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■西部夜話~酒場サルーンと女性たち

第8回:酒場サルーンと女性たち その8

更新日2025/09/11

 

西部劇に登場するサルーンの女性たちは揃いも揃ってウェストがキュッと締まり、胸の大きさを強調している。妊娠中の太鼓腹や腹ぼてデブは登場しない。それはもちろんハリウッドの映画でのことだが…。

いったい避妊はどうやっていたのだろうか。娼婦にとって、妊娠と性病はとてつもなく大問題だったに違いない。妊娠してそのまま子供を産む例も多かったに違いない。西欧の社会では“Son of bitch”“Hijo de puta”(売春婦の子供)と呼ばれるのは最悪の蔑称だ。日本での“妾腹の子”のイメージとはかけ離れた、出生から汚らわしい、誰が父親かも分からない汚れた血筋とみなされる。

それは多分にヴィクトリア時代が産んだモラルの押し付け、偏見で、自分は清く正しい、しかるに、あの手の女性は人間性にも悖る穢らわしい存在だという感情が働いていて、彼女らが産んだ子供もどうしようもない、世に害を及ぼすと演繹され、娼婦の子供に未来は全くない。そんな子供は唾棄すべき存在とされた。そこに出入りしていた男ども、似非(えせ)ジェントルマンに矛先が向くことはなかった。

1800年代に避妊法は三つあった。海綿(スポンジ)を事前に女性器に挿入し、精子を吸わせ事後にそれを取り出す方法で、それ用のスポンジが売り出されていた。このスポンジは何度でも利用できる!と効能書きにある。また、レモンジュースにつけておくと精子をよく吸収するともある。いずれにせよ、スポンジ避妊は絶対的な療法でないばかりか、信頼度が低い方法だった。

もう一つは膣外射精で、子だくさんの貧農で、夫の方もこれ以上子供はいらないという場合、可能な行為ではあるが、お互いに慣れ親しんだ、信頼関係にある者同志のみ、使える手段だろう。酒場の女性がお客に強要できることではない。

3番目が今でいえばコンドームで、当時そんな言葉はなく“Sheath”=「刀の鞘」と呼んでいた。問題はその材料で、もちろん現代のような極薄のラテックスは存在せず、羊の腸で作っていた。もちろん手作りで、したがって値が張った。「インドのゴム(indea rubber)」と呼ばれる今のコンドームに近いものが登場したのは、1840年代になってからのことだ。コンドームは男性が合意してくれれば、確実な避妊法ではあったが、辺境でのサルーンで働く女性たちが簡単に安く手に入れられるモノではなかった。

そして妊娠してしまったら、父なし子を産むか堕胎しか道はない。堕胎は現在に至るまで政治を動かす大問題だが、パイオニア時代も当然禁止されており、堕胎は犯罪とみなされていた。しかし、それが行われなかったというのではない。逆に母体を危険に陥れるようなやり方、器具で掻爬することは一般的に行われていた。もちろん医師が清潔な、殺菌を十分に施した道具で行うのではなく、やり手ババアが経験に物言わせただけの手術ともいえない処置を施していた。

当然、母体が死ぬことも多発した。そして、ありとあらゆる怪しげな赤ちゃんを流す化学薬品が横行し、中には子宮に一種の毒を入れ、胎児を殺すことまで行われていた。これらの薬物による堕胎促進は、当然、母体をしばしば危険に陥れ、死んだ。一般的に知られていたのは、“Ergot”という麦角剤で発酵させた麦から取った止血剤、子宮収縮剤で、母体への副作用が大きかった。

マラリアの特効薬「キニーネ」も堕胎効果?があるとされ、盛んに服用されていた。何とも乱暴なことだが、酒場の女でなくとも、開拓民の女性たちが妊娠、出産に絡んだ死亡率は非常に高かった。

そこへ持ってきて、性病が蔓延と言い切って良いくらい広がっていた。男、女の区別なく性病に罹っていた。正確な数字を上げることはできないが、多く見積もる歴史家で、西部に生きる人、男女の75%は病気持ち、淋病か梅毒、あるいはその両方に罹っていたと推定している。

コロンブスが新大陸から持ち帰った梅毒はアレよという間にヨーロッパ全土に広がったが、今度それを北米に運び込み、植民、パイオニアに広げ、原住インディアンに移し、鉱山町では鉱夫たち、カウボーイらが拡散した。しかし何と言っても、性病拡散に大きな役割を果たしたのは騎兵隊だった。

彼らは砦の中で禁欲生活を強いられ、ごく稀にインディアンとの戦闘があればインディアンの女性を強姦し、その後褒賞としていく日かの休暇が与えれると、近隣の町に繰り出し、サルーンや娼館で散財、発散した。そして次なる勤務地に移動し、同じことを繰り返していた。何分にも広範囲に移動していたから、性病はどこへでも付いて回った。

サルーンの女性たちを性病から守る策も盛んに練られたが、有効な方法はなく、高級な娼館では、ウチで性病に罹ったら、料金を返済すると打ち出したパーラーもあったが、何軒もの娼館をハシゴし、何人もの娼婦を抱く男どもに、ここでアイツから感染させられたという証明などできるはずもなく、掛け声だけで終わった。

また、ある娼館では娼婦たちに客のペニスを石鹸でよく洗わせ、その時にペニスに奇妙なデキモノの有無を確認させた。これは広く行われていたようで、男性客は思いがけず自分のプライベートを愛しむように洗ってくれるだけでも、大変なサービスだととった。奇妙なデキモノのある客は、お引き取りいただくよう指導していたが、どこまで男どもが素直に引き上げたかは定かではない。

華やかに見えるサルーンの花は、我が身を削りながら身を滅ぼす危険を犯しながらの仕事だった。客層の良い娼館の娼婦たち、例えばモンタナのヘレナの町の娼婦たちは、平均で週233ドルの水揚げがあったと、調べている地方史家がいる。1880年に週150ドルから250ドル稼いでいたというのだ。それは鉱夫たちの給料週給15ドルから25ドルに比べ、とてつもなく良い収入ではある。

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これらは、もちろん現代のヤラセの写真で
パイオニア時代のサルーンの女性たちの衣装を販売するサイトまである


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第9回:酒場サルーンと女性たち その9
  
■ラウラ・ブリヨン、あるいはデラ・ローズ、あるいはフリーダ その1

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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第2回:酒場サルーンと女性たち その2
第3回:酒場サルーンと女性たち その3
第4回:酒場サルーンと女性たち その4
第5回:酒場サルーンと女性たち その5
第6回:酒場サルーンと女性たち その6
第7回:酒場サルーンと女性たち その7

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