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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第863回:アメリカ大統領選の怪

更新日2024/08/15


トランプ前大統領が狙撃され、危うく命を拾いました。もう2、3センチ左に逸れていたら、頭蓋骨を貫通して即死、そうでなければ脳に相当ひどいダメージを受けたことでしょう。

アメリカの大統領、大統領候補は暗殺されるチャンスが高く、リンカーンに始まり、ジェームス・ガーフィールド大統領、マッキンレー大統領、ケネディ大統領(ジョン・F・ケネディ)、そして大統領の有力候補だったケネディの弟ロバート・ケネディ司法長官も殺されました。レーガン大統領も至近距離からピストルで打たれましたが、死なずに済みました。いやはや、なんという国なんでしょう。それでいて、銃火器は野放し状態なのです。
 
今回のトランプ前大統領の狙撃に使われたのはAK47という、連射が効く市街戦用のライフルで、通信販売、インターネットで中古なら300ドル程度、なんやかやのアクセサリーを付けた新品でも1,000ドル程度で合法的に購入できます。このような暗殺をなくするには、ピストル、攻撃用ライフルなどを全面的に禁止すればいいのですが、撃たれたトランプ前大統領自身、兵器、銃火器メーカーから膨大な政治資金を受けていますから、俺を殺すために使ったような武器を禁止するぞ…とは言えない立場なのです。

それにトランプは、アメリカ最大の圧力団体NRA(National Rifle Association;銃火器や弾薬のメーカーが造っている、銃器販売促進団体)のメンバーですから、ただ事件後、警備体制にヌカリがあった、それはバイデン民主党の陰謀だと叫ぶことしかしませんでした。

両陣営とも、シークレットサービス、ガードマン、州兵による警備を強化すると言うだけなのです。
 

大統領選挙戦にウンザリさせられながらも、目を離すことができないでいます。カマラ・ハリスとトランプの討論会、そして全米各地で開かれる党大会と内容の乏しいお祭り騒ぎが続いています。小さな町、村まで出かけ支持者と握手をしたり、子供の頭を撫でたり、赤ちゃんを抱き上げたり、その町村の有力者とハグしたり、よくもマー飽きずに繰り返すものだとホトホト感心してしまいます。

アメリカは広いですから、主な州を回るだけで大変です。もちろん飛行機を使っているのですが、それにしてもトランプのように自家用大型ジェット機に選挙参謀を何十人か乗せ、超近代的な通信機器を積み込んで飛び回るには大変なお金がかかることでしょう。

そして、テレビをはじめとするキャンペーン、早く言えば宣伝、コマーシャルのようなもんですが、これにも莫大なお金がかかります。このマスコミ、メディアの出費が選挙運動の70%以上の選挙運動資金を占めています。前回2020年の選挙の時、両陣営がマスコミ、メディアに使った総額は9,600億円相当に及んでいます。

加えて、各地で支持者を集めた大会もプラカード、帽子、Tシャツ、会食パーティーなどなど、支持者から義捐金、会費を集めるにしろ、一回の大会が億以下で済むことはないと言われています。初めから豊富な資金を持っているか、余程資金集めが上手な参謀を抱えていなければ、選挙戦を戦い抜けないのは事実です。
 
これでは公平な大統領選挙ができない、合衆国政府が一定額の選挙運動基金出すと言うスーパーPACという条例を1976年に設けたこともあります。この法案は、政府により一定の選挙運動資金を支給する、だがそれを受け取ったら、個人の資格で資金集めをしてはならないという条件が付くのです。今では、この法案による援助金を受けている候補者は全くいません。

それどころか、選挙戦の費用の最高額の上限すらありません。ただ、どうのように使ったかだけの報告義務があるだけです。6月末までの推定金額ですが、トランプは148ミリヨンドル(237億円相当)、バイデンの方は75ミリヨンドル(120億円相当)を集めています。

そこへ持ってきて、テスラ自動車の社主、イーロン・マスクが、トランプに7月から大統領選挙の日まで毎月40ミリヨンドル(64億円相当)の運動資金を贈呈するとぶち上げたのです。

そして、バイデン大統領が選挙からの撤退を表明、副大統領のカマラ・ハリスが民主党の大統領候補として選挙戦を継続する、と打ち上げた途端に、ニューヨーク株式市場に上場している多くの会社が中心になり、個人からも10ドル、20ドルという小額の寄付がドット集まり、1日でカマラ・ハリスへ選挙運動資金として総額100ミリヨンドル(160億円)を集めました。

こうなると、大統領選を左右するのは“お金”だということになりますが、存外そうでもなく、オバマ前大統領が初めて大統領選挙に打って出た時、彼は政治資金のバックグランドを持っておらず、これじゃ、選挙を最後まで戦いぬくことすらできないだろうと言われていましたが、膨大な数の、主にお金はないけど、自分の時間を割く人たちがボランティアで、電話やインターネット、個別訪問などで活躍し、選挙に勝利したのです。

どのように選挙を戦うか、天文学的なお金をどこにどのように使うかが、選挙参謀の腕の見せ所で、地方選挙に始まり、プロの選挙屋が活躍する場に事欠きません。
 
それにしても、ハデハデしい党大会、政策よりもいかに相手を中傷するかが焦点になっている選挙戦、どうにかならないものかと思うのです。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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