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■鐘を鳴らそう 鳴らせば鳴る鐘が、まだあるのだから~音羽信の心に触れた歌たち

更新日2025/11/27




鐘を鳴らそう

鳴らせば鳴る鐘が、まだあるのだから


~音羽信の心に触れた歌たち~


音羽 信



第14回: オン・ザ・ボーダー

        by アル・スチュアート

漁船が海に出て行く。

夕暮れの海を渡って行く。

銃や武器を密輸する船が

スペインの国境線を越えて行く。

 

風が波を打つ凄まじい音。

月がぼんやりと雲に隠れて移ろう。

積まれたライフル銃が

銀色の光を返す。

国境線の上で。

 

俺の部屋の壁の地図の色は

変わり続ける。

アフリカからの風が変化の時が来たことを伝える。

闇夜に掲げられた

いくつもの松明の灯。

農場で灯を点した人が両手を広げて

国境で待つ連中に合図を送る。

 

俺が生まれ育った村は

何も変わらないように見える。

けどそれは

毎日、少しづつ変わって行くその変化に

誰も気づかないだけのこと。

慣れ親しんだ事だって

いつの間にか消えて行く。

 

昨日の夜遅く

雨が部屋の窓ガラスを叩いた。

俺は暗い部屋の中を歩いた。

手に持つランプの火の向こう

見下ろす窓の下の道の上で

ローマ時代の百人隊の霊が

私に告げているような気がした。

俺たちはみんな

国境線の上に立っているんだと。

 

俺が生まれ育った島では

何も変わらないように見える。

けどそれは

抜け殻になってしまった貝の形が残っているだけ。

けどそこには

なんだか奇妙な気配が漂っている

そうはっきりと感じる。

 

漁船が海に出て行く。

夕暮れの海を渡って行く。

銃や武器を密輸する船が

スペインの国境線を越えて行く。

 

風が波を打つ凄まじい音。

月がぼんやりと雲に隠れて移ろう。

積みれたライフル銃が

銀色の光を返す。

国境線の上で。

 

国境線の上で。

国境線の上で。

国境線の上で。



"On the Border"-Al Stewart

 


アル・スチュアートのレコードを買ったことはない。けれど、ラジオや、イビサのブティックから流れてくる彼の歌が、なぜか気になった。『on the border』にせよ、『Year of the Cat』にせよ、1976年にリリースされたアルバムの中の、特に、この歌には不思議な物語性のようなものが漂っていて、なぜか私の琴線に触れるものがあった。その頃スペインに住んでいたからかもしれないが、歌い出してすぐに流れるスパニッシュギターの音や、何度も繰り返される「スペインの国境」という歌詞も気になった。

不思議なことに、地球上には、そんなものなどなかった広がる大地の上に、国境線という目に見えない線が引かれている。それを越えるにはパスポートがいる。例えば、私は日本の国境線の中にいる人間であって、そこから外に出ようとすれば、パスポートというものがいる。スペインに入ろうとすれば、そのパスポートに無愛想な表情の男にじろりと睨まれながら入国許可のハンコを押してもらわなければならない。なんという理不尽。頭脳警察の歌ではないけれど、つい叫びたくなる。誰が大地を汚したのかと。

例えば、バルセロナから国境を越えてフランスに行くには、国境を越えなくてはならない。いつだったか、ギュスターヴ・ドレの版画本を詰めたかなり重いスーツケースを持ってパリに行くために、スペインが誇る特急列車タルゴに乗り、寝台車で眠っていた私は、真夜中に、スペインの悪名高き特殊警察、三角帽子を被った三人のグァルディアシビルに起こされた。

まず彼らは私を貨物車両まで連れて行ってそこで尋問を始めた。「パスポートを見せろ」。次に、「このスーツケースには何が入っているんだ」。「古い本です」と答えると、「開けろ」と命令された。仕方なく開けると、くまなく中を見て、そして黙って去っていった。おとがめがなくてホッとしたが、その間、タルゴは国境で停車させられたままだった。スペインが誇る特急列車なのに。

アフリカの地図を見ると、いたるところに国境線が引かれていて、直線の国境線がたくさんある。ありえない。誰かが地図の上に定規で適当に引いた線が、国境線になってしまうというという理不尽。なんという傲慢。なんという非道。なんという横暴。そうして同じ民族の民が違う国の住民に強制的にされてしまう。それが百年もの間、あるいはもっと長く続く。国境の理不尽さは、その線を境に、異なる法律を背負わざるをえなくなることだ。どちらにいても同じ人間なのに……

「ローマ時代の百人隊」と訳した部分の歌詞には、「Century」という言葉が使われている。普通に考えれば、これはもちろん「世紀」という意味。けれど稀にそういう意味もあり、なんとなく亡霊がこちらを見つめているような気もして、あえてこうした。ただ、例えば一世紀もの間、国境によって分かたれてしまった人々の嘆きのようなものが、その言葉の向こうに漂っているような気もする。

この歌が流れていると、つい足を止めて聴いてしまう。アル・スチュアートの甘く優しく澄んだ声で歌われる、怒りや諦めや反逆にどこかで繋がる感情が静かに秘められているような不思議な歌。

 

 

Al Stewart - On The Border [Musikladen Extra Bremen,1979]
https://www.youtube.com/watch?v=5Y6hVQn-e5Y

 

No.14-01
アル・スチュアート[Al Stewart;2020]
1945年生まれ、現在80歳

…つづく

 

 

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谷口 江里也
(たにぐち・えりや)
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本や歌や建築、さらには自治体や企業のシンボリックプロジェクトなどの、広い意味での空間創造を仕事とする表現哲学詩人、ヴィジョンアーキテクト。
主な著作に『鏡の向こうのつづれ織り』『鳥たちの夜』『空間構想事始』『天才たちのスペイン』、主な建築作品に『東京銀座資生堂ビル』『ラゾーナ川崎プラザ』『レストランikra』などがある。
なお音楽作品として、シンガーソングライター音羽信の作品として、アルバム『わすれがたみ』『OTOWA SHIN 2』などがある。

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