第431回:私たちの山歩き
"私たちの山歩き"などと書くと、いかにも経験豊かな山のベテランが教訓をタレルように聞こえてしまいますが、まったくその反対で、私たちの山歩きは老人の散歩に毛が生えた程度のものです。冬山や岩登りはしない、ただ、既存の山道をインターネットやガイドブックで調べて、せいぜい一日の行程か長くても17-18キロ程度のノタノタ登山です。テントなどを背負っての縦走でもせいぜい5日くらいが限度です。私たちの体力ではそんなにたくさんの食料を担いで歩くことができませんので。
前回(第427回)でチョット自慢しすぎましたので、日本の友人やウチのダンナさんの家族から、そんな激しい山に登って遭難しないの、熊に出会ったらどうするの、万が一怪我をしたらどうするの……それにキャンプファイヤーなんかして山火事にならないのと、たくさん質問、疑問、心配ごとが寄せられてしまいました。
コロラドのロッキー山脈とユタ州のラ・サル山系、ヘンリー山系だけに限っていえば(私たちにはその範囲の経験しかないのですが…)夏の6月終わりから8月初めにかけて、天気予報は異常なくらいビタビタと当たります。というのは、毎日"晴れ、午後に雷雨を伴った雨の可能性あり"という予報が繰り返されるからです。
ですから、私たちは登山開始は朝の4時か5時、頂上に午前10時、縦走する場合でも、下山開始が午後13時から14時とし、怪しげな雲が西から流れてくる前に森林限界の下にいるようにしています。
もう長いこと、ポンチョはバックパックの奥底に仕舞われたままで、出したことがありません。 山の氷のように冷たい雨に当たり、着ている物がゴワゴワに凍りつくような体験をしないで済んでいます。今までのところはですが…。
真夏でも岩山の北斜面はあっさり氷点下になり、烈風の中では零下十何度かまですぐに下がります。しかし、空気も風も乾いているのに救われています。夏のコロラドロッキー界隈は天候急変による遭難のチャンスが少ないといえます。
熊、これは向こうさんにもイロイロな事情があるのでしょうけど、山で出会ったことはありません。(家の近くには出没しており、隣のおじさんが一頭仕留めましたが…)熊よけのスプレーなどを持って歩くことが盛んに薦められていますが、スプレーが届く有効な距離は3、4メートルが限度で、うまくいって6メートルくらいのものです。
国立公園のレンジャーお勧めのスプレーは、小型の消火器くらいあり、重さも1キロ以上あります。そんなモノをいつでも取り出せるように、腰にぶら下げて長い距離歩けませんよ。 よほど早撃ちの練習でもしなければ、オッツ、熊だ、チョット待って、いまスプレーを取り出すから…てなことになるのが落ちです。
でもキャンプ地では、食べ物を一切テント内に置かない、バックパックは木から吊るす。歯を磨いた後、口を濯いだ水も極力テントから離れたところでペッする、とそれなりに気は遣っています。
キャンプは国有林内の決まりで、山道から30メートル離れたところならどこでも構いません。 ただ一つのルールは、"キャンプの跡は一切残すな"というだけです。ロッキーの西側は人も少なく、山でゴミや人間が踏み荒らした跡を見ることはマズありません。
キャンプはもちろんタダです。国立公園や郡がセッティングしている、トイレと水のあるキャンプ場もあるのですが、私たちが山に行くときにはまったく利用しません。せっかく人里離れた山に行くのに、ほかの人のテントが見えるようなところにわざわざ泊まるわけないでしょう…というわけです。
キャンプ場でも日本のと比べると、各テントサイトは広大に離れているのですが、私たちは周囲何キロとまではいきませんが、人の気配のないところばかり選びテントを張ります。 マー、それだけ、すべてを自己責任、何が起ころうと自分で対処しなければならいのですが。
この夏に、私の同僚の先生が日本に行き富士山に登ってきました。それをフェイスブックに載せていたのを見て、アア可愛そうに、と同情しないわけには行きませんでした。なんといってもあの人込みには参ってしまいます。何のために山に行くのか、登るのか、ワザワザ人を掻き分け、ラッシュアワーを山で体験するためとしか思えないのです。
ロッキーでも東側、デンヴァー、ボルダー側はとても込み合います。富士山ほどではないでしょうけど。私たちも最初の頃、フロントレンジと呼ばれる東側に住んでいたこともあり、ポピュラーな山を歩いていました。山道でたくさんの人に出会うのが当たり前だと思っていたのです。
ところが、ロッキーの西側に越してから、ほとんど人に会わないで登れる山がたくさんあるのを見つけたのです。昔、カリブ海の島々をセーリングしていた時に、誰もいない、ほかのヨットがまったくいないきれいな湾を見つけそこに錨を下ろし、何日か滞在したときの感覚が蘇ってきました。
二人とも歳ですから、後何年、何シーズンこんな山歩きができるかなーという感慨もあります。このように素晴らしい山を歩き、眺めることができることを慈しんでいます。
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