第288回:"我々、日本人は…"と"We American people…"
ヤレヤレ、やっとアメリカの大統領選挙が終わりました。フタを開けてみれば、鍵を握ると言われていた三つの州すべてをオバマ大統領が取り、圧勝しました。
大昔、独身時代に日本に住んでいた時、外人である私に、ありきたりな日本人論を披露しようと、「我々、日本人は…」と繰り返し聞かされ、いささかうんざりしたことがあります。
それも、決して外の世界に誇れるような日本人の口からではなく、ただ外人の前で安っぽい日本人論を聞かせたがっているだけのことでした。私のお琴の先生、そして大先生は、私の目から見て日本の伝統的な美しさを持った人でしたが、決して「我々、日本人は…」とはやりませんでした。
ところが、今回のアメリカ大統領選挙で、オバマ大統領も対立候補のロムニー氏も同時に行われた議員選挙の候補者たちも、盛んに"We
American people…"とやりだし、半世紀前の日本を思い起こさせてくれました。
彼らが"We American people…"と言う時に、果たして"私"も含まれているのでしょうか。むしろ、含めてもらいたくない党派の人が"We
American people…"と繰り返しているようでした。
「我々、日本人は…」とか"We American people…"と鼻につく(耳につくのかしら)ほど繰り返し聞かされて、"エピミニデスの真理と矛盾"を思い出しました。
古代ギリシャの哲学者エピミニデスは、「クレタ島の人は嘘つきだから信用できない」と言ったのですが、当のエピミニデス自身がクレタ島の人でしたから、彼の言ったことはウソで、従って逆も真なりで、クレタ島の人は正直者ばかりだとなるのか…という堂々巡りをするような提案?をして、それだけで有名になった人です(他に難しい本を書いているのかもしれませんが…)。
ここから、話は少し怪しくなり、いささか確信に欠けるのですが、このエピミニデスの命題にすっきりと回答したのは、バートランド・ラッセルでした。彼は、「それ自身を含む、集合を語ることは無意味である」と言い、「定理に自分は含めない」ことをエピミニデスが死んで2,000年以上経ってから回答した…と記憶しています(もし間違っていたらどうぞ、のらり編集部へメールを送ってください)。
さすがバートランド・ラッセル…と言いたいところですが、この反証はいわば逃げの条件ように聞こえます。
政治家や経済評論家、ジャーナリストたちがすべてバートランド・ラッセル卿の理論で保護されているわけではないでしょうけど、自分が属さない他の集合、団体に対する非難は激しくするが、自分が属する団体に対しては口を閉じている状況が余りに多すぎます。
ある新聞社に勤める記者は、ある大会社や鉱山の下級労働者が過酷な条件で働かされていることを取り上げても、自分が属する自分の新聞社の下請けの下請け、販売店、植字工、女性に対する組織的差別には触れないものです。
たとえば、高級で優遇されているエリートジャーナリストが、自分が属する会社に対して内部告発するようなことは、極めて少ないと思います。
放送ジャーナリズムの勇であるBBCで、社長格のゲイリー・ギルター氏がセクハラ容疑で告発され、辞任しましたが、これなども典型的なケースで、BBC自体は他のあらゆる会社、企業にセクハラがないか目を光らせ報道していましたが、肝心の自分の会社を含めるのを怠っていたのでしょう。
自分のことはさて置いて、偉そうなことを言う現代のエピミニデスが余りに多すぎるような気がします。
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