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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第500回:アメリカが誇れるもの、国立公園(National Park)

更新日2017/02/16



アメリカの国立公園が設立されてから100年が経ちました。去年、その100年記念祭が主だった国立公園でそれぞれ盛大に行われました。

世界中、どこの国にも国が管理している自然公園や保護している原生林地域がありますが、そのお手本になっているのがアメリカの国立公園システムだと言ってよいでしょう。

自然、野生が大好きだったセオドル・ルーズベルト大統領が肩入れし、大富豪のカーネーギー一族が巨額のお金を使って広大な土地を買収し、民間の開発から自然を守ったことに始まります。 

現在、アメリカに35の国立公園(National Park)と国立モニュメント(National Monument;小規模な国立公園)があります。そこを訪れた人は年間3億1,500万人(2015年度)に及び、毎年急上昇しています。アメリカの総人口と同じくらいの、とんでもない数の人々が国立公園を訪れていることになります。

アメリカ人が定年退職した後、すぐにやりたがることの典型と言って良いでしょうか、キャンピングカーなどでの国立公園巡りがそれです。私たちもすでに十数箇所は国立公園を訪れていますが、なんとまあ年寄り夫婦が多いことでしょう。そのお年寄りと修学旅行の子供たちに国立公園が占拠されている感さえあります。

お年寄りだけではないのですが、国立公園パスポートのような手帳を持ち歩き、35の国立公園すべてのスタンプをそれに押してもらうのを目標にしている人が多いのには驚かされます。

こんな大人気の国立公園ですが、国の予算が不足していて、管理が行き届いていない、レンジャーの絶対数が少なすぎる(現在、39万5,000人だそうです)、道路やフェンス、ハイキングルートのメンテナンスが追いつかない…と危機感を煽っています。足りない部分はチャリティーやボランティア活動でどうにか補っているのが現状だそうです。

ところが、視野を広げて、国立公園がもたらす経済効果を見てみると、320億ドルもあるのです。政府が1ドル使うのに対して、それが10ドルになって地元周辺に戻ってきていることになります。これほど効率のよい経済政策は滅多にありません。

おまけに、国立公園が呼び物になり、外国からの観光客はうなぎ上りで、イエローストーン国立公園だけでも50万人の中国人観光客が訪れていて、公園では急遽3人の中国語を話すレンジャーを雇い入れたほどです。

日本の観光客はまだ、ロサンジェルス、ディズニーランド、ニューヨークに集まってしまい、そのついでにグランドキャニオンを覗くのがせいぜいのようですが、アメリカの良さ、魅力は自然の雄大さ、野生がいっぱい残っている(保護されたものですが)国立公園にあると思います。

全般的に言って、アメリカの国立公園は広大ですから、公園内を車で回ることしか考えていません。入口まで公共のバスや電車が走っているところは例外で、車か観光バスで回るのが原則です。中には自転車で回っている人も時々見かけますが、歩いて入場する人は皆無に近いでしょう。

それぞれ国立公園の入口ゲイトに車を止め、入園料を払います。車1台の料金設定ですから、5、6人乗っていても同じ料金です。入園料はその公園の人気によるのでしょうか、車1台10ドルから20ドルとバラつきがあります。

そこから車で数ヵ所、大きなところでは数十ヵ所のビューポイント、見晴らし台に車を進めます。園内での日帰りハイキングには許可などは必要ありません。公園内のキャンプ場は設備も良く、素晴らしい一夜を過ごすことができます。

ただし、キャンプ場使用料の20ドルから30ドルほどは別に払わなければなりません。問題は人気のあるキャンプ場はハイシーズン中はとても混んでいるので、前もって予約しないかぎりキャンプサイトを確保できないことです。

これほど人気のある国立公園ですから、その境界線の外はホテル、モーテル、レストラン、土産物屋が軒を並べ、ギョッとするくらい自然公園に似つかわしくない、ハデハデな看板が立ち並ぶことになります。 

アメリカ人なら誰でも一生に一度は訪れるというグランドキャニオン国立公園に隣接したフアラパイ・インディアン居留地に、グランドキャニオンの崖へ乗り出すような、床がガラス張りで見下ろせるスカイウォークができました。

インディアン居留地ですから、国立公園としての国の規制を受けないからこそできた暴挙?なのですが、自然保護の観点から猛反対した人たちの意見をよそに、建設費用を2年少々で元を取るほどの大人気で、近くにヘリコプター用のポートを作ったりで、フアラパイ・インディアンに大金を落としています。

それを間近に見ていたナヴァホ族はグランドキャニオンの東側、対岸は国立公園、リトルコロラド川を渡ればそこも国立公園という、ギリギリの境界線に崖の上に大きなリゾートを建設し、そして急な絶壁に登山電車を走らせ、谷底に降りるエスカラーダ・トラムウエイの建設を始めようとしています。ここを訪れる人の波は、お金が歩いているようなもの…なのだそうです。

アメリカだけではないでしょうけど、世界中どこへ出かけても、自然は徐々に俗化していく運命にあるようです。でもまだ、アメリカの国立公園にはそんな小さな人間の試みをあざ笑い、傷を無視するような雄大さがあります。日本の方々、もうディズニーの時代ではありませんよ、アメリカに来るなら、是非是非、国立公園の素晴らしさを堪能してください。

なんだか、アメリカ国立公園の宣伝になってしまいました。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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