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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第446回:たぶん最後の200系 - 上越新幹線 -

更新日2012/11/01



20時までに六本木へ行かねばならぬ。

越後湯沢駅の構内放送が、「お客さまにお知らせ申し上げます」で始まったからドキドキした。すでに新幹線は不通、これで上越線も止まったら万事休すである。しかし内容は、「高崎方面の列車が8分ほど遅れている」というものだった。在来線まで遅れたか。いや、これは上越新幹線の運休の影響かもしれない。この際、走ってくれだけでも有り難い。いや待てよ、接続する列車に間に合わなければ、遅れが増幅していく。

8分遅れで到着した水上行きに乗る。すぐに発車してもらいたい。しかし動かない。次の特急はくたかの接続を待つという。はくたかは本来、上越新幹線に接続する列車である。その新幹線が動かないから、この列車が乗り継ぎ列車に抜擢されたようだ。それはJRとしては当然の処置だろう。しかし私はまた焦燥感が募ってきた。


頼みの綱の在来線

水上行きは17分遅れで発車した。このままの遅れだと水上着は16時ちょうど。接続する列車は16時45分発。高崎で乗り継いで上野着は19時51分。これでは間に合わない。しかし、高崎まで行けば長野新幹線が動いているはずだ。私は高崎から新幹線に乗り換えると決めた。青春18きっぷの旅は、青春18きっぷだけで完結したい。しかし今日は仕方ない。必要経費だと割り切った。悔しいが誰も怨めない。

ありがたいことに、水上で高崎行きの普通列車が待っていてくれた。24分遅れで発車。皮肉なことに車窓は快晴である。高崎着は17時20分頃だろう。高崎から南は正常ダイヤを維持している。というより、これ以南は首都圏のダイヤに影響するから、こちらの都合をきいてはくれない。次の上野行きは17時26分。上野着は19時01分。そこから地下鉄を乗り継いで六本木まで約30分。


北関東は快晴

これでも間に合いそうだが、私は新幹線に乗り換えた。私はTwitterで居場所を明らかにしていて、それはスタッフも見ているはずであった。姑息ではあるけれど、急いでいるという誠意を暗示しておきたい。私の代わりにぬいぐるみのクマさんを座らせるわけにはいかない。しかし、この誠意が裏目に出ると後で知る。新幹線のダイヤは想像以上に乱れていた。

高崎駅で切符を買いなおし、新幹線ホームに上がる。長野新幹線のあさまは、17時13分発の次は高崎を通過する。次の列車は18時21分。東京着は19時12分。これでは上野行き各駅停車と変わらない。私の判断は間違っていた……。しかし、上越新幹線は運転を再開していた。とき336号が走っていた。だんご鼻の200系である。列車の遅れが気になるけれど、これが最後の200系乗車になるだろうと思えば、それはいい機会かもしれなかった。


200系にお別れ乗車

とき336号は12分遅れで発車した。このままの遅れで走ってくれたら、東京着は18時32分着である。混雑した車内で空席を見つけて、助かったと思ったら、そうでもないらしい。爆弾低気圧は東北新幹線にも影響しており、JR東日本の新幹線のダイヤは混乱していた。車内放送によると、とくに大宮―東京間で詰まっているという。高崎からは長野新幹線と上越新幹線が合流し、さらに大宮から東北新幹線が合流する。その東北新幹線も、山形、秋田からの新幹線が合流している。首都高の箱崎ICの渋滞を連想する。

とき336号は時間調整と称して減速している。好天で景色が良いはずだが、私はそれを楽しむ余裕がなくなってきた。右の車窓から夕陽を背にした富士山が見えそうだ。しかし窓際の人々はスクリーンを下ろしていた。強い西陽である。しかたない。私の側の窓際は美しい女性が座っている。細い指先が携帯端末の小さな画面で踊っている。話しかける隙もない。

とき336号は期待通りのスピードで走り始めた。しかし、大宮の手前で停まってしまう。ホームが空かないと放送が入る。大宮着はさらに3分遅れて18時09分。そして発車する気配はない。この先も列車が詰まっているという。3面6線の新幹線ホームに、上野行き列車がズラリと並んでいる。どれを先に出すか、列車指令の決断力が試されている。スタジオはどうなっているだろうか。私はクマさんの登場を阻止したい気持ちでいっぱいだけど、その想いは届くはずもない。

車内放送があり、東北新幹線のやまびこが先に発車するという。200系に後ろ髪を引かれる思いで乗り換えた。残った人々にとっては、もう家に帰るだけで、時間がかかっても座っていたいという心境だろう。やまびこからも降りていく人がいた。ほとんどの人々が新幹線を見限り、在来線に移ったようだ。そのおかげか、富士山川の窓際が空いていた。


夕日が沈み、富士山をチラ見

乗り換えたやまびこもノロノロ運転だ。車内放送はダイヤ乱れのお詫びと、線路に列車がいっぱいだと繰り返している。18時47分。上野駅の手前で停まった。この列車の前に数本の列車が詰まっているという。湘南新宿ラインのほうが速かった。いますぐ降りて、付近の駅から電車に乗りたい。

19時過ぎ。やっと上野に着いた。この先もいつになるかわからないという。もうここまで来れば東京駅へ行く必要はない。日比谷線で六本木まで乗り換えなし。だが念のため乗り換え案内サイトを調べると、銀座線で溜池山王に行き南北線に乗り換えたほうが早いらしい。地上に上がり、初めて行く建物に迷っていたら、玄関で編集長が待ち構えていた。穏やかな顔をしているけれど、内心は怒り心頭だろう。私が有名人ならハプニングも楽しいけれど、所詮は無名なライターである。


大宮で列車が並ぶ

スタジオ入りは5分前。なんとか間に合った。リハーサルには間に合わず。ぶっつけ本番である。それでも司会者の巧みな誘導と、事前に渡された完璧な進行表のお陰で無事終了した。今日の顛末については喋らない。その話だけで所定の時間が終わってしまいそうだし、面白く語る技術もない。スタッフを不愉快にさせるだけだと思う。

全て終わった後、スタッフのひとりが笑いながら言った。

「一時は本当にクマさんのぬいぐるみを買いに行こうかと思いましたよ。杉山さんが間に合わなかったら席に置こうと思って…」

幸い、クマの出番はなかった。買ってもいなかったらしい。信じてもらえたということだろうか。ただしこれ以降、出演の依頼はない。反省の意味をこめて、しばらくは書く仕事に専念しようと思っている。

 

第446回の行程地図

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2012年04月04日の新規乗車線区
JR:1.8Km
私鉄:0.0Km

累計乗車線区(達成率)
JR(JNR):18,937.1Km (84.23%)
私鉄: 5,866.7km (82.93%)

 

 

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

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■著書
『A列車で行こう9 公式エキスパートガイドブック』
杉山 淳一著(株式会社エンターブレイン)





『もっと知ればさらに面白い鉄道雑学256』
杉山 淳一 著(リイド文庫)





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杉山 淳一 著(リイド文庫)


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