第29回:Shanghai (8)更新日2006/08/10
上海の次は雲南へ向かう予定だったのだが、上海や蘇州があまりにごみごみと汚らしく、それでいて抑えきれないような活気を放つエネルギーを感じるにつれ、どうしても今の北京を見たくなってきた。
よく言われるように広い中国は、北と南ではまったく違った文化を持っている。経済界、政界を問わずに、現在の中国中枢部を牛耳るといわれる上海出身者たち、その街を訪ねたその足で、もう一方の中国を代表する顔である北京を訪ねてみたいと思ったのだ。
もちろんほんの数日間観光地巡りをしたからといって何が分かるわけではないが、旅人とはそういうものだ。ある地点から、ある地点へと渡り歩き、その場の空気を自分なりに記憶に刻み込んでいく。世界は広い、そしてそこに住む人たちの習慣や文化はもっと広い、それを個人同士がどうのこうのと相互理解するのは不可能に近いことだ。だからこそ結局は自分自身でその目で見て、浅いものであれ、深いものであれ消化していくしかないのだ。半月しかない中国での残り時間を逆算しながら、北京行きの切符を手に入れた。
上海最後の日は、観光客らしく「豫園」などの有名観光地や「南京東路」をぶらついたりして時間を過ごし、夜は「上海雑技団」を楽しむことにした。この雑技団の劇場へ入ってびっくりしたのは、観客がほぼ全員が日本人だったということだ。そういうこともあってか、司会者も英語とともに日本語での解説も加えて進行していた。
上海という街は、これまでどうも好きになりきれなかったが、この雑技団だけは観光客として単純に楽しませてもらった。特にこれといった芸もなくトランプのカードをただバラバラ、バラバラとひたすら無口に撒き散らす女性には、他の曲芸者が余りに素晴らしい芸を持っていただけに、終わってからかえって強い印象が残ってしまい夢にまで出てきてしまった。
丸一日観光客をした後の夜食には、これからの旅に備えてそろそろ胃を鍛えてやろうと、裏通りにあるイスラム系中国人が経営するウイグル風牛肉麺を食べることにした。その店の余りの薄汚さにエリカは尻込みしてしまい、結局は手を付けることすらできなかったが、目の前で麺職人が開いては閉じてを繰り返すたびに細く長く伸びていく麺を、意外にも旨いことに驚かされながら一人で舌鼓をうった。
この店の店主も外人が自分の店へやって来たのは初めてのことらしく、初めこそ、「本当にこれを食べるのか」などと手振りで確かめてきたのだが、店の子供たちも含めて気さくな人たちで、いつの間にやらスカーフを纏った奥さんらしき女性、子供たち3人、知り合いらしき客一人がテーブルに寄ってきて、食べる間中じっと眺め続けるので、なんだかちょっと恥ずかしかった。
食べ終わった後で、皿を店の横にある溝に流れているドブ水で濯いでいるのを見た時には、あれだけ旨いと思ったのも忘れて思わず吐きそうになってしまったが…。
-…つづく
第30回:Peking (1)