第244回:セクハラ事件の保釈金
幼い少年や少女がセックスの犠牲になるのは、閉鎖的な宗教グループの中だけに限ったことではありません。カソリックの司祭さんが子供たちを性の対象にしてもてあそび、天文学的な額の慰謝料を支払った事件がありましたが、今度は子供たちをスポーツを通じて健全に育てようという、まことに結構な趣旨の慈善団体『セカンド・マイル』を組織し、地域で尊敬を集めていた大学チームの助監督が加害者でした。
彼の名前はジェリー・サンダスキーと言い、ペンシルバニア州立大学で長いこと、アメリカ大学フットボール界で超有名なジョー・パテルノと一緒に名門大学のフットボールチームを育ててきた人です。
スポーツに疎い私でもジョー・パテルノの名前を知っているくらいですから、アメリカの男性なら100%知っているような人物です。そのジョーと伴にペンシルバニア大学にこの人ありと言われ続けてきたジェリー・サンダスキーが、十数年間にわたり、子供たちに猥褻行為を繰り返していたというのです。
ペンシルバニア州立大学は、"カレッジタウン"という州の東はずれにあります。カッレジタウンは周辺の町を入れても10万人に満たない町で、俗に"ハッピーバリー"(幸福な谷間)と呼ばれる美しい静かな大学町です。
大学のフットボール(アメフト)のシーズンになると、町中がアメフト一色になるようなところです。そこのアメフトの監督は、学長や市長より遥かに良い給料と契約金を貰い、警察や裁判官より力を持っている、いわばアンタッチャブルの神聖な存在だと言われています。町にはジョー・パテルノの銅像さえ立っているほどです。
その大学フットボールチームのディフェンス(防御)専門の助監督、ジェリー・サンダスキーが15年間、子供たち相手にセックスをしており、その時、サンダスキーを訴えた子供や親もいたのですが、ボス格のジョー・パテルノは大きな問題として取り上げず、警察も何もしなかったのですが、今度、やっと2人、3人と被害者が立ち上がり、ついに10人もの少年(元少年)がサンダスキーを相手取って裁判を起こすに至って、やっと学長、市長、裁判所、ついには州知事まで乗り出す大事件に発展し、事件はたくさんの犠牲者を生みながらやっと日の目を見る目に至りました。
アメリカ資本主義は、お金持ちにとってはとても都合よくできています。税金面でも医療面でも、持てる者は特権を享受できるようになっています。裁判においても、優秀な弁護団を雇い、もし同じ事件で貧乏な黒人やヒスパニックが裁判に掛けられるのと、超大金持ちのドラ息子や娘が被告席に立つのとでは、判決がまるで違ってきます。
ジェリー・サンダスキーは40件に及ぶ罪状で逮捕されましたが、一度目は即日、二度目は翌日に保釈され、拘置所を出て、自分の家で今までと同じように生活しているのです。というのは、サンダスキーはすぐに保釈金を支払ったからです。もちろん、保釈金を払えない人はそのまま拘置所に裁判の日まで拘留されます。雑居房は地獄以下だと言われている……ところもあります。
彼の保釈金ですが、検察側は100万ドル要求しましたが、弁護側の主張を大幅に認めた判事は4分の1の25万ドルを言い渡しました。日本円で2,000万円相当です。それをポンと払い、足首にGPSの発信装置をつけられてはいるものの、大学構内、セカンド・マイルの建物に近づかないという条件の下で、サンダスキーは元の自分の生活に戻ったのです。これで、まだ始まってもいない長い裁判までの期間中、サンダスキー被告は自宅出勤で裁判に出廷できることになります。
保釈金は判決が下った時点で被告に返却されます。25万ドルをポンと払えるのは凄いと思い、他の同じようなセクハラ事件の保釈金を調べてみたところ、ニュージャージー州の中学校の先生は12歳の生徒にイタズラしたとして、40万ドル(3,200万円ほど)、フィラデルフィアのバスケットボールの監督は13歳の少年に対する犯行で200万ドル(1億6,000万円ほど)、サウスカロライナ州で少年5人に猥らことをした容疑者のコーチには100万ドル(8,000万円ほど)の保釈金を科していますから、サンダスキー容疑者に対する25万ドルはまさにバーゲンで、とても安いと言えます。
最近になって、また二人の元少年がサンダスキーの犠牲になったと訴え出てきました。これからもますます名乗り出る犠牲者が増えてくることでしょう。
日本には『地獄の沙汰も金次第』というコトワザ(諺)がありますが、アメリカではそんなことはコトワザにするまでもなく、ゴク当たり前のことのようです。
うちの仙人ダンナは、「自分が少年たちにどんな思いをさせたのか身を持って分からせるためには、あいつ等には保釈など認めず、凶悪犯が拘留されている拘置所にぶち込み、その雑居房で存分にオカマを掘られ、エイズにでも罹ったほうが身のためだ」と仙人らしからぬ乱暴なことを言って、憤っていますが、どんなものでしょう。
第245回:2011年に亡くなった有名人のこと
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