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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第862回:定番化してきた異常気象

更新日2024/08/08


地球の温暖化に伴い、氷河が溶けている、それも大変なスピードで南極、北極の巨大な流氷が次々と割れ、風に流されている。エル・ニーニョ、ラ・ニーニャが例年より早く、しかも数多く発生し、異常気象をもたらしていると盛んに報道されています。

6月にハリケーンが発生することなどなかったのですが、今年は史上初めて6月末にハリケーンがカリブ海を襲いました。また、アメリカで観測史上最高の暑さが連日のように記録更新を繰り返し、もう年中行事になってしまった、山火事が大量に発生しています。
 
日本の義理のお姉さんは電話する度、そして手紙でも、災害の話が多く、「もう地球は終わりだ…」と悲観的なことを繰り返しています。確かに、私たちの日常生活にも異常気象は影響を及ぼし始めています。まず、農作物が干魃で実らず、値上がりしています。谷間にある果樹園もオシベ、メシベを結んでくれる蜂がいなくなり、今年の桃、梨は大凶作になるのではと、地元のニュースが伝えています。
 
気候の変化をいち早く、微妙に受け止めるのは、自然界の動植物ではないでしょうか。
私たちの住む、高原台地でも、この4、5年続いている干魃とまではいきませんが、高温で雨の少ない年でしたから、まず森の木立に変化が現れました。水不足で弱ったピニヨン・パインに松食い虫が取り付き、立ち枯れし始めたのです。

ダンナさん、チェーンソーを振り回し、これまで220本もの松を切り倒しました。裏の山、ピニヨンメッサのアスペンは、ざっと見たところ半分くらい枯れ、幹は白い骸骨のような姿を曝け出しています。いつもの年であれば、若々しい明るい緑の葉が涼しげな日陰を作っているはずですが、この分では、秋の黄葉、木に金粉をばらまき付けたような木下での豪華なハイキングはとても望めません。
 
そして、下生えと呼ぶのかしら、木立の下の地面の雑草でさえ、ベージュ色に枯れ始めたのです。「ウーム、ここに木がなくなったら、ここに住んでいる価値がないな~」と、本来呑気なくらい楽天的なダンナさんがこぼすほどです。そして、動物たちです。7月になってもまだ、鹿をはじめエルク、狐、七面鳥、熊、マウンテンライオン、ボブキャット、コヨーテなどが山に行かず、この界隈を徘徊しているのです。

本来山奥で出産するはずのエルクが、この台地でようやく歩き始めた赤ちゃんエルクを従えているのを見ましたが、こんなことはここに住んでから20年以上になりますが初めてのことです。

異変とは言えませんが、この何年か家の周りにモグラ、地ネズミ、地リス、プレーリードックが無数の穴を掘り、あるいは土を盛り上げるようになりました。穴に出入りしている小動物は窓から眺めている限り、とても可愛いのですが、井戸や家の土台を崩すから要注意だと知り、撃退作戦を展開しています。それに、車のエンジンルームに入り込み、ホースやワイヤーを食いちぎります。我々にとって可愛らしいリスは害を及ぼす敵なのです。

インターネットでにわか知識を仕入れ、穴にナフタリンを一個づつ入れろ、鉄の棒を地面に差し込み、その上のところに空き缶を逆さにして被せ、風が吹くとカンカン、カチャカチャ鳴るようにしろ、いやなんと言っても効果があるのは10メートルほど離して、バッテリーのプラスとマイナスの電極を差し込んでおくことだとか、いや少しワイルドな猫を屋外で飼うのが一番だとか、それらを試しているのですが、どれも一時的な対策で地中に住む全小動物撃退に効果がある、これぞという対策というのは今のところ見つかっていません。もっとも、インターネットに書かれている対策は、郊外の団地程度の広さの庭やお花畑のためのものなんでしょうね…。
 
そんなところにチョットした変化が現れました。本来地中に住むモグラの穴に蛇が出入りし始めたのです。さっそく、自然保護管だったスティーヴにお伺いを立てたところ、ゴーフォー蛇(ブルスネークともと呼ばている)の一種で、猛毒のガラガラ蛇とよく似ている(ほんとにそっくりです)が毒はなく、しっぽで鳴らす例のガラガラという音まで真似て?いるというそっくりさんなのです。

ここに住み始めたのは長さ1メートル少々のが多く、明るい薄茶色の体に黒い輪状の模様を持っています。時々穴から出て他の穴へと移動しているのを見ることができます。先日、地下でたくさん食べ、大きくなったのでしょうか、着ていたスーツが窮屈になったのでしょう、脱皮した抜け殻を見つけました。お蔭でモグラのたぐいの姿を見かけなくなったので蛇様様です。

先週は裏のなだらかな山というのか、丘程度の山で金髪に近いベージュの毛皮を着た子連れの熊に会いました。日本でも茶髪に始まり、最近は金髪の若者もたくさんいますから、ロッキーの熊も真似したのかもしれませんが、こんな色の熊を見たのは初めてのことです。

これが突然変異なのか、異常気象のなせるワザなのか、その両方の要素が絡み合っての結果なのか分かりませんが、その熊が連れている子熊までお母さんと同じ色の毛なのです。突然変異の獲得形質は遺伝しないことになっているのですが、ひょっとするとこの毛色の変わった新種の熊がロッキー山脈の西側で大いに繁殖するかもしれません。

金の羊を探し求めたジェイソンが船アルゴで探検したように、ロッキー山脈に金の毛皮を求めてハンターがどっと押し寄せてくることになるかもしれませんね。

未だに、ここら界隈をうろついている鹿やエルク、コヨーテを見る度に、ダンナさん、「お前たち、早く山に隠れろ、山に行け、こんなところでグズグズしているとハンターにやられるぞ!」と彼らに日本語で話しかけています。

 

 

第863回:アメリカ大統領選の怪

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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