第242回:流行り歌に寄せて No.52 「月光仮面は誰でしょう」~昭和33年(1958年)
私が生まれて初めて両親から買い与えられたレコードは、A面『月光仮面は誰でしょう』、B面『月光仮面の歌』の、いわゆるSP盤レコードだった。
SP盤とは、LP盤レコード登場があった後に作られた言葉で、LPが出るまでは単にレコードと言っていた。LPとは、long
playingの略。と、ここまでは知っていたが、お恥ずかしい話、私は今回まで、SPとは、short playingの略だと思い込んでいた。正しくは、standard playingの略であるらしい。
レコード盤の中央には、二丁拳銃を構えた月光仮面が描かれているのだが、蓄音機のトーンアームを上げると驚く速さで回転し始め、月光仮面の姿を必死に追おうとした幼少の私は、すぐに目を回してしまった。
LPが、1分間に33・1/3回転なのに対し、SPは78回転。LPの2.34倍の速度で回っているのだから、それは今見れば、一瞬笑ってしまえるほどの速さだ。
「月光仮面は誰でしょう」 川内康範:作詞 小川寛興:作曲 近藤よし子、キング子鳩会:歌
1.
どこの誰かは知らないけれど 誰もがみんな知っている
月光仮面のおじさんは 正義の味方よよい人よ
?疾風(はやて)のように現れて 疾風のように去ってゆく
月光仮面は誰でしょう 月光仮面は誰でしょう
2.
どこかで不幸に泣く人あれば かならずともにやって来て
真心(まごころ)こもる愛の歌 しっかりしろよとなぐさめる
誰でも好きになれる人 夢をいだいた月の人
月光仮面は誰でしょう 月光仮面は誰でしょう
3.
どこで生まれて育ってきたか 誰もが知らないなぞの人
電光石火(でんこうせっか)の早わざで 今日も走らすオートバイ
この世の悪にかんぜんと 戦いいどんで去ってゆく
月光仮面は誰でしょう 月光仮面は誰でしょう
作詞の川内康範(こうはん)は、日本初のフィルム制作による国産連続テレビ映画『月光仮面』の原作及び脚本を手掛けている。その後も、『七色仮面』『愛の戦士 レインボーマン』などのヒーロー物の他に、映画、小林旭主演『南国土佐を後にして』、渡哲也主演『東京流れ者』などの原作者である。
作詞した曲は、和田弘とマヒナスターズ『誰よりも君を愛す』、青江三奈『恍惚のブルース』『伊勢佐木町ブルース』、城卓矢『骨まで愛して』、水原弘『君こそわが命』、内山田洋とクールファイブ『逢わずに愛して』、布施明『愛は不死鳥』、森進一『銀座の女』『おふくろさん』など、大きなヒット曲が正にきら星の如くある。
人の心から沸々と湧いてくるような「情念」を書かせたら、この人は実にうまい。カラオケで私自身はこの人の歌を歌うことはめったにないが、他の人が歌っている時に画面に映る歌詞を見ていて、いつもただ感心しているのだ。
大正9年(1920年)2月生まれ、平成20年(2008年)4月没。享年88歳。
作曲の小川寛興(ひろおき)は、最初オペラ歌手を目指すが挫折し、服部良一の内弟子となり、作曲及び管弦楽法の教えを受ける。
川内との『七色仮面』を皮切りに、『鉄腕アトム」『怪傑ハリマオ』『隠密剣士』『仮面の忍者赤影』などの、こちらもヒーロー物の他に『おはなはん』『細うで繁盛記』『ありがとう』などテレビドラマのテーマ曲も多い。
歌謡曲では、倍賞智恵子の『さよならはダンスの後に』、中村晃子の『虹色の湖』など、大人の雰囲気を持つ曲も手掛けている。
大正14年(1925年)3月生まれ。日本作曲家協会監事の経歴を持つ。
歌を歌っている「近藤よし子、キング子鳩会」は、キングレコード専属の、少女童謡歌手と合唱隊なのだろう。レコード盤には上記の表記があるが、テレビドラマのクレジットには「近藤よし子、小鳩くるみ会」と表記されている。
ところで、テレビドラマの冒頭、ワンフレーズだけかかる『月光仮面の歌』(こちらもレコード表記は「歌」だが、テレビのクレジットは「唄」とある)、同じく川内、小川による作品である。作品の中にもメロディーは度々登場してくる。
「唄」っているのは三船浩と言う人で、当時はフランク永井、神戸一郎らとともに低音の魅力で人気があり、NHK紅白歌合戦にも3回出場している。
私は、実は子どもの頃から、どちらかと言えばこの哀愁を帯びたバラードの方が好きで、よくかけてもらっていた。
その『月光仮面の歌(唄)』の歌詞もご紹介したい。
1.
月の光を背に受けて 仮面にかくしたこのこころ
風が吹くなら吹くがよい 雨が降るなら降るがよい
愛と正義のためならば 何で惜しかろこの命
わが名は月光 月光仮面
2.
つらいだろうが今しばし 待てばしあわせやってくる
貧しい人よ呼ぶがよい 悲しい人よ呼ぶがよい
心正しき者のため 月よりの使者ここにあり
わが名は月光 月光仮面
さて最後に、月光仮面も七色仮面も、この頃のヒーローは「おじさん」と呼ばれているものが多かった。今回いろいろ調べていて一番驚いたことがある。
それは月光仮面の正体と目される(ドラマの上では、あくまで断定されていない)私立探偵、祝十郎役の大瀬康一。練馬区大泉にある東映東京撮影所の大部屋俳優だった大瀬が、この役に抜擢されたのは、彼が二十歳の時だったのである。若い、若いおじさんである。
-…つづく
第243回:流行り歌に寄せて
No.53 「嵐を呼ぶ男」~昭和33年(1958年)
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