものではなかった。
-…つづく
第28回:Shanghai
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