音羽 信
第13回: ボーン・イン・ザ・U.S.A.
by ブルース・スプリングスティーン
死んじまったような街で生まれ
歩き始めた途端に蹴っ飛ばされ
殴られ続けた犬みたいになっちまって
結局、今の俺にあるのは
世間から半分、隠れて生きるような人生。
U.S.A.で生まれた
俺は生まれたんだ、U.S.A.で
俺は生まれたんだ、U.S.A.で
U.S.A.で生まれたんだ。
ちっぽけな故郷の町で
どうにもこうにもいかなくなって
奴らにライフルを持たされて
国の外に放り出された。
黄色人種を殺させるために。
U.S.A.で生まれた
俺は生まれたんだ、U.S.A.で
俺は生まれたんだ、U.S.A.で
U.S.A.で生まれたんだ。
故郷に戻って製油所に行った。
雇用係が言いやがった。
私に決定権があればね、、、
で、退役軍人の面倒を見てくれるって所に行ったけど
なあ坊や、いい加減、わかるだろうに
なんて言いやがった。
俺には
ケ・サンでベトコンと戦った兄貴がいた。
戦った相手はまだ生きてるかもしれないが
兄貴はとっくの昔に死んじまった。
兄貴にはサイゴンで知り合った恋人がいた。
残されたのは
彼女の腕に抱かれた兄貴の写真だけ。
U.S.A.で生まれた
俺は生まれたんだ、U.S.A.で
俺は生まれたんだ、U.S.A.で
U.S.A.で生まれたんだ。
刑務所の横の
製油所の煙突から吹き出る炎が見える場所で
もう10年も俺は這いつくばって生きてきて
燃えカスみたいになっちまった。
U.S.A.で生まれた
俺は生まれたんだ、U.S.A.で
俺は生まれたんだ、U.S.A.で
U.S.A.で生まれたんだ。
U.S.A.で生まれた
俺は生まれたんだ、U.S.A.で
U.S.A.で生まれたんだ。
俺は今、とっくに逝っちまったも同然の
しょうもねえU.S.A.のオヤジ。
U.S.A.で生まれた。
U.S.A.で生まれたんだ。
ただ、俺は今
クールにロックするU.S.A.のオヤジ。
“Born in the U.S.A.”-Bruce Springsteen
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イビサに住み始めてすぐの頃、偶然知り合ったスペイン人と話している時、彼が、「俺は今これが大好きなんだ」とブルース・スプリングスティーンの最初の大ヒットアルバム『Born to run』のカセットを嬉しそうに見せてくれた。彼とはそれで親しくなった。ロックの素晴らしさは、歌を介して国を超え言葉を超え人種を超えて親しくなれることだ。
中学二年の時に深夜にラジオでビートルズの『プリーズ・プリーズ・ミー』を耳にし、その瞬間からロック狂いの少年になり、住んでいた北陸の田舎街ではなく、ロンドンが自分の心の街になってしまった経験を持つ私にとっては、どこに行っても、ロックこそがパスポートだった。それはその頃、ロックが世界語のようになっていて、誰の何が好きかということで通じ合う確かな何かがあったという証。
『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』は、世界中で何千万枚売れたかわからないほどのメガヒット曲だが、『Born to run』で見せた彼の快速エンジンを改造し、ターボチャージャーをダブルで搭載し、すべてを度外視して爆音で爆走するボス(The Boss)の唯一無二の、問答無用のスタイルを確立した歌。そこにはボスの覚悟のようなものが溢れ出ていた。
もちろん、たとえば『リバー』で、黒人女性のトレーシー・チャプマンとは違うけれど、しかし同じように、アメリカンドリームとは無縁なアメリカの底辺の男女の物語を男の立場から、もの悲しいトーンで切々と歌う歌を持つボスであってみれば、この歌に行き着くまでに、多くの逡巡があっただろう。
『リバー』は、ジョン・レノンが殺された1980年に発表されたが、歌の最後で「大事だと思っていたことが、いつのまにやらどこかに消えて、俺はなにもかも忘れてしまったふりをして、そしてマリーはなんにも気付かないふりをする。だけど俺は覚えてるんだ。俺たちがアニキの車に乗って、夜に二人で川に行ったことを。今でもそんな思い出が俺につきまとって離れない。まるで呪いのように俺を苦しめる。かなわなかった夢は嘘だというのか、嘘よりもっと悪いというのか」と歌ったボスの、底辺の若者の想いと常に共にあろうとするボスの心根は同じ。
けれど、『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』でボスは、内に抱いた哀しみや痛みを哀しく歌うのではなく、そんな想いのすべてを詰め込んで、とことん圧縮させた爆弾を爆発させるかのように、身も心も歌と一緒に砕け散ってしまえとばかりに歌ってみせた。そこにはもはや迷いはなく、彼の覚悟と情熱(パッション)だけがあった。パッションという言葉はもともと、死を覚悟したイエス・キリストが十字架を担いで、一歩一歩、処刑地であるゴルゴダの丘を登る、その歩みを表す言葉。
もちろんボスは大金持ちだ。けれど、ディランであれ、『アンジー』で「心には愛がなくて、コートのポケットにはお金もなくて」と歌ったミック・ジャガーであれ、表現者が富豪だったらいけないわけじゃない。
大事なのは歌であり、歌い方であり、どこからどこに向かって何を歌っているかであり、それが誰の心に、どのように突き刺さったかであり、歌い手の、歌と向かい合う心根のありようだ。大切なのは歌そのものであり、人が歌に感動できる動物だということだ。
レコードが何千万枚売れたとしても、一枚一枚のレコードは、そのレコードを手にする人の想いと共にその人のそばにある。自分のような人が世界中にはたくさんいるんだと感じられることが、時にその人を支える。だからボスはいつでも律儀に懸命に『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』を歌う。その歌に心を響かせてくれる人がいる限り、聴いてくれる人がいる限り、歌は歌われる意味がある。
たとえ100枚しか売れなかったとしても、たった一人のために創られ歌われた歌であっても、それは同じだ。
Bruce Springsteen - Born in the U.S.A. (Official Video)
https://www.youtube.com/watch?v=EPhWR4d3FJQ

ブルース・スプリングスティーン
[Bruce Springsteen;1988]
*クリックで→[ニューオリンズ公演;2012]
-…つづく