第339回:流行り歌に寄せて No.144「星のフラメンコ」~昭和41年(1966年)
前回の『空に星があるように』から2回続けて“星”がタイトルにつく曲のご紹介になる。今までも『星の流れに』『星影の小径』『星は何でも知っている』『見上げてごらん夜の星を』『星影のワルツ』などを取り上げており、今回が実に7回目の、まさにセブンスターズということになる。144分の7、20曲に1曲は星のタイトル、かなりの数と言える。
西郷輝彦もこの曲の前後に『星空のあいつ』『星娘』『星と俺とできめたんだ』『あの星と歩こう』『兄妹の星』『星のフィアンセ』などがあり、星が好きな歌手と言えそうだ。
“星”と言えば、私にとっては、この曲が流行ってからちょうど1年後くらいに、新しい星との出会いがあった。この曲の頃、昭和41年の夏にはまだ長野県にいたのだが、翌年1月に名古屋市の港区の小学校に転校する。
詳しいことは、今後の曲のご紹介の時に追い追い触れさせていただくが、とにかく今までの牧歌的とも言える小学校生活が一変、潮風に吹きさらされたような乾いた人間関係になり、それにただ戸惑い、思い悩んだ。空を見上げても、くすんだ空には長野県にいた頃の数分の1くらいしか星が見えず、なんだか悲しかった。前の生活にひたすら戻りたかった。
そんな時、小学校の授業で名古屋市科学館に行く機会があった。そこで私は生まれて初めてプラネタリウムを観た。そこに展開される星の世界に、私は心から感動した。よく通る低音の声で星座解説をする解説員の方に、強い憧れの気持ちを抱いた。名古屋にも良いことがあるのだと、この時初めて感じたのである。
「星のフラメンコ」 浜口庫之助:作詞・作曲 小杉仁三:編曲 西郷輝彦:歌
1.
好きなんだけど 離れてるのさ
遠くで星を みるように
好きなんだけど だまってるのさ
大事な宝 かくすように
君は僕の心の星 君は僕の宝
こわしたくない なくしたくない だから
好きなんだけど 離れてるのさ
好きなんだけど だまってるのさ
2.
とどかぬ星を 恋した僕の
心を歌う 星のフラメンコ
輝け星よ 君の夜空で
歌えよ涙 僕の心で
君は僕の心の星 君は僕の宝
こわしたくない なくしたくない だから
歌うよせめて 心の歌を
ひびけ夜空に 星のフラメンコ
星のフラメンコ
西郷輝彦は昭和41年2月にスペインのマドリードを訪れ、フラメンコに出会って、大いに感動したそうである。その話をハマクラ先生の自宅に挨拶に行った時にすると、西郷の次回曲の構想を練っていたハマクラ先生は「よし、次はフラメンコで行こう!」ということになり、西郷もそれを強く希望したため、先生は曲を書き上げた。
同年7月1日に売り出されると大ヒットとなり、その年の『第17回NHK紅白歌合戦』では白組のトップバッターとしてこの曲を披露した。この大ヒットで、ビクター、コロムビア、キングなどの大手に後塵を拝していた、まだ新生の日本クラウンが大いに潤ったという逸話も残っている。
また、この曲はこの年、同タイトルで日活により森永健次郎監督の手で映画化され、西郷は汪玲という台湾の美人女優との共演と、台湾での自身初めての海外ロケの経験を得ることになった。この映画の脚本は倉本聰だった。
西郷輝彦はといえば『星のフラメンコ』だと多くの人が答えるほどの、彼の代表曲となった。彼が出場した今のところ最後の紅白、それは昭和48年のことだったが、その時もこの曲を熱唱している。
トランペットが響き、フラメンコギターが奏でられるドラマチックなイントロ、そして「好きなんだけど(チャチャチャ) 離れてるのさ(チャチャチャ)」と情熱的な西郷の声、小学生だった私たちも、今まで耳慣れなかったこのリズムを、必死になって真似ていた。エンディングを「星のフラメ」まで歌った後「NCO」を何度も繰り返す、おバカでお調子ものの子も中にはいたが。
情熱的なリズムの割には、歌詞の内容は控えめでもどかしくもある。たびたび登場させて恐縮だが、NHK朝の連続テレビ小説『ひよっこ』の中で、三男が時子への切ない思いを、この歌に託して歌っていた。とんでもなく下手な歌い方で、それが逆に心に沁みた。下手な歌を歌うということは、歌手にはできない、役者にしかできない芸当だろう。
曲は真っ赤な炎のようでいて、詞はチロチロと燃える青く小さな火。やはりハマクラ先生、最高である。
-…つづく
第340回:流行り歌に寄せて No.145「こまっちゃうナ」~昭和41年(1966年)
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