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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第295回:大量殺戮が起こると鉄砲屋が儲かる!?

更新日2013/01/24



昨年の末に、アメリカの北東部にある小さな町で、またまた多量殺人事件が起こってしまいました。

小学校に機関銃とライフル、ピストルを持った若者が侵入し、乱射、虐殺したのです。日本でも大々的に報道されたことでしょう。こんな惨劇を何度繰り返せば済むのでしょうか。

この事件の直後に奇妙な現象が起こりました。

銃、主にセミオートマチックと言われる連射可能な(1分間に800発)軽機関銃、弾薬などの在庫が底を突くほど売れたのです。新品の銃を買う時は、一応建前として、無犯罪証明書を取得することが義務付けられていますが、FBIにその証明書の請求が12月だけで290万件ありました。普段の月の5、6倍にも跳ね上がったのです。

鉄砲屋さんも、銃のメーカー、弾丸メーカーも、口を揃えてオバマ大領に感謝しています。オバマ大統領が議会に銃規制の法案を提出する…気配が漂うだけで、ソレ、今のうちに軽機関銃を買い、そのための付属部品(連射可能なマガジン、弾創など)と弾丸を大量に買い置きしておこうと、多くのアメリカ人が大量の買いだめに走り、大変な買占めブームを巻き起してくれるからです。

実際、マサチューセッツ州、ニュータウンでの小学校大量殺戮以降、12月だけで鉄砲の売り上げは6倍、弾丸の方は在庫が空っぽになるほど売れに売れています。私が覗いてみた安売りスパーマーケット、ウオルマートの鉄砲売り場の弾が載っている棚はほぼ空っぽでした。大量殺人があるたびに、銃と弾丸が馬鹿売れするのがアメリカなのです。

チョット覗き見趣味で、今回、小学校の乱射事件で使われたAR-15という自動小銃をインターネットで見たら400ドル内外で新品が買えますし、中古の売りたし買いたしの欄では(このように、ガンショーやインターネット、雑誌の売りたし買いたしで、政府のバックグランドチェック、無犯罪証明書なしで売られる銃が40%を占めます)、250ドル程度のお金で、30発連射可能なマガジン5個付きで購入できるのです。レディー用として、銃床やグリップがピンク色のものまで売っています。 

現在、アメリカ国内にある銃火器は3億1,000万丁と見られています(2009年調べ)。もちろん、人口100人当たり世界でダントツの1位で、88パーセントの人に銃が行き渡ることになります。これは赤ちゃん、小学生、老人ホームに住む人まで数えた中でのことですから、一世帯当たりになると、すべての家が3丁以上の銃を持っていることになるでしょう。

銃の困ったところは、使わずに長年持っていても腐らず、壊れないことでしょうか。テレビや洗濯機は7年から12-13年で壊れ、買い替えなければなりませんし、コンピューターとなるともっと回転が速いでしょう。ところが、一般に出回っている銃火器は構造が簡単な上、40年でも50年でも立派に人を殺せることです。

兵器産業としては、戦争、内戦が起ってくれて、どんどん銃や弾丸を消費してくれないと、大量に余ってしまうのです。そうかといって、プロダクションラインを打ち切ってしまうわけにもいかず、造り続け、バーゲンセールを展開したりします。

大量殺人の後に必ず起こるブームのように売れに売れてくれなければ行き詰ってしまうのです。銃の規制などとんでもない、アメリカ人全員が腰に銃をぶら下げ、ライフル、マシンガンをすべての車に積むように、銃のメーカーは日夜邁進しているのです。

そのためには、NRA(National Rifle Association)という兵器メーカーが後ろ盾になっている圧力団体は、膨大な政治献金をし、なんとしてでもオバマ大統領の銃規制法案を廃案にしなければ…と、暗躍ではなく表立って派手に"民主主義を守るためには、鉄砲を手に"のキャンペーンを繰り広げ、議員さん(主に共和党ですが)へお金をばら撒いています。

軽機関銃を含め、ライフル、拳銃などは、構造が非常に簡単で、チョットした町の鉄工場以下のガレージで誰でも簡単に造れる…のだそうです。そのような自作キットも売り出されています。弾丸はもっと簡単で、許可証を申請すれば、誰でもすぐに町工場を開き、弾丸を作って売ることができます。

さらに困ったことには、銃火器や弾丸のショーバイは麻薬についで儲けが大きく、止められないおいしい仕事だということです。

そんなわけで、アメリカではアフガニスタンの戦争で年に500人程度の死者(アメリカ人兵士に限れば)しか出していないのに、アメリカ国内で毎年1万人以上が銃で命を落すことになります。

ジユウ(自由)の国アメリカはジュウ(銃)の国になってしまったのです。
下手なシャレですみません。

 

 

第296回:日本式お風呂とハダカ考

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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