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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第293回:流行り歌に寄せて No.98 「高校三年生」~昭和38年(1963年)

更新日2015/12/03

久しぶりに流行り歌に戻ってきた。

ラグビーW杯の余韻を残しつつ、少し書かせていただくと、ご紹介している昭和38年は、今年53回を数えるラグビーの日本選手権(日本ラグビーフットボール選手権大会)の前身である「日本協会招待NHK杯争奪ラグビー大会」の最後の大会が行なわれた年である。

次の年からは大学選手権と日本選手権が創設され、日本のラグビーの全国大会形式が大きく変わっていく、いわば過渡期である。現在5点であるトライの得点がまだ3点の時代であった。3点の時代はその後10年近く続き、昭和47年になって4点、さらに20年の時を経て、現在の5点になったのが平成4年、それでさえ今から23年前ことで、時の流れの速さを実感する。

さて、『高校三年生』 。実は私、先々月に名古屋駅前のホテルで、高校の『還暦同窓会』 があり出席してきた。まさに高校3年生以来41年ぶりに会えた同窓生も数多くいて、たいへん懐かしい思いがした。

今の人たちは若く見えると言われていても、さすがに60歳という年齢は、みな一様にそれなりのくたびれ感を醸し出している。やはり「まずは、お疲れさん」という言葉を掛け合いたかった。

その私たちが高校3年生だった昭和48年の、ちょうど10年前に発表されたのが、今回の『高校三年生』だった。


「高校三年生」 丘灯至夫:作詞  遠藤実:作曲  舟木一夫:歌
1.
赤い夕陽が 校舎をそめて

ニレの木陰に 弾む声

ああ 高校三年生 ぼくら

離れ離れに なろうとも

クラス仲間は いつまでも

2.
泣いた日もある 怨んだことも

思い出すだろ なつかしく

ああ 高校三年生 ぼくら

フォークダンスの 手をとれば

甘く匂うよ 黒髪が

3.
残り少ない 日数を胸に

夢がはばたく 遠い空

ああ 高校三年生 ぼくら

道はそれぞれ 別れても

越えて歌おう この歌を


実際にこの時高校3年生だった舟木一夫が学生服で歌っているが、レコードの発売は6月のため、卒業の3カ月後となった。そのレコード・ジャケットで着ている学生服は、舟木の母校である自由ヶ丘学園の制服である。

舟木のデビューのきっかけは、当時流行歌手だった松島アキラが、名古屋で『松島アキラショー』を行なった際、愛知学院の高校生だった舟木もその会場に聴きに来ていた。松島が自身の大ヒット曲『湖愁』を「どなたか一緒に歌いませんか?」と会場に声をかけた際、友人に無理やり手を挙げさせられステージに立ったのが舟木で、彼は見事に松島とともに、この曲を歌いきったという。

そして、その場に居合わせた『週刊明星』の記者の働きかけにより、東京に呼ばれ、高校も自由ヶ丘学園へ転校をし、プロの音楽家からレッスンを受けるという、伝説のようなシンデレラ・ストーリーの後、舟木はデビューすることになった。

今では舟木の代名詞のような『高校三年生』だが、最初は何とベテラン歌手、岡本敦郎によって売り出される予定だったらしい。確かに岡本の柔らかく伸びのある声は充分に魅力的だが、この時38歳の彼には、「フォークダンスの手をとれば」などとは、歌いづらいことだったと思う。薹が立ちすぎている。舟木は20歳下である。

作詞家の丘灯至夫と、作曲家の遠藤実。丘は、世田谷にある都立松原高校で、定時制の男女の生徒たちが文化祭のリハーサルでフォークダンスを踊っている姿を見て、曲想を思い浮かべたという。また、遠藤は家の経済状態で高校進学は叶わなかった。彼の学園生活への憧れが曲を作らせたとも言われている。

二人のコンビにより、この後舟木は『修学旅行』『君たちがいて僕がいた』など、いわゆる青春歌謡で確実にヒットを飛ばして行った。また、コンビでなくても丘と遠藤は、数多くの作品を舟木に提供している。舟木一夫というスターは、まずこの二人によって作られたと言っても過言ではないだろう。

舟木は、この『高校三年生』と『学園広場』で見事にこの年のレコード大賞新人賞を獲得した。女性歌手は、先般ご紹介した『島のブルース』『私も流れの渡り鳥』の三沢あけみだった。

また、『高校三年生』は同年の11月、井上芳雄監督により大映で映画化され、映画初出演ながら、舟木も大事な役回りを好演している。因みに、原作は当時の人気青春作家である富島健夫の『明日への握手』。

今回確認したところ、姿美千子や高田美和の演ずる女子高生の制服が、セーラー服ではなくジャンパースカートだったのは、意外だった気がする。但し、映画のポスターやいくつかのスチルでは、彼女たちはセーラー服を着て笑顔で写真に収まっていて、ここのところの理由がよくわからない。

余談ではあるが、私は高校受験の際、先日同窓会のあった公立高校と併せて、私立高校も受験した。それが愛知学院である。また現在の私の店から歩いて5分のところに自由ヶ丘学園がある。もちろん勝手な思い込みだが、舟木一夫とどことなく縁があるようで、長年の、彼の曲の愛好家としては、たいへんにうれしく感じている。

-…つづく

 

 

第294回:流行り歌に寄せて No.99 「こんにちは赤ちゃん」~昭和38年(1963年)

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


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