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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第245回:2011年に亡くなった有名人のこと

更新日2012/02/02



クリスマスとお正月の冬休みは、私の実家があるカンサスシティーに帰っていました。いつもなら日本へ行くはずなのですが、私の両親も老齢になり、おまけに母がアールタイマー(日本ではアルツハイマーと呼ばれるようですが…)を発病してから4年経ち、病状が徐々に進行しているようなので、今年は日本行きをあきらめたのです。でも、お正月を日本で過ごせないのは、とてもさびしく、物足りない感じがします。なんと言っても、日本のお正月は特別ですから。

父の一日は、新聞の死亡蘭を丁寧に読むことから始まります。私の父とそんなに歳が違わないウチの仙人は、「自分の名前がそこに載っていないかどうか、確認しているのか?」などと、父に偉そうなこと言っていました。

昨年も大勢の人がこの世を去りました。絶世の美女(若いときだけ)エリザベス・テイラー、もったいないを国際用語にしたマータイさん、アラバマ州のバーミンガムで白人と同じバス、同じ席に座り、黒人の人権運動を始めた勇気あるフレッド・シャトルワースさん、それから私たちの唯一のお気に入りテレビ番組『60ミニッツ』で番組の終わりにほんの2、3分辛辣な放言をしていたジャーナリストのアンディー・ルーニーも亡くなりました。アメリカ的民主主義の敵、ナンバーワンのガダフィ、ナンバーツーのオサマ・ビンラディン、ナンバースリーの北朝鮮の金正日が殺されたり、死んだりしました。

昨年亡くなった人で、誰が一番、全世界、国際的に大きな影響を及ぼしたか、チョット雑誌、週刊誌の年末特集号みたいに、ウチのダンナさんと話したところ、北朝鮮の金正日はただのオヤジの七光り的傀儡だからと言って、真っ先にランキングから落としてしまい、ガダフィも往年の悪役的存在感がここ数年すっかり影を潜めていたとして、落選させました。

次々と候補者を削っていったところ、最後に残ったのはアップルの創始者スティーブ・ジョブズとムハメッド・ブアジジの二人になりました。

アメリカ人でスティーブ・ジョブズを第一に推す人は圧倒的に多いと思います。有名、高名な人たちがスティーブ・ジョブズの偉大さを語り、またタイミングよく彼が生前に準備していた自伝的な本が出版されたりで、いまさらながら彼の偉大さを称える風調が高まりました。

スティーブ・ジョブズについて、映画監督、著作家のスパイク・リーが、「世界史を変えた3つのりんごは、蛇に誘惑されたイブが食べたりんご、ニュートンが万有引力のヒントを得たといわれているりんご、そしてスティーブ・ジョブズが作ったアップルというりんごだ」と、さすがにうまいタトエを引き合いにして、スティーブの偉大さを称えています。

ウチのダンナは、圧倒的にムハメッド・ブアジジさんの死を世界史に残る事件として推しています。

ブアジジさんは、チュニジアのチュニスでリヤカーを引き、野菜を売っていた露天商でした。時のチュニジア当局官憲に暴行を受け、負傷し、ハカリを壊され、生活ができなくなったことに抗議して焼身自殺を図り、その模様が携帯電話のカメラで動画が撮られ、その映像がアラブ世界だけでなく全世界に流れ、チュニジア政権の転覆につながり、それから全アラブの春がモスレム世界にドミノ倒しのように広がって行きました。

ダンナはこれしかないという感じでムハメッド・ブアジジさんを2011年に亡くなった最大の人物として上げていますが、確かに、亡くなったのは2011年になってからですが、焼身自殺事件そのものは2010年末のことですから、チョット、2011年の大事件として数えるには無理があるかもしれませんね。

そう思っていたところ、意外や意外、イラン、アフガンで国際安全保障軍の前総督、現在、CIA長官を務めるディヴィッド・ペトレアーがムハメッド・ブアジジさんの死を2011年のトップに上げていました。ムハメッドさんの焼身自殺がなければ、アラブ世界の改革運動は10年、もしくは50年単位で遅れていたであろうというのです。

ベルリンの壁を誰もが予想しなかったようにあっけなく崩れたように、アラブ・モスリムの独裁政権が2011年に次々と倒れていくと予想した人はいませんでした。 

一人の無名の若者の死が、これほどの広がりと強さを持つと誰が想像したでしょうか。聖書にある"一粒の麦も死なずば"をイスラムの青年が現実に見せてくれたのです。ムハメッドさんは26歳でした。

 

 

第245回:アメリカ人の腰の軽さと景気の関係

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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