石ノ森正太郎氏のマンガ『ホテル』に登場するホテル従業員たちは"気が利く人"ばかりです。彼らはお客さまがやりたいことを先読みして、さまざまなアイデアとサービスを実践します。物語のひとつひとつが"心温まるサービスとはなにか"を考えさせられるエピソードです。私が営業マンだった頃、このマンガにいろいろなことを教わりました。
さて、"気が利く人"とはどんな人でしょうか。私にとって気が利く人とは"こうしてあげたらいいな"と思ったことをスグに実行できる人です。たとえば、子供が椅子に座ったとき、テーブルの隅にジュース入りのコップがあったら、腕で倒さないようにテーブルの中央に寄せておく。あるいは、雨が降り出したとき、洗濯物を干している家に知らせる。こんな気配りができる人でありたいものですね。
これと同じように、文章を書くときも気配りが欠かせません。プロならば"気が利いた文"を書きましょう。さて、気が利いた文を書くにはどうしたらいいでしょうか? 簡単なことです。"こうしてあげたらいいな"と思ったことを書いてください。
たとえば、ここ『のらり』というWebサイトの紹介文を書いてみましょうか。
・『のらり』はコラムを掲載しているWebサイトです。ここにはさまざまな著者が執筆し、定期的に更新されています。
どうでしょう? 事象を淡々と説明しただけの、つまらない文章ですね。読み手は『のらり』について"コラムが載っている"、"著者は複数だ"、"新しいコラムが読めそうだ"という程度の情報しか得られません。その結果、"のらり、ああ、コラムだね、ふうん"という印象しか持たないでしょう。
ここで気配りすべき情報はなんでしょうか。では、修正版を読んでください。
・『のらり』は短時間で読めるコラムを集めたWebサイトです。ここには、タイのバンコクで生活する女性、フリーライター、音楽を愛する詩人、二児の母など、さまざまな分野の著者が登場します。原則として毎週木曜日に更新されます。
文章量は倍になり、『のらり』の魅力が伝わってきました。ポイントは"さまざま"と"定期的"のふたつの言葉をきちんと説明した部分です。
"さまざまな"だけではどんな著者がいるかわからない、そう思ったら、著者の例を挙げて説明しましょう。ここでは9人の著者のうち4人を例示しました。"バンコク"、"ライター"、"音楽"、"母"などのキーワードがあり、これらの言葉に敏感な人ならきっと興味をもってくれるでしょう。
さらに気を配るなら、この紹介文の読者層に合わせて例示する著者を選択しましょう。男性の読者向けなら"射撃・銃器インストラクター"、"カリブ海のヨットマン"がいいと思います。OLさん向けなら旅行好きが多いでしょうから、"ニューヨークやスペイン在住の女性"がいいかもしれません。
"定期的"は、"原則として毎週木曜日"とハッキリ書きましょう。こう説明すれば、読者にとって"最新のコラムをチェックするなら週末だな"、"毎週水曜日までにクリックすれば連載を欠かさず読めるな"という判断材料になります。
このふたつの説明によって、『のらり』は読者にとって、ずっと身近なサイトになったはずですね。説明に必要な資料はブラウザーをクリックするだけで入手できます。この小さな手間を惜しまずに、読者にとって詳しい情報を提供する。これがライターの気配りであり、気の利いた文章を書くコツです。
ただ書けばいい、事実を羅列すればいい、というだけなら、データベースのように列挙すればいい。ライターは読者の心に少しでも印象を残す文章を書きましょう。そのためには"書いておいたほうがいいかな?"と思ったことはキチンと書くべきです。
→ 第17回:コノときアレのドレがソウなる?