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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
 

第391回:流行り歌に寄せて No.191 「愛の奇跡」~昭和43年(1968年)

更新日2020/03/05



それぞれ経緯は異なるが、デュオを組んだことがきっかけで、夫婦になった男女の歌手は、それなりに存在するようだ。古くは、霧島昇とミス・コロムビアこと松原操の二人。昭和13年、大ヒットした映画『愛染かつら』の主題曲『旅の夜風』をデュエットで吹き込んだことがきっかけで、その後に結婚している。

私たちのよく聴いていた時代になると、チェリッシュの松井悦子と松崎好孝。最初は複数のメンバーがいたチェリッシュが、デュオ・グループとなり、そのうちに二人は一緒になった。最近ではハンバート ハンバートの佐野遊穂と佐藤良成が同じような経緯をたどっている。

チェリッシュとほぼ同じ時期に活動を開始、同じように今も歌い続けているダ・カーポの久保田広子と榊原まさとしも、デュオ結成から7年の長い時間を経て結婚した。

長い間、デュオ・グループを組んで歌っていても、一緒にならないケースもある。田辺靖雄と梓みちよ、そしてトワ・エ・モアの白鳥英美子と芥川澄夫などがその例である。私などは、最近まで、トワ・エ・モアの二人は結婚していたものと勘違いしていた。

結婚した後にデュオを組んだのは、『愛の挽歌』のつなき&みどり(のちに離婚)や、赤い鳥解散直前に結婚し、その後、紙ふうせんというデュオ・グループを組み『冬が来る前に』の大ヒット曲を持つ平山泰代、後藤悦治郎がいる。

さて、前置きが長くなったが、ご承知の通りヒデとロザンナの出門英(本名・加藤秀男)とロザンナ・ザンボンも、コンビ・グループになったのがきっかけで、結婚したカップルである。

ヒデは、最初は水木英二という芸名の日活の映画俳優だった。昭和38年、フランク永井の同名の曲を映画化した日活映画『霧子のタンゴ』に出演している。その後、歌手に転向し、ソロ歌手として『東京ロマンチックガイ』を東芝レコードから出すが、ほとんど知られていない。

そして、出門ヒデと改名後、ユキとヒデという名のデュオ・グループを佐藤由紀(後に、ソロでアン・真理子と名乗り『悲しみは駆け足でやってくる』というヒット曲を出した)と組み、二代目のユキの矢野育子とも組んで何曲かのレコーディングをしたが、ヒットにはほど遠かった。

一方のロザンナ・ザンボンは、イタリアの音楽院を卒業後、両親の借金返済のため、日本で音楽活動をしていた叔父を頼り、グループ歌手として17歳で来日した。

どのような関係でそうなったかは、今回わからなかったが、二人はその翌年の昭和43年にデュオ・グループを結成し、10月15日に『愛の奇跡』をリリースした。

よくある話ではあるが、最初は『愛の奇跡』はB面であり、A面の曲は『何にも言えないの』というタイトルだった。この曲を売り込むために福岡からキャンペーンを開始し、東上するのだが、佐賀県の有線放送で『愛の奇跡』にリクエストが集中したため、急遽AB面を入れ替え、レコード・ジャケットも変更して改めて売り出したところ、大ヒットとなった。


「愛の奇跡」  中村小太郎:作詞  田辺信一:作曲  中川昌:編曲  ヒデとロザンナ:歌  


淋しげな 雨に濡れた君の

くちびるが 忘れられなくて

別れても 私は信じたい

いつの日か あなたに

愛される愛の奇跡

 

激しく 燃えてる

心を 掴んで

放さぬ この恋 この愛

振り向かぬ 冷たい君だけど

いつの日か あなたに

愛される愛の奇跡

 

黄昏を ひとり歩くきみの

横顔が とても好きだった

別れても 私は信じたい

いつの日か あなたに

愛される愛の奇跡

愛される愛の奇跡

愛される愛の奇跡

 

作詞の中村小太郎は、画家として有名であり、岡本太郎のアトリエで制作助手を務めていた経験もある人のようだ。最初のA面であった『何にも言えないの』の詞も彼の作品である。

また音楽グループ「北海道歌旅座」の主要メンバー吉田淳子が曲を書き歌っている『夢は逃げない』の作詞を手掛けている。この曲は多くの人々の心を掴んでいることを、今回調べているうちに気がついたので、引き続きその周囲のことも知っていきたいと思っている。

作曲の田辺信一は、元々はジャズ畑の人だが、作曲のほかに編曲や映画、テレビ音楽の世界で活躍した人物である。殊に、東宝映画の市川崑監督、石坂浩二主演の金田一耕助シリーズ『獄門島』『女王蜂』『病院坂の首吊り坂の家』の音楽担当として活躍している。

編曲の中川昌は、トランペット奏者から作・編曲の世界に入っていった人であり、ミュージカルほか、多方面の音楽の世界でその才能を発揮している。

このコラムを書くようになって、耳にしたことが少ない音楽家の方々が、実は大変重要な仕事をされていることを知り、改めて感銘を覚えるのである。

さて、イタリアから来日してそれほど時間が経っていないロザンナが、あまり不自然さを感ぜずに日本語の歌詞を上手に歌っていると、私は当時から思っていた。今考えると、覚悟を持って日本にやって来て、必死の思いで日本語を身につけたのだろう。

そして「アモーレ アモーレ・ミオ ティ・アモ ティ・アモ」という台詞。原語では “Amore, amore mio. Ti amo, ti amo”と綴るようだが、「愛しい、私の愛するあなた、愛しています」という情熱的なイタリア語は、おそらく私が意識して聞く最初のイタリア語だったと思う。

一方のヒデについては、その後、関口宏の詞に、彼が曲をつけ、小柳ルミ子がが歌った『星の砂』を聴いたとき、すごい才能の持ち主なのだなあと、心底感心したものである。もともと曲作りの才能があり、ヒデとロザンナの曲の作詞・作曲も手掛けたこともあるそうだが、壮大でドラマチックかつ繊細なメロディーを持つ『星の砂』は秀曲である。

生前、とにかく女性にもて過ぎて、ロザンナは常にヒデに手を焼いていたそうだが、その出門ヒデが亡くなって、この6月で20年になる。

その夫と同じ墓に入りたい。子どもに相続のことで苦労をかけたくないという思いから、ロザンナは平成28年に入って帰化の申請をし、1年3ヵ月後の平成29年3月に日本国籍を取得している。彼女の本名は、夫の死後17年経ってから「加藤絽山奈」になった。

-…つづく

 

 

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


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