第139回:日本初、ラグビーのオールスター・ゲーム
更新日2009/03/12
ここのところラグビーの話ばかりになり、話題の貧困さを露呈していて恐縮なのだが、先日行なわれたトップリーグによる日本で初めてのオールスター・ゲームがとても楽しかったので、思わずお伝えしたく、また書いてしまっている。
このゲームの正式名称は、トップリーグ・オールスター・チャリティー・マッチ。先日の3月8日(日)に、花園ラグビー場で行なわれた。今年度のトップリーグ、14チームを地域によって二つに分け、このリーグのキャッチコピーである「FOR
ALL」から「FOR ALL EAST」「FOR ALL WEST」と名付けられた2チームの、いわゆる東西対抗で戦われた。
神戸製鋼の名ウイング(ウイング・スリークオーター・バック 以下WTB)大畑大介選手が代表を務める、トップリーグのキャプテン会議が、このゲームの企画をし、メンバーを選出、各選手に呼びかけた。何ら拘束性を持たないキャプテン会議のため、当初大畑選手ら執行部は、選手が集まってくれるか不安があったらしいが、怪我による辞退者以外はみな快諾し、むしろぜひ参加させて欲しいという声が大きかったと言う。
この試合の入場料、選手たちによる、試合前のガレージセール、アフター・マッチ・ファンクションでの選手のジャージなどの売上金の中から一部が、日本せきずい基金と大阪府みどりの基金に寄付されることになっている。
ラグビー・プレーヤーの中で、試合や練習の最中、脊髄を損傷する人々は決して少なくない。そして、学校のグラウンドを緑化、すなわち芝生にすることで、それらの怪我を未然に防ぐことは可能だ。それらの運動の一助となるように、というのが今回の寄付の趣旨である。
試合は、橋下徹大阪府知事のキックオフから始まった。彼は中学・高校とラグビーをしていて、現役時代はWTB、大阪の北野高校3年時には花園に出場し伏見工と対戦、高校ジャパンにも選ばれたという経歴の持ち主である。蹴り上げたとき、ルールと違ってボールをドロップしていないようにも見えたが、なかなかに良いキックだった。
勝敗は二の次ということで、とてもリラックスした中で行なわれたため、公式戦ではなかなか見ることのできない、華麗なステップや驚異的なパスなど、非常に質の高いプレーが随所に飛び出した。
通常はタックルされてポイントができた後は、モールを組んでボールの動きがゆっくりになるものだが、この試合ではそういう場面は皆無で、早い球出しからポンポンとボールを展開していく、観ていてとても楽しいラグビーだった。
この日のマン・オブ・ザ・マッチ、いわゆるMVPは、うなぎステップと呼ばれる独特のステップで走り抜け、前半だけで3トライを挙げた東軍・サントリーのWTB小野澤宏時選手。仲間の話では、賞品がかかったときは必ず取りに行くタイプで、狙い通り大型テレビを持ち帰っていった。
私個人で最も印象に残った選手は、我らがキンちゃん、東軍・東芝のロック(以下LO)大野均選手。前後半80分間フル出場し、普段通りのまったく骨身を惜しまないプレーが光り輝いていた。殊にキックオフでのボール争奪戦で、トイメンの西軍・ヤマハ発動機のLO木曽一選手(彼らは親友であり宿敵)とガンガンやりあっていたのは凄かった。
さらには、間もなく38歳になるというのに、ますますそのワイルドなプレー振りが進化していると思われる「鉄人」西軍・神戸製鋼のフランカー伊藤毅雄観選手。引き上げてきたときのインタビューで、「疲れましたわ~、昨日飲み過ぎたから」の談、この人は酒も焼肉もすべて、自分の身体のガソリンになると信じている。
その伊藤と同期、チームメイトでもある西軍・神戸製鋼のセンター(センター・スリークオーター・バック)元木由記雄選手。ミスター・ラグビーと呼ばれるこの男も、かつてはマイク・タイソンのようないかつい表情だったが、いまはかなり穏やかな顔つきになった。但し、そのプレーは相変わらずいかつく、さらに最近は職人のような熟練さも見せてきた。伊藤とともに、いつまでも、いつまでもグラウンドにいて欲しい選手である。
そして、ニュージーランド、南アフリカで武者修行をしてきた国際派、西軍・近鉄のWTB四宮洋平選手が、満面の笑顔でしみじみともらした、「やっぱり、ラグビーって面白いですね」という言葉が、すべてのラグビー選手、ラグビー愛好家の気持ちを代弁してくれたようで、心に染み渡った。そう、本当にラグビーって面白い。
この日笛を吹いたレフリーは、藤実さん。トップリーグ最後の笛となるようで、公式戦と違い細かい反則はみな流したために、普段よりずっと運動量の多くたいへんなレフリングだったが、終始笑顔で、時には選手たちを励ましながら、名進行役を務めた。
今後も、1年に一度このゲームを行なってもらいたい。そして、このゲームに出場できることが、トップリーグの選手たちの大きなステータスとなって欲しい。
贅沢を望むなら、開催時期を考えて、選手たちがフィットしている状態で試合に臨んでもらいたい。そして、リラックスの中にも、精度の高いゲームを展開し、「あの年のオールスターはこうだったなあ」などと後世に語り継げるようなものになれば、ラグビー・ファンにとってはこの上なくうれしいことなのである。
第140回:私の蘇格蘭紀行(1)