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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第332回:他人のお金と国家予算

更新日2013/10/10



「この金額内で今学期に必要な文房具を買いなさい」と子供にお金を渡すと、まず100%近くの子供はその限度額メイッパイ使って買い物をするそうです。親が言う、"必要な"という部分が耳に入らず、"この金額内"なら全部使える…と受け取ってしまうようなのです。

これが、まだ子供のお小遣いであれば問題は小さいですが、会社やお役所のお金となると、社会性を帯びてきます。

アメリカの合衆国政府が閉鎖されました。国家公務員は無給の休暇を強制的に取らなければなりせん。負債が雪ダルマ式に増えていくのを防ぐため、議会は国のお役所を閉鎖する決議を下すことができるからです。これは一見、とても良い法案のように見えます。

今回は、議会がお役所閉鎖を決定しました。ところが、たとえお役所を閉鎖し、その分の給料を差し引いたとしても、膨大な国家予算(すでに天文学的数値になっている負債と言った方が当っているのかしら)にはほとんど影響がなく、アメリカ政府がシャットダウンしている間も、赤字は毎日ドンドン増えていっています。逆に、アメリカの経済が停滞し、その分の税収入が減りますから、国の収支としてはマイナスになる…といいます。

今回の、共和党員が過半数を占める議会での決定は、早く言えば9月30日に締め切られるオバマ大統領の国民健康保険制度を潰そうということだけが狙いのようです。

合衆国政府が閉鎖し、公務員は働けない分だけ給料が少なくなりますが、それを決定した議員たちの給料は減らされません。国会議事堂内への出前ランチサービスに使われるお金は、地方都市の予算くらいにのぼり、ある議員はコーヒー代(朝食ミーティングのため)に年間1,000万円近く私たちの税金から使っています。それはまだ可愛い方で、ワシントンと議員の地元を大勢のスタッフを引き連れて何度も往復するのは良いとして、超高級なリゾートで家族と過ごす費用まで税金で負担させているのです。

子供のお小遣いと同じ感覚で、領収書を出せばすべて通る、モトモト自分のお金でない感覚が、税金をどう使っても良いと演繹され、どうせ自分の懐が痛むわけでなし、他人のお金を使いたいだけ使う風潮を生んだのでしょう。

日本政府の負債は、赤ちゃん、老人も含めたすべての国民一人当たり780万円になるそうですが、日本政府を救うために、そんな大金を政府に払う人は一人もいないでしょうね。政府、お役所というのは不思議な世界で、普通の企業なら当然破産してもおかしくないことを、平然と赤字を増やしながら継続できるのです。しかもその間、議員、役人は良い給料を保証され、たっぷり経費を使うことができるのです。

日本でも炭鉱の町、夕張市が破産しましたが、アメリカでは自動車の町デトロイトも破産宣言し、 町が一つの企業に頼っていることの危険性を示した形になりました。

デトロイトの人口は半分近くに減り、不動産の価格は激減、市が全盛時代に集めた美術品を売り出さなければならない事態に陥っています。

美術館、博物館にある古代エジプトの遺品から、ルノワール、ゴッホなど、6,500点あり、総額2,500億円相当になるそうです。ですが、デトロイト市が抱えている負債は1兆770億円で(朝日新聞では960億円相当と書いていますが)、とても美術品を競売にかけるだけでは賄い切れるものではありません。日本の美術愛好家…デトロイトのオークションで名作を買うチャンスかもしれませんよ。ついでに、宮殿みたいな家もバカ安値で購入できますよ。

企業が立地条件の良い土地へドンドン移動していくのは分かります。しかし、リーマンショックの時、政府から膨大なお金を借り、大量の首を切り、その結果、今年度のアメリカの自動車産業は前代未聞の売り上げ、利益を上げているのに、デトロイト市は悲惨のどん底のままなのです。

自動車産業にとって、リーマンショックは旧態依然とした工場を廃止し、組合労働者を大量に首を切るための、丁度良いチャンスだったとしか思えません。ツケを払わされたのは、工員たちとデトロイト市です。

アメリカのことですから、町を丸ごと売りに出す可能性がないとはいえません。そうなると、もう勢いのない日本ではなく、中国がアメリカに沢山ある破産した町や郡を買占めに走るかもしれませんね。 

全く経済音痴の私でも、一体ワシントンで議員やお役人は何時まで何をやっているの? と半ばあきれ果て、残りの半分は憤り、分不相応なことを書いてしまいました。

 

 

第333回:捨てる文化と捨てることができない人

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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