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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第392回:アメリカ大学事情

更新日2014/12/11



世界全体から見ればまだアメリカの大学進学率は高く、一見誰でも大学生活を楽しむことができる社会のように映ります。ところが、ところがなのです。食べ物と同じで、量より質の方が問題なのです。ジャンクフッヅばかり食べて超デブになってしまうか、少量の質の良い健康的な食べ物を摂るかで、数字に表れない違いが、それはもう絶大に出てきます。

私が働いている大学は今、期末試験の最中で、大学の事務局は生徒のストレスを減らしてあげようと(ストレスを感じるほどのテストではないのですが…)、試験勉強をしている生徒に24時間コーヒーとドーナツのサービスを始めました。その上、生徒が何時でも勉強のことを質問できるように、教授たちは電話番号を登録せよと、大学が通達してきたのです。

何という、アマエた心理でしょう。それに誰が自殺防止のホットラインじゃあるまいし、24時間、電話相談なんか受付けていられますか。まるで赤ちゃんを泣かせないためにオシャブリを与え、アヤシテいるのと同じです。

アメリカの大学は程度の差こそあれ、お金儲けのための手段になっていく傾向があります。生徒は大学で厳しいトレーニングを受け、勉学に励むのではなく、社会に出るまでの4年間の執行猶予を楽しむために来る、大切なお客さん扱いなのです。

私は勉強しない生徒は落とす方針で通してきましたが、私の事務所の前には、苦情、愚痴、文句を言いに来る生徒が番号札を発行しなければならいほど並びます。イワク、「この単位を落とすと、教員資格が取れなくなる」、「試験の日にボーイフレンドと喧嘩した、風邪をひいた、わけの分からない病気になった、云々」、「就職に差し障るから、成績を3から5にグレードアップしてくれ」(年末のバーゲンセールじゃないんですよ)、 終いには、「他の科目の試験勉強に忙しくて…」と、ありとあらゆるダダを捏ねるのです。

あの先生は厳しすぎるとか、試験に落ちたのは試験が難しすぎるとか、教え方が悪いとか、大学の学生課事務所に持ち込む生徒も少なくありません。悪いことに、私の大学では、教授の勤務評定のように、生徒全員に先生の教え方などを評価するアンケートを毎年行っており、その評価如何でクビになる先生が出てきているのです。 

良い教授とは、生徒に甘く、優しく教え、簡単な試験を型だけ行い、年に一、二度、学会で誰も注目しない、ありきたりの退屈な論文を大学名を入れて発表し、大学の色々な委員会に顔を出し、また学長や学部長のパーティーに欠かさず出る…人ということになります。 

大学が競争で生徒を集めなければならない事情は分かります。私の大学もやっとと言った感じですが、誰でも彼でも高校さえ出ていれば入れる最低のレベルから、ゴクゴク低いハードルを設け、ACT(American College Testing)、SAT(Scholar Aptitude Test)での点数を入学基準にしました。

うちの仙人は、私がまだカンサス州の学院生だった頃から、大学キャンパスを隈なくウロツキ廻るのを身上にしていましたが、私が知らない学生寮、奨学生専用の建物や部屋の中まで見てきたり、音楽学部の練習室や様々な運動部、ダンスや演劇の練習風景などにクビを突っ込み、覗いてきて、私に報告してくれます。歳も歳だから、生徒さんや先生たちも、きっとうちのダンナさんが別の学科の先生だとでも思っているのでしょうね。

そして、イワク、学生寮の立派さ、広さに呆れ、学生食堂のメニューの多さ、美味しさに感動し、各教室がすべてハイテックの設備を持っていることに呆れ、運動場の広さと、設備の良さ、野球、バスケット、バレー、アメリカンフットボール、サッカーなどは練習場のほかに競技場があり、他に陸上競技場、レスリング、ダンス、バレー(踊りの)、演劇スティージ、練習場、大劇場、小劇場、音楽学部のコンサートホール(大と小)、芸術学部の展覧会場、などなど、日本の大学とはすべてに桁が2、3桁違うと呆れ返っています。

もっとも、彼が日本で通った大学の寮は、何世紀も前の遺物で、泥の上に板を並べ、立てかけただけのシベリアの捕虜収容所のような建物で、食べ物も収容所に順ずる質と量だったようですから、比較の基準がベラボーに低すぎるのは事実のようですが…。

何より、彼が驚くのは、十数棟ある寮の駐車場です。キャンパス内の寮に住んでいるから、どんな授業も歩いて行ける距離にある校舎で行われているはずなのに、広大な駐車場が学生用に用意されているというのです。これが地方の州立大学でさえ…なのです。

もちろん、立派な寮(私達が日本で借りていた公団アパートが貧民窟に見えます)と十分な駐車場がなければ、生徒さんが集まらないからでしょう。生徒さんは高い授業料を払ってくれるお客さんですから、なにはともあれ満足してもらわなければなりません。逆に生徒さんに満足してもらえない教授連は、クビになるしかないのです。 

こんな大学の在り方にいつも批判的な私ですから、何時まで首が繋がっているものか不安です。

 

 

第393回:恐怖の白い粉"Sugar"

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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