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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第430回:秋は収穫の季節

更新日2015/09/10



私が勤めている大学のある谷間の町は、コロラド川とガニソン川が合流するという水の恩恵だけで成り立ってきたところです。川の水を利用し、網の目のように張り巡らせた灌漑用水路でかろうじて緑を保っているのです。天の恵みの雨が夏の半年間ほとんど降らず、年間の晴天日が300日以上という、準砂漠です。

ところが、そんな自然条件がとても果物栽培に適しており、ありとあらゆる果樹園があります。戦前には、日本からの移民がやってきて、立派な農園を造り上げました。今でも、日本の名前を継承した農園、果樹園がそこここにあります。

ここで有名なのは、サクランボと桃です。もともと、梨やリンゴも盛んだったのですが、商品価値として桃やネクタリン、それに最近ではワイン用のブドウに押されて、リンゴや梨の木がどんどん切り倒されて、ブドウ園に変わっています。

地元で食べる果物、野菜の味は格別です。遠くから冷房車で輸送されてきたモノに比べ、その朝、もぎたてはなんと言っても風味が違います。そして、値段も格安です。

たとえば、メロンです。日本で仰々しくご贈答用に売られているようなマスクメロンが、1個100円ほどで買えますし、桃もとろけるような美味しさのが1キロ150円くらいです。今日買ってきたスイカは、バスケットボール二つ半くらい横に並べたような大きさの長丸い、熟れきったもの、おそらく6、7キロあるでしょうけど、450円でした。この季節は、果物だけで生きていけそうです。

そして、このシーズンは収穫祭の季節でもあります。

隣の村オレッサは、トウモロコシで有名で、コーン・フェスティバルが盛大に催されます。その名も"オレッサ・スイートコーン祭り"と呼び、ロッキー山脈の西側だけでなく、デンヴァーからも物好きな人が訪れます。

アトラクションとしてはロディオ、子供のロディオで、羊にまたがって振り落とされるまでの時間を競ったりします。もちろん、トウモロコシの早食い競争、トウモロコシを使った料理のコンテスト、それに二流か三流のカントリーウエスタン、ブルースバンドが花を添えます。

オレッサ村の広場にはテント屋台が並び、その会場に入るのに、5ドルだったか6ドルだったか払うと、トウモロコシは食べ放題です。だけど、トウモロコシなんて、そんなに食べられるものではありません。それに、会場の外で、ビニール袋一杯で1ドルで売っていました。帰ってから数えてみたら14本も入っていました。

ピーチ・フェスティバル、桃祭りはこの谷の東、グランドメッサの麓の町、パラセイドで行なわれます。トウモロコシより桃のほうが少しは洗練されていて、華やかなのでしょうか、ミス・ピーチ・コンテストがあり(ミス・スイートコーンはありません)、デンヴァーからも特別仕立ての列車がパラセイドの村まで運行され、大変な賑わいを見せます。

ピーチパイのコンテスト、ピーチジャムなどの即売、それにいつものごとく、ピーチ早食い競争(これは、アメリカのどんな祭りに行っても付き物です)が行われます。バンドもカントリーウエスタンだけでなく、昔レコードを出したことがある懐メロのフォークシンガーを呼んだりしています。

メロンはロッキーフォードというメロン業界?では老舗で、全米に知られるブランドになったものがあります。スイカは隣のユタ州ですが、この町のお隣さんと言った感じのグリーンリヴァーの村がとても有名で、大きなトラックにスイカを山のように積んで、Kマートやウオルグリーンの駐車場で売っています。このスイカは楕円形というのでしょうか、ラグビーボールを3、4倍に膨らませたような長い形をしています。あまりに大きいので、私たち老人二人では持て余してしまいます。

そしてこれからですが、オクトフェス、10月祭、ブドウの収穫、ブドウを足で踏み潰しワインのためのジュースを絞るお祭りがあります。ワインの醸造は一種のブームなのでしょう、毎年新しいワイナリーが生まれ、地元にいながら、知らない銘柄が沢山出てきて、先月この町に来た従兄弟に、「これは有名なワインだぞ」と教えられる始末です。

昨年、1年間日本で暮らしましたが、交通費と食品が高いのに閉口しました。果物は毎日沢山食べるものではなくて、贅沢品なんですね。それに暑中見舞いの贈り物として、プレゼントするためのもので、市場でゴソッと買ってきて家族で食べるものではなさそうなのです。 

日本料理の目で食べる感覚が、野菜、果物にまで及び、見た目にきれいで粒が揃っていなければ商品価値がないと見なされるのでしょうか、一つひとつが見事な作品のように見えます。それにブドウの皮をいちいち剥いて食べるのは、誓ってもいいですが、日本人だけですよ。

農産物は形が揃わなくて当たり前、土が付いてるは当然、要は味です。それに値段です。この季節になると、農業国アメリカのしかも穀倉地帯の中西部に住んでいることのありがたみをヒシヒシと感じます。

同僚の先生や生徒さん、近所の人たちからどんどんトマトやキュウリ、桃、梨、ズッキーニなどの差し入れがあり、いくら果物、野菜好きな私たちでも、とても食べ切れません。今度の週末には桃は冷凍し、トマトは煮てトマトソースを作らなければ…と、うれしい悲鳴をあげています。

 

 

第431回:私たちの山歩き

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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