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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第718回:コロナ禍のおかげで儲かった…

更新日2021/07/29


コロナ禍も終焉とはまったく言えませんが、トンネルの遠く向こうに光が見えてきた感じがします。これから発展途上国へのワクチン接種をどのように推進するか、次々と現れるであろう変異株にどう対応していくか、という大きな課題が残されていますが…。

アメリカでは、昨年の3月から今まで、在宅でインターネットを駆使して仕事をしていた人たちも職場に戻りつつあります。しかし、家にいてこなせるタイプの職種がそんなにあったことに驚いてしまいました。これも、ハイテックを使いこなし、インターネットで互いの顔を見ながら会議などが当たり前のようにできるようになったせいでしょうね。在宅で仕事をする方が、会社に出向くより、勤務時間が1時間ほど長くなっている…という統計も出ています。

“ZOOMミーティング”は当たり前のことになりました。私たちもクリスマスやお爺さん、お婆さんの誕生日、甥っ子に赤ちゃんができた出産祝いなど、機会あるごとにZoomパーティーを開きます。友達同士でもZoomワインパーティーをやるから、何日何時に“集合”?なんてメールが入ってきたりします。

互いにZoomを開く時間さえ打ち合わせておけば、何人でも同時に顔を見ながら会話できる上、約40分間は無料なのですから、インターネット時代には欠かすことのできないツールになってきました。ましてやコロナ危機で直接人に会うことが難しい時、とても便利で使い易いツールです。

このZoomのシステムを作り上げたのは中国人のエリック・ユアン(袁征)さんで、マイクロソフトの“スカイプ”やグーグルの“ハングアウト”など、他にたくさんあるこの手のサービスが、会話途中で途切れたり、一対一では上手く機能するけど、同時にモニターで大人数の顔を見ながらミーティング、会議に問題があったところを、モニターにたとえ複数の顔が映っていても、その中の一人が話すと、自動的に話している人間が大写しになり、ミーティングに参加している他の人たちは、今誰が話しているのか、文字通り一目瞭然にしたところがとてもユニーク…なのだそうです。

それに何と言ってもクレジットカードの番号を入力したりせずに無料で40分間使えるのも、ワッとばかりに広がった理由でしょうね。創設者のエリックさん、主に会社向けにこのプログラムを作ったようです。でも、このソフトを作った理由が振るっていて、エリックさんが山東省の工科大学にいる時の恋人(今の奥さんです)が汽車で10時間離れた場所に住んでいて、いつでも無料で顔を観ながら、何時間でも話すことができるソフトがあればいいな~、とそんなソフト開発に取り組んでいたと言うのです。

企業で在宅仕事をこなす人は、勤務時間の7、8時間Zoomを繫ぎっ放しにしますから、そちらから使用料を取るという方式です。本人は自分は新しいものを発明した訳ではなく、すでに周りにあった技術を統合し、使い易くしただけだと至って謙遜しています。

エリックさん、アメリカへの移住を8回も申請し、断られた経歴があります。彼、英語、米語がほとんどダメでした。コロナ危機の前に、やっとアメリカ移住のヴィザを取り、シスコに就職しましたが、そこを出て自分の会社、Zoom Video Communicationを設立したのは2019年といいますから、コロナ危機が始まる直前でした。会社の株は天井知らずです。現在、彼の会社の価値は16.4ビリヨンドル(164億ドル、約1兆8,000億円)と評価されています。まったく絶妙のタイミングでした。Zoomはコロナ禍で儲かった企業の筆頭になるかもしれません。 

以前、私たちがキャンピングカーを買おうとして、ディーラー巡りをしたことを書きました。未だに、大型から小型までのあらゆるキャンピングカー、トレーラーは今予約、契約しても、引渡しは何ヵ月も先になるほどのブームに沸いています。コロナに感染するチャンスが高いであろう、どこの誰とも知らない人と隣り合わせに長時間座らされる飛行機に乗らなくて済み、どこまで除菌してあるのか、ないのか判らないホテル、モーテルに泊まらずに、自然の中でゆったりと過ごそうという人が大きなキャンピングカー、トレーラーに目を付けるのは当然な成り行きだったのでしょう。

私たちが回ったキャンピングカーのディーラーは、「普通なら年式の古いモデルは盛大に割り引いても売れ残るのが、ただ、注文してから引渡しまで待たなくて済むというだけで、割引なし、新車の時の値段で売り切れた…。こんなことは、この商売をしていて、初めての体験だ…」と言っていました。付け加えて、「あなた方、もし手持ちのキャンピングカーがあるなら、売ってやるぞ…」とまで言うのです。

コロナ禍で閉鎖され、どこにも行くことができない、となると、家に籠って、食べる、飲む、吸うしかありません。それです、吸う方なのです。

現在、アメリカで16の州でマリファナが解禁されています(37の州では医療用に許可されていますが…)。マリファナの売上が2019年に比べ、2020年には46%も上回り、17.5ビリヨンドル(175億ドル、ほぼ2兆円になるのかしら)の新記録をマークしました。このままで行くと、もうすぐ在庫がなくなる…と騒ぐマリファナ・ファンがすでに買占めに走っていると報道されています。

日本では一時安倍前首相の奥さん、昭恵さんが全く違った観点から大麻開放を叫んでいましたね。“大麻を取り戻すことは、日本を取り戻すことだ。大麻は魔を寄せ付けない神聖な植物である。古代から神社のしめ縄は大麻で編まれていた”とか言っていましたが、どうなったのでしょうか。大麻でコロナ菌を追い払えるなら、そんな良いことはないのですが…。昭恵さんを大麻大使にして、品薄になったアメリカに日本産大麻を売り込めば良いかも知れませんよ。

そして、何か政変がある度に、ドカンと売り上げが伸びるのは銃火器です。オバマが政権を握った時も、銃規制が厳しくなる、今の内に買っておこう、セミオートマチックライフル、拳銃、弾丸が飛ぶように売れました。どういう反応なのでしょうか、国内で大量殺戮がある度に、直後にガンブームが巻き起こります。これもそんな事件をきっかけに規制が厳しくなるだろうからという、思惑買いなのでしょう。

でも、今回のコロナ危機と爆発的な銃火器、弾薬の売れ行きは業者ですら予想しなかったことのようです。ガン天国のテキサス州では、機関銃、ライフル、ピストルは売り切れで、弾丸もお一人様2箱(通常24発入り)までと限定しています。私たちが野菜、果物などを買っているスーパーマーケットの『ウォルマート』でも弾丸の棚は空っぽでした。まだ散弾銃と空気銃は幾つか売れ残っていましが…。

このようなコロナ危機の下で、食料調達も思うように行かず(実際、どこのスーパーでも食べ物は溢れています)、社会も安定していない(社会を不安定にしているのは、銃を振り回す貴方たちなのですが)、いつ何時、隣人が攻めてくるか分からない、銃は自分と自分の家族、しいてはアメリカを守るためだと…と、相当無理な演繹を繰り広げています。風が吹けば桶屋が儲かるの方が、コロナと銃火器ブームより理屈が通っています。

弾丸にも賞味期限? 使用期限があり、かといって古い弾丸はゴミとして出すわけには行きません。そこで、賞味期限ギリギリのタマは試し撃ち、標的射撃に使われるのでしょう、裏の山だけでなく、私たちの家の近くでも、パンパンでなくバリバリバリと戦争でも始まったかのような銃声が響き渡ることがあります。まさか、人間を標的にして試射しているわけではないと思いますが、銃による死者も記録更新しました。

コロナ以前と以後では、社会に相当大きなギャップが生まれ、私たちはコロナ以前の生活感覚に戻ることができないような気がします。多分に心理的要素があるのかもしれませんが、発展途上国の人たちが大勢感染し、死んでいるのを傍観しながら、自分たちだけ、楽しむことに、ほんの少しにしろ抵抗があるのです。

若い世代は、コロナ禍をそういえばそんな時代もあったな~とやり過ごせるのでしょうね…。

-…つづく 

 

 

第719回:決してなくならない人種偏見、そして暴力

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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