のらり 大好評連載中   
 
■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第371回:流行り歌に寄せて No.176 「伊勢佐木町ブルース」~昭和43年(1968年)

更新日2019/04/18


伊勢佐木町四丁目のイセザキモールにある、グランドピアノを象った『伊勢佐木町ブルース』の歌碑の五線譜には、あの有名な 『アァ アァ』というため息の部分、二分休符記号の上に括弧書きで、ただ(タメ息)と書かれているだけである。

川内康範の発案で、実にユニークな形でため息を曲の中に入れたこの名曲も、当時は「お色気過多」と考える人も少なくなかったようだ。2年ぶりに第2回出場を果たしたこの年の『第19回NHK紅白歌合戦』では、ため息部分を「カズー」という膜鳴楽器の一種を紅組司会の水前寺清子や、佐良直美など、他の出場者数人が吹いてその代わりとした。

まだ中学1年生の私にも、その光景は奇妙に映った。白組司会の坂本九は「ダチョウのため息ですか」と表現した。それから14年後の昭和57年『第33回NHK紅白歌合戦』で再びこの曲を披露した時は差し替えが行なわれず、ため息を聴くことができた。その時の紅組司会の黒柳徹子が、「『ため息』紅白初出場です」と紹介した後、青江が歌い始めたという。


「伊勢佐木町ブルース」 川内康範:作詞 鈴木庸一:作曲 竹村次郎:編曲 青江三奈:歌 

 

<歌詞削除>

 


今回改めて聴き直してみても、実に艶のある曲だなあとしみじみ思う。こんな曲、最近もうほとんど聴けなくなった。

この曲で第10回日本レコード大賞・歌唱賞を受賞した。そしてまた、この年から始まった第1回日本有線大賞(全国有線音楽放送協会・主催)のスター賞、第1回全日本有線放送大賞(讀賣テレビ放送、大阪有線放送社・共催)の優秀スター賞も併せて受賞している。

作曲の鈴木庸一は、このコラムNo.74 渡辺マリの『東京ドドンパ娘』でご紹介しているが、この後も佐伯孝夫と組んで青江には何曲か曲を提供している。

編曲の竹村次郎の仕事ぶりも、それはもう素晴らしいものである。代表的なものを挙げてみても、五木ひろし『ふたりの夜明け』、大川栄策『さざんかの宿』、加藤登紀子『知床旅情』、牧村三枝子『少女は大人になりました』、都はるみ『北の宿から』、八代亜紀『愛の終着駅』などなど。

歌手のステージ用のビッグバンドの編曲も数多く手掛け、まさに歌謡界では重鎮と呼ばれる人である。また、東京出身でありながら阪神タイガースの大ファンで、タイガース関連の曲もいくつか作っているという一面もあるようだ。

さて、私の小学校の終わりから中学の初めにかけて現れた青江三奈、子供心をドクドクと揺さぶったのは、その声とともに髪の色であった。金髪に近い色合いで、その艶(なまめ)かしさにはほとほと参ってしまった。その髪を見るだけで、とんでもない大人の世界に引き込まれるようで、とても怖がっていたのである。

-…つづく

 

 

第372回:流行り歌に寄せて No.177 「ゆうべの秘密」~昭和43年(1968年)


このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


金井 和宏
(かない・かずひろ)
著者にメールを送る

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


バックナンバー

第1回:I'm a “Barman”~
第50回:遠くへ行きたい
までのバックナンバー

第51回:お国言葉について ~
第100回:フラワー・オブ・スコットランドを聴いたことがありますか
までのバックナンバー

第101回:小田実さんを偲ぶ~
第150回:私の蘇格蘭紀行(11)
までのバックナンバー


第151回:私の蘇格蘭紀行(12)
第200回:流行り歌に寄せてNo.12
までのバックナンバー


第201回:流行り歌に寄せてNo.13
第250回:流行り歌に寄せて No.60
までのバックナンバー


第251回:流行り歌に寄せて No.61
第300回:流行り歌に寄せて No.105
までのバックナンバー


第301回:流行り歌に寄せて No.106
第350回:流行り歌に寄せて No.155
までのバックナンバー


第351回:流行り歌に寄せて No.156
「僕らの町は川っぷち」~昭和42年(1967年)

第352回:流行り歌に寄せて No.157
「この広い野原いっぱい」~昭和42年(1967年)

第353回:流行り歌に寄せて No.158
「小指の想い出」~昭和42年(1967年)

第354回:流行り歌に寄せて No.159
特別篇 「森田童子の訃報に接して その1」

第355回:流行り歌に寄せて No.160
特別篇 「森田童子の訃報に接して その2」

第356回:流行り歌に寄せて No.161
「僕のマリー」~昭和42年(1967年)

第357回:流行り歌に寄せて No.162
「夜霧よ今夜も有難う」~昭和42年(1967年)

第358回:流行り歌に寄せて No.163
「花はおそかった」~昭和42年(1967年)

第359回:流行り歌に寄せて No.164
「世界の国からこんにちは」~昭和42年(1967年)
第360回:流行り歌に寄せて No.165
「ブルー・シャトウ」~昭和42年(1967年)

第361回:流行り歌に寄せて No.166
「あなたのすべてを」~昭和42年(1967年)
第362回:流行り歌に寄せて No.167
「花と小父さん」~昭和42年(1967年)

第363回:流行り歌に寄せて No.168
「真赤な太陽」~昭和42年(1967年)

第364回:流行り歌に寄せて No.169
「好きさ好きさ好きさ」~昭和42年(1967年)

第365回:流行り歌に寄せて No.170
「君に会いたい」~昭和42年(1967年)
第366回:流行り歌に寄せて No.171
「バラ色の雲」~昭和42年(1967年)

第367回:流行り歌に寄せて No.172
「新宿そだち」~昭和42年(1967年)

第368回:流行り歌に寄せて No.173
「虹色の湖」~昭和42年(1967年)

第369回:流行り歌に寄せて No.174
「小樽のひとよ」~昭和42年(1967年)

第370回:流行り歌に寄せて No.175
「帰って来たヨッパライ」〜昭和42年(1967年)



■更新予定日:隔週木曜日