第21回:ハンガリー、ブダペストのゲストハウス模様
更新日2002/08/08
ハンガリーのユースホステルは盗難が多いという噂がある。泥棒が旅行者になりすまして宿泊し、隙を見ては荷物を持ち去るという手口らしい。そんなこともあって、貧乏旅行者の多くはゲストハウスをめざす。
ゲストハウスといっても公認宿と非公認宿があって、日本人に有名な「マリアGH」とか、「テレサGH」は非公認宿だ。料金にうるさい日本人パッカーが多いために、公認最低料金の2,000フォリント(1,000円)の半額近くで宿泊できることもある。
ただ非公認宿だけに看板が出せない。いずれもマンションの一室にあるために、駅で客引きに遭遇しない限り、たどり着くのが難しいという難点があったりもする。このため非公認宿のオーナーたちは、毎日何回も鉄道駅に通って客引きに励んでいるのだ。そんな中、「バリハウス」というゲストハウスが最近名を上げてきた。
バリハウスは公認宿なものの、住宅街のマンションの一室というロケーション。じっと待っていてもお客の確保など期待できない。オーナーのバリさんが毎日駅に出かけ、東洋人を見ると声をかけまくるために、ゲストハウスは韓国人と日本人、まれに中国人のチャンポン状態。そして、トレードマークの黄色い服装と個性的なキャラクターのバリさんは、いつのまにか東洋人に有名になっていった。
ところでゲストハウスの収支は気になるところ。バリハウスの場合は4DKの内、3部屋をゲストに開放。1部屋は2段ベットが並んだ男性用ドミトリー。残りの2部屋はツインルーム。女性のドミトリー用として使われたり、個室希望者のために使われている。平均して毎日5人の宿泊があるから、一人1,200円として毎日6,000円の売上。月にすると18万円。マンションは500万円で買ったらしいので、単純に計算すると約2年半で元が取れてしまう。ハンガリー人の平均的月収に比べ2倍の収入だ。
「バリさんの部屋のすごいシアターテレビ見た? 儲かっているよね、ゲストハウスってそんなにいい商売だったとは…。毎日駅で客引きするのも苦にならないよね…」。
ゲストたちの話題はいつもテレビに集中する。日本でもこんなに大きいシアターテレビを持っている人は少ないからだ。ゲストの中にはストレートにバリさんに質問する人も少なくない。
「なに言っているのよ。私は旅行しないから、大きなテレビを買うことができるのよ。あなたたちも、旅行資金を貯金すればすぐに買えるでしょ。テレビが欲しかったら、旅行するのを止めなさい」。
そう言われると、誰もが納得。といっても旅行を止めて、テレビを買いたいという人は滞在中のゲストには一人もいなかった。
バリハウスには韓国人ゲストたちも泊っていた。持ち込んだハンガリーワインやビールをキッチンで飲みながら、韓国と日本について語り合う場面が毎日続く。そんな時は「あなたたち、早く寝なさい!」というバリさんの怒鳴り声。「なぜ? 楽しいのに…」と大抗議する韓国人と、すぐにおとなしくなってしまう日本人はとても対照的だ。
ちなみにハンガリーは韓国の観光客が多く、この宿も日本人が増えるまでは韓国人宿として知られていたらしい。
→ 第22回:アメリカ、ダラスの憂鬱