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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第444回:真珠湾攻撃は奇襲ではなかった!?

更新日2015/12/17



毎年12月8日の新聞トップ記事は決まり切っています。ましてや全国紙のない地方では(全国紙はUS Todayだけでしょうか、カラー写真がたくさん付いたダイジェスト的な紙面で、全米のホテルなどに配られています)、余程地元に大きなニュースでも発生しない限り、程度の差こそあれ、真珠湾の記事で埋められてしまいます。"真珠湾の奇襲を忘れるな"、"汚い戦争を仕掛けてきたジャップを思い出せ"……と言うわけです。

私たちが住む町の新聞もご他聞に漏れず、残り少なくなった真珠湾体験者の談話を載せたり、中学生にその時の老兵にインタビューさせたり、古い写真を載せたりで紙面を飾っています。

広島、長崎の原子爆弾投下の記念日と違うのは、真珠湾の方は一方的にジャップたる日本の奇襲で、日本バッシングに繋がっていますが、広島、長崎のケースは原子爆弾を二度と人類に使わないようにという平和への願いが主なというより、唯一の願いだからです。

以前から、真珠湾攻撃の前に、日本はアメリカに対して宣戦布告の電報を打っていたが、アメリカが受理しなかったと言われていました。これが真実だとすると、日本は奇襲をかけたのではなく、きちんと"手続きを踏んで"、戦争をおっぱじめたのですから、真珠湾攻撃は奇襲ではなく、"正しい戦争"の始め方だったことになってしまい、はなはだアメリカにとって都合の悪いことになります。

時の大統領、フランクリン・デラノ・ルーズベルトが歴代の大統領の中でも最高クラスの人物だったと言ってよいでしょう。国が危機に陥った時、大恐慌、ヨーロッパへの参戦、そして太平洋戦争と、時代が必要とした時に、偶然かどうか、ルーズベルトという非常に優れた大統領が指揮を取ったことに異論を差し挟む人はいないでしょう。

ところが、最近、父親の蔵書にあった『Day of Deceit』(欺瞞の日;Touchstone Book, Simon & Schuster, NY出版)という、Robert B. Stinnettが書いた本を読み、とても驚きました。著者は一般に公開された公文書を細かく調べ、生きている人にはインタビューし、丁寧に事実を積み重ね、ルーズベルト大統領は日本が真珠湾に奇襲をかけることを知っていたことを証明しているのです。

それも大統領だけでなく、国防省のトップレベル、情報将校など、いちいち名前を挙げて、彼らは知っていたことを証明しているのです。こうなると、ルーズベルト大統領は真珠湾に繋留していた戦艦の乗務員、港湾の軍事施設で働く人たちに警告を与えず、敢えて皆殺しにさせたことになります。そして、それがどうも本当のことのようなのです。

ルーズベルト大統領は、すでにヨーロッパに参戦しており、議会で日本と太平洋側で戦争を始めるための承認を是が非でも取りたかった。日本に中国、満州、東南アジアでやりたい放題やらせるつもりは毛頭なく、何とか開戦したかったけれど、議会は両面戦争に突入することに反対しており、国民を納得させるキッカケが欲しかったところ、日本が真珠湾に攻撃をしかけることを知り、敢えて奇襲を許したというのです。

あれだけの大艦隊をハワイに秘密裏に移動させることが可能だと信じていた日本の海軍は余程のノウテンキだったと言えます。それどころか、真珠湾攻撃の準備段階から、アメリカ側は日本の動向をすべて掴んでおり、日本がいかにも特別に秘密めかして作成し、曜日によって変えていく海軍暗号(アメリカではKaigun Ango Code)はすべて解読されており、山本五十六元帥が率いる大艦隊の船名、装備、艦長、将校たちの名前、戦闘機の機種と爆撃能力などなど、まるで手に取るようにすべて筒抜けだったのです。

この本の著者の目的は、ルーズベルト大統領が1ヵ月以上前からこの攻撃を知っていながら、真珠湾に待機しているアメリカの艦隊に一言の警告、準備もさせず、"生贄の羊"にしたことを明らかにすることです。一体、大統領でもそのように、議会で日本と開戦を承認してもらうために奇襲を許し、何千という犠牲者を出しても良いものかという大きな疑問を投げかけているのです。

ルーズベルト大統領の思惑通り、真珠湾攻撃の後、議会は満場一致(一人の議員だけ反対しました)で開戦に賛成し、太平洋戦争に突入し、広島、長崎に原爆が落とされて終戦を迎えることになります。

歴史に興味があり、独自の見解を持っていそうなウチの仙人もこの本を読み、「議会で承認を得るだけでなく、アメリカの世論を圧倒的に開戦に持っていったルーズベルトは大変な人物だ。当然、真珠湾攻撃を生贄の羊として許したことが後でバレて、自分の評価に繋がることは覚悟していただろうけど、それでもやったのは凄い政治家だ…」と言っております。

それに付け加えて、「しかし、日本の軍人や政治家は、本当にあんなにアホばかりだったのか、アメリカに自分たちの動向が筒抜けになっていることを、誰も気がつかなかったのか。これじゃ、初めから横綱と序二段の相撲だな」とひどく嘆いていました。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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