旧越美南線、現在の長良川鉄道の北濃駅から、JR越美北線の終点九頭竜湖駅までは約15㎞離れている。このまま北へ抜けて福井に入るのもおもしろそうだ。地図を見ると、尾根越えの道は険しく景色も良さそうだ。が、そこへ向かえば帰り道はどうする。糸の切れた凧のように、帰るきっかけを失ってしまう。私はグッと我慢して、長良川鉄道で折り返した。もっとも、北濃と九頭竜湖を結ぶバスはない。かつては終点の手前の美濃白鳥から九頭竜湖までバスが出ていたけれど廃止されてしまった。
帰りの車窓。私は進行方向に背を向けて、ちらちらと見える大日ヶ岳を目に焼き付けた。いずれ九頭竜湖側から眺める日が来るだろう。それまでしばしお別れである。陽が少し傾き、新緑の迷彩模様に陰りが出ている。それがまたいい。
帰り道は関を通過し、長良川鉄道に乗り通した。終点の美濃太田は中山道の宿場町に歴史を発する要衝で、高山本線の主要駅でもある。駅の構内には転車台もある。長良川鉄道のSL走行には良い条件が揃っている。京都の梅小路に蒸気機関車の保存館があって、そこから交代で回送してくれば観光資源になりそうだ。
さて、美濃太田からは3方向に乗り継げる。高山本線で岐阜方面、その逆方向は富山方面、そして、中央本線の多治見へ抜ける太多線だ。どの路線も乗ったことがない。どれも乗りたい。しかし選ばなくてはいけない。腹を空かせて定食屋に来たような気分だ。
太多線のディーゼルカー。
今日の旅は岐阜に始まり岐阜に終わる予定だから、高山本線で岐阜に向かうルートが順当だけれど、まだ明るいし、もう少し列車に揺られていたい。かといって富山に行っては収拾がつかない。改札を出て時刻表を眺め、太多線のホームに向かった。
太多線は美濃太田から多治見まで約18kmの路線だ。単線で非電化だが、ローカル線かというとそうでもなく、お客さんは多い。全区間が名古屋や岐阜への通勤圏になっている。関東で例えるなら八高線のような位置づけかもしれない。
列車は美濃川合を過ぎると木曽川を渡る。川幅は広く、昨日までの雨のせいか水量が多い。堂々たる鉄橋をたった2両のディーゼルカーが渡っていく。川辺から眺めたら、水面に列車が映っておもしろいだろうなと思う。
車窓は住宅街ばかりで感じるところはあまりない。途中に"姫"という駅があって、所在地は多治見市姫町。どんな美女が現れるだろうかと思う。ほっそりとした年頃の娘さんがひとり乗り、昔は姫だったとおぼしき人が何人か降りた。
さあ、そろそろ岐阜へ戻ろう。多治見からは名古屋へ、セントラルライナーという快速電車に乗る。310円の乗車整理券が必要で、昔風に言うと急行料金にあたる。国鉄末期からJR発足時期にかけて、特急列車の人気が高まり、私鉄との競合から快速列車が増発されると、利用金も速度も半端な急行列車は次々に廃止され、特急に格上したり快速に格下げしたりと変化した。しかし最近、乗車整理券や全車指定席券が必要な有料の快速列車が増えている。いっそ急行に格上げすればいいのに、と思う。
名古屋から岐阜へは東海道線で約20分。しかし私は敢えて新幹線に乗った。名古屋から岐阜羽島までは15分。しかし料金は1410円で倍以上かかる。アホらしいと思うけれど、岐阜に来たついでに、岐阜羽島から岐阜までの名鉄羽島線、竹鼻線に乗るため、一筆書きで岐阜に向かうルートを選んだ。新幹線は通勤ラッシュ並みの混雑で、私は今日がゴールデンウィークの最終日だと思い出した。
新幹線は名神高速と併走、木曽川を渡った。
いまさら私が書くこともないけれど、岐阜羽島駅は殺風景な場所にある。新幹線が名古屋から米原へ短絡するために岐阜の中心部を通らず、遙か南側をバイパスしたからだ。名神高速のインターチェンジもこの付近にある。岐阜は織田信長の居城があって古くから栄えた所だけれど、近代交通には恵まれなかった。岐阜羽島駅は岐阜の南の玄関として作られたはずだが、ほとんどの人々は名古屋から新幹線に乗るだろう。岐阜羽島より名古屋のほうが時間的に近いのだ。その証拠に、インターネットの乗り換え検索で岐阜と岐阜羽島間を調べると、まず名古屋へ出て新幹線に乗れと示される。
市民に見放されそうな岐阜羽島駅だが、この駅のおかげで名鉄竹鼻線は助かった。竹鼻線は名鉄本線の笠松を起点とし、木曽川と長良川が合流する大須まで通じていた。しかし2001年10月に末端区間が廃止された。岐阜羽島駅ができたとき、途中の江吉良から岐阜羽島駅前の新羽島まで羽島線を建設し、岐阜中心地と新幹線との連絡輸送の役目を得た。そうでなければ羽島市役所前駅から先は切り捨てられただろう。
しばらく土産物を物色したのち、駅前広場を歩いて新羽島駅に着いた。ホームは高架にあり、長い階段を上らされる。なぜエスカレーターがないのか、どうして新幹線の駅と離れているのかと思う。鉄道を作る人ですら、鉄道の利便性など気にかけていないのか。名鉄のホームは新幹線と同じ高さにあって、新幹線の長く速い車両が良く見える。しかもほとんどは通過する。陽が傾き、コンクリートがオレンジ色に光り始めた頃、ようやく赤い電車が現われた。
名鉄羽島線、竹鼻線は全区間単線だ。上下の列車はほぼ15分間隔で走っており、新岐阜まで直通する列車だと30分かかる。列車交換の設備を考えるとこれが本数の限界だろう。しかし新幹線連絡を考慮するなら新岐阜-新羽島間に急行を設定し、所要時間20分以下を目指したい。もっとも、岐阜から名古屋まで、東海道線の快速列車で18分である。やっぱり名古屋のほうが便利だ。
名鉄羽島線の電車が高架線を上ってきた。
たったひと駅の羽島線区間が終わり、江吉良に着く。後方を眺めると、大須へ伸びていた線路の跡がある。数人だった乗客は個々から少しずつ増え始め、笠松に着く頃は全席が埋まった。この電車は新幹線連絡よりも、むしろ地元の生活の足になっているようだ。
電車はここから急行運転で新岐阜に直通する。名鉄の新岐阜駅は各務原線の駅と本線の駅がⅤの字につながっていて、両駅の趣はかなり違う。本線の駅は構内の出入り口の線路が1本しかなく、複線の線路がひとつに交わり、また分岐する構造になっていた。まさにボトルネックだが、線路の表情がおもしろく、私はそこでしばらく電車の往来を眺めた。
11時間ぶりの岐阜駅。疲れたと弱音を吐いている場合ではない。JR岐阜駅に隣接した駐輪場に、私は愛用の400ccのスクーターを預けている。前々日、私は東京からバイクのイベントに参加するために愛車で岐阜にやってきた。その距離をこれから帰るのだ。
新岐阜駅の出入り口。
■第55回
~第60回の行程図
(GIFファイル)
2004年5月5日の新規乗車線区
JR:17.8Km 私鉄:125.5km
累計乗車線区
JR:15,634.5Km 私鉄:2,910.8km
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