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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
第187回:ロッキー山脈にもある交通渋滞
更新日2010/12/03


先週、学会でロッキー山脈を越えデンヴァーに行ってきました。
いつも、冬のロッキー山脈を運転するのは一種の賭けになります。吹雪になると、高速道路が閉鎖されますし、それでなくてもノロノロ運転になり、超大型のトレーラーが滑る道路で横倒しにでもなると、これがよく起こるのですが、車でギッチリ詰まった道路で3、4時間も立ち往生なんてことは、珍しくありません。冬のロッキー越えは、天気予報と道路交通情報とをにらみ合わせて出発時間を決めることになります。

田舎町から大都会に出かけると、よくこんな条件で人が住めるものだと思わずにはいられません。毎日の通勤に車で1時間、2時間はあたりまえ、毎日渋滞の中、イライラしながら通う価値のある仕事、生活が一体あるのかしらと思ってしまいます。

その点、私はとても恵まれていると自分で思っています。山から国立公園の崖のヘアピンカーブを14、5回こなせば、高原のような高台の比較的平らでまっすぐな道路、しかもすれ違う車は多いときでも5台くらい、大抵はゼロの山道なのです。夏ですと45分、今は1時間くらいかかりますが、国立公園とそれを抜けた山道では景色を楽しみ、運転が全く苦になりません。そんな話を下界(大学のある谷間の町を私たちは気取ってそう呼んでいます)の人たちは、呆れ顔で、よくそんな山奥に住んで毎日通勤しているものだと言います。

山にも、交通渋滞があります。ロッキーを越えて帰ってくる時、急にノロノロ運転になり、道路の状態もいいのに何だろうと思っていたら、コロラドのシンボル的動物、ビッグホーンシープ、頭の両サイドの半円を描くように太く力強い角を持つ野性の山羊が道路近くに20頭ばかり降りていたのです。あの角でやられたら、私のボロシビックは簡単に破壊されてしまうことでしょう。皆、ゆっくりとビッグホーンシープの側を通っていました。珍しい動物なので、携帯カメラで写真を撮っているドライバーもたくさんいました。これではとてもスムースに車は流れません。

この季節は、野生の動物たちが沢山高い山からここの私たちが住む高原台地に降りてきます。去年は鹿をハネテしまい、その後、何日間も怪我をさせた鹿のことを考えて寝れない夜を過ごした苦い経験から、いつでもブレーキをかけ、止まれるようにとても遅いスピードで運転しています。

もう一度、元気のよい鹿とぶつかったら、私のかわいそうな1988年ホンダ・シビックも鹿と一緒に心中することになるのは確実ですから、周りをよく見ながらゆっくりと山道を運転しているのです。

鹿は毎日のように見ます。そして、道路の真ん中に立ち止まっている鹿がいることは珍しくありません。車を完全に止め、私がヘッドライトをチカチカ点滅させたり、クラクションを鳴らしても、動かずに、何をそんなに急いでいるの、人生もっとゆったりと生きたら良いでしょうといった表情で見返すのです。

この季節、ウサギやリスがペタンコになっているのを見ることが多いです。狐やコヨーテは注意深いのか、道路を横切っている姿をよく見ますが、交通事故に逢って潰されていることは少ないようです。

数は少ないのですが、最悪なのは、なんといってもスカンクです。200-300メートル手前から臭い始め、アッ、スカンクだとすぐに分かるのですが、あわてて窓を閉め、車の中に臭いを入れないためにエアーベントを閉めますが、すでに時遅し、車の中に充満した臭いをたっぷり衣服に染み込ませたまま、教壇に立たなくてはなりません。生徒さんたち、きっと、アレッ、今日の先生は馬鹿に臭いなー、と思っていることでしょうね。これも山に住み、山道で通勤する生活の一部です。

今日の朝、沢山の鹿が家の近くにやってきました。その中で一頭の小鹿のバンビが、後ろ足に怪我をしているのです。三本足で器用に歩いていますが、深い雪、吹き溜まりになっているようなところでは、お母さん鹿に付いていけないほどあがいているのです。使える方の後ろ足一本では余りに深く雪にうずまってしまうのでしょう。小鹿のバンビが車にはねられ、命は助かったものの、後ろ足を折ってしまったのは確実です。

これからの厳しい冬を前にして、どんな動物もたっぷり食べておこうと懸命になっていますから、傷ついた小鹿がこれからの冬を生き延びられる可能性は非常に少ないでしょう。マウンテンライオン、コヨーテ、狼に食べられてしまうのでしょうね。

さあ、これから私も動物たちを傷つけないよう、殺さないよう、注意深く運転しなくてはと自分に言い聞かせています。

 

 

第188回:戦争と死刑=国家の暴力

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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