第246回:アメリカ人の腰の軽さと景気の関係
クリスマスからお正月にかけて、カンサスの実家に帰っていました。この機会に、昔の友達に会おうと、高校、大学時代の友達の両親に電話をかけ、私の友人たち(彼らの娘、息子になりますが)の消息を尋ねようとしたところ、80歳、90歳にはなるはずの彼ら、彼女らの電話、住所が変わっていて、連絡がつかないケースが多いのに驚かされました。
ある親は老人ホームに入っていますし、歳を取り、もっと小さな老人向きの家やアパートに移ったり、暖かく気候のよい地方へ引っ越して行ったりして、幼馴染(なじみ)の同じ家にまだ住んでいる人は誰もいませんでした。
アメリカ人は歳を取ってからでも、気軽に、かどうかは分りませんが、ともかくよく引っ越すのです。これが、ヨーロッパや日本なら、70、80、90歳になってから自分の持ち家を売り払い、どこか別のところに家を買って引っ越すことは極めて少ないでしょう。
私のアドレスブックも、ヨーロッパや日本の友人は20年、30年以上そのままですが、アメリカの友人たちの欄は、赤鉛筆で何度も消しては書き、消しては書きで、多い人は7回も引っ越していました。という私たちも、他の人から、よく動き回る、いったい今どこに住んでいるの? と、よく訊かれるのですが…。
それに、離婚が加わりますから、一つで済むはずの住所が二つに分かれ、それからまた結婚して苗字が変ったりで、アドレスブックにページを糊付けで追加しなければならないほどです。
アメリカ人の移動性の高さはよく指摘されます。元々、アメリカ・インディアンもノーマッドのように移動する狩猟民族が多かったし、ヨーロッパからの移民も大西洋を渡ってやってきたのですから、初めから、移動力、足、腰にバネがなければ自分の国を離れ、未知のアメリカにやってこなかったでしょう。
アメリカ人には腰の軽さ、どこにでも気軽に引っ越す遺伝子がたっぷり含まれているのでしょうね。
他の国の人々に比べると、まだまだよく動き回るアメリカ人ですが、最近、ほんの少しずつですが、腰が重くなりつつあります。
近頃発表された調査によると(Census Bureau's Correct Population survey)、2006年に引越した人は13.2%でしたが、2010年には11.6%に減っています。カンサスシティー(実家がカンサスシティーですので、地元の資料を調べやすかっただけで、ランダムサンプリングではありません)だけを見ますと、2005年には17.6%の人が引越していたのが、2010年には16.1%に落ちているのです。
この数字は同じ町、同じ郡の中で引っ越した人は含まれていませんから、不動産屋さんの別の統計によると、20%を常に超えていることになっています。これはたいそう落ち着きのない国民だと言えそうです。
移動力が衰えた理由はいくつか考えられます。2006年頃からアメリカは不景気になり、失業率が高く、労働者は今就いている仕事を敢て変えようとしなくなった。したがって、今住んでいる家にそのまま続けて居座る人が増えた。これが景気のよい時代なら、収入が増えるにつれ、より良く、より大きな家にどんどん引っ越していたのですが…。
次に学校を卒業し、たとえ職に就いたとしても、親と一緒に住む若者が増えてきた。加えて、企業側も今まで気軽に人事異動、転勤を命じていたのが、経費節減のため、馬鹿にならない引っ越しや移動の費用を出さなくなってきた。これらの事情が、アメリカ人から腰の軽さを奪ってきた……と言われています。
ということは、景気が良くなればまたアメリカ人のジャンプ力も増すことになります。
どうにもアメリカ人から尻の軽さの遺伝子を取り除くことはできないようです。
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