第338回:メリーヴィルで、現代の"ミズーリーの魔女狩り"
ミズーリー州の北西の端にメリーヴィルという町があります。メリーヴィル、つまり"幸せな村"です。北はアイオワ州に接し、西はアチソン郡を置いてネブラスカ州に近接しているナワダ郡にある田舎町です。2010年の国勢調査では人口11,972人ですから、いくらナワダ郡の首都で、郡の政庁や裁判所があるにしても、少し昔から住んでいる人なら、お互いに知り合い…というような小さな町です。
この町は特に南北戦争の舞台になったり、有名なパイオニアが開墾したり、著名な人物が出たところではありません。黒人問題に興味のある人なら、1931年になってから、黒人の少年が白人女性を強姦したとして、これは全く実証されていないのですが、リンチに架けられ殺された事件が起った町として、記憶しているかもしれません。もちろん、実際にリンチを行った住民たちはリンチ事件の常として、誰も逮捕されていません。
そんな片田舎の町、メリーヴィルがまた全米の注目を浴びています。
事件は去年の10月、13歳と14歳の少女が、地元の高校のアメリカン・フットボール・チームの打ち上げパーティーに参加し、正体不明になるまで飲まされ、強姦されたのです。ここまでなら、フットボール選手のカッコイイ、マッチョお兄さんたちに擦り寄っていくファナティックなグルーピィーを酔わせ、犯しただけの事件であり、認めたくはありませんが、アメリカ国内で、毎年、何千、何万件と起っている、高校、大学のパーティー・レイプ事件として、埋もれてしまったことでしょう。それがたとえ13歳、14歳の少女相手の事件であっても、強姦は立証するのが難しく、なかなか起訴できない場合が多いのです。
地元の高校のアメフトのスターであり、強姦の実行犯は17歳の坊やで、彼女らを陵辱し、その様子をビデオ(動画)と写真に撮った後、泥酔した少女たちを彼女らの家の庭に投げ捨てるように置き去り、家の人が気づかなければ、庭で凍死した可能性があったと言われています。
少女の母親が訴え出て、17歳の少年は一応起訴されたのですが、その少年の家族は地元の権力者であり、お爺さんはミズーリー州選出の下院議員になったことがあるほどで、隠然とした影響力を町に持っており、17歳の強姦犯は無罪になったのです。
少女の家族の方は、数年前に東部からメリーヴィルに移り住んだばかりの、いわばヨソモノでした。裁判の期間中にも、被害者である少女の家族への嫌がらせが続き、母親は仕事を辞めなければならず、住んでいた家を売りに出し、東部に引越しました。
ところが、売りに出していた少女の家に誰かが放火し、家は完全に灰になってしまったのです。もちろん犯人は不明です。そして、放火と断定されると火災保険が適用されません。
とても勇気のいる行為だと思いますが、少女と母親がそんな惨状をインターネットで訴え、それを読んだ人たちが環を広げ、ついにミズーリーの有力な新聞『カンサスシティー・スター』に取り上げられ、事件発生後ほぼ1年経ってやっと日の目を見ることになったのです。
全米ネットワークのテレビのニュースでも放映され、少女も母親に付き添われながらも、インタヴューに応じ、強姦された被害者として、顔を晒しました。
このような事件が起こるたびに、犠牲者の方に強姦を誘発させる要因があった…という議論が必ず出てきます。13、14歳で高校生のアメフトチームのパーティーに出かけたのが間違い、そのパーティでもお酒を飲んだ(飲ませれたのでしょうけど)のが間違い、第一、親が自分の娘を夜中にそんなところに行かせたのが間違い、高校生がハメを外すのは分っているのだから、そんなところに出かけるのは強姦して下さいと言っているようなものだ、非は少女にあるというのです。
このようなマッチョ理論は共感を呼びやすく、地元の有力者の息子が、チョットやり過ぎただけだ、相手は浮ついたヨソモノの娘ではないか…というわけです。
犠牲者の方を、町の平安を乱す悪者にする構図がそこにあります。犠牲者の方が魔女になってしまったのです。メリーヴィルの住人は、1931年に黒人の少年をリンチにしたと同じメンタリティーで、今度は犠牲者を“魔女”として祭り上げたのです。
この事件を、社会問題にまで持っていったのは、なんと言ってもインターネット、ツィッターのおかげです。地元の検察官は、裁判のプロセスに法的問題は何もないとしながらも、この事件を再審する方針を打ち出しました。
ヤレヤレ、これが民主主義の番人を自認する21世紀のアメリカで起きていることにあきれ果てるのは私だけかしら…。
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