第89回:宴会&宴会
更新日2007/02/01
今年に入って、数回の新年会に出席した。私たちの商売は、年末が書き入れ時ということになるので、忘年会というのはまず開かれず、年が改まると新年会があちこちで開かれる。
はじめは使い走りの仕事のお手伝いをするために顔を出したのだが、心ならずも地元の飲食業組合の運営の仕事に携わってしまっているので、いくつかの新年会に顔を出すことになった。どの新年会も、たいがいは中華料理である。ある程度の人数を収容できるキャパシティがあって、円卓がはじめから用意されているので中華屋さんは強いのだろう。
新年会の内容というのは、それぞれの団体の規模によって多少は異なるが、だいたい段取りは似ている。例えば、区の食品衛生協会の新年会。とにかく乾杯まで延々と挨拶が続く。
区長、保健所長についてはよく理解できる。殊に、最近のノロウイルスや某洋菓子メーカーなどについての話は、団体の性格上、全員がしっかりと耳を傾けなければならない問題である。
その後に続くのが議員さんたち、これが実に長いのだ。国会議員、都議会議員、区議会議員が各数名ずつ、国会議員などは本人が出席できないときは必ず秘書が顔を出し、何か一言話していく。新年会が始まってから、乾杯の音頭になるまで45分から1時間は優にかかる。正直、「どうでもいいですよ」の心境になってしまう。
「私たち議員が一丸となって」「何々先生とともに明日の日本を」などの言葉を遠くに聞きながら、私は、「そう言えば、こういう会以外、宴会というのを全然しなくなったなあ」とぼんやりと考えていた。
サラリーマン時代はよく宴席があった。例えば社内旅行の大宴会。最近はどんな事情になっているのだろう、私が会社を辞める頃は、若い人たちが上司と同席するのを嫌がって行かない人が増えていたから、もう昔のようには派手に行なっていないかも知れない。
20年少し前中途入社した私は、初めて連れて行ってもらった社内旅行大宴会の席で。、「K君、バカにならなきゃだめだ」と言われた。男子社員は裸になったり、浴衣の帯を頭に巻いてみたり、もう完全にステレオタイプの宴会スタイルになっていたのだが、気取るわけではないが、私にはなじめなかった。
それでも、前々から、「新入社員は何かやらなくてはいかん」と言われていたので、私たちは、当時かなり流行していたおニャン子クラブの『セーラー服を脱がさないで』を歌うことになり、旅行の半月ほど前から仕事の後、会社の会議室で練習をした。
新入社員のうち二人は、その年の3月に高校を卒業したばかりのかわいい女の子だったので、会社近くの松竹衣裳からセーラー服を借り(かなり高かったような記憶がある)、当日の宴会で着て歌ってもらった。予想通りの大好評で、部長クラスの人の中には舞台の袖まで来てしまう人もあった。
今考えると、立派なセクハラ行為と言うことになり、彼女たちにも申し訳なかったなあと冷や汗ものである。それでも、少し前そのうちの一人に、「あの時は嫌ではなかった?」と聞いたことがあったが、「初めは恥ずかしかったけど、途中からはもう勢いでしたよ。でも、やっぱり若かったからできたんですよね」と答えてくれた。彼女も今年で40歳になる。
話は変わるが、原子力発電所での工事での打ち上げの際、お客さんを我々の宿に呼んで宴会をすることがよくあった。ある時、我々の現場責任者から、「K君、みんなで浴衣を作らないか」と持ちかけられたことがあった。
彼は、任侠風なことが好きだったので、我々の工事従事者全員が、打ち上げの席で浴衣を粋に着こなし、お客さんを迎えようというのである。10人少しいた従事者の了解を取り、私たちはシンプルだが味のある柄の浴衣を新調した。
そして、当日着付けの先生まで呼び、全員襟元もキリリと浴衣を着て、現場責任者を筆頭に宴席に全員が正座して並び、お客さんがいらっしゃった瞬間、「本日のお運び、誠にありがとうございます」とご挨拶した。
我々の会社の従事者は、みな各事業所から集まった猛者揃いである。それが10人以上正座して挨拶するものだから、お客さんは驚いた。現場の打ち上げは、主客双方とも作業服姿で行なうのが常識である。「いやあ、お手柔らかに頼みますよ」と、お客さんの長は面食らった表情を隠せない様子。
我々の現場責任者は、下げた頭を少し私の方に傾げ、ニヤリと笑った。私もニヤリと笑いを返した後、おもむろにお客さんに向かい、「本日は、どうぞごゆっくりおくつろぎ願います」と再び頭を下げた。
個人で仕事をしていると、なかなかこういうチームプレーの綾みたいなものに触れることが叶わず、少し寂しい気がしている。
ところで、ここに書いた現場責任者の方には徹底的にお世話になり、実に色々なことを教えていただいた。今は退職して九州にお住まいだが、すばらしい人格の方なので、了解を得て、今度このコラムに彼のことを一度書いてみたいと思っている。
第90回:井伏さんのいくつかの作品について(1)