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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第530回:ナショナル・モニュメント(国定公園)をなくす?

更新日2017/09/21



世界文化遺産に登録されるかどうかは、観光資源になり、潤うかどうかに繋がり、その土地の人にとっては大きな問題になります。“神宿る島”、宗像・沖ノ島が新たに世界遺産に登録される気配が濃厚ですから、すべての世界遺産巡りを志している人はとても忙しいことになりそうです。ユネスコから補助金が出るわけでなし、ただ世界遺産に指定されるだけで、本来、その土地のあり方は変わらないと思うのですが、マア、レストランの“ミシュランの星”のようなものと考えるのが無難かもしれません。ミシュランの星など、看板の上に輝いていなくても、安くて美味しい店はたくさんあるのですから。

アメリカでは、世界遺産に指定、登録されたかどうかはほとんど話題になりません。一番問題になるのは、国立公園に指定されるか、それより小規模のナショナル・モニュメント(国定公園と無理に訳しましたが…)になるかです。と言うのは、国立公園やナショナル・モニュメントに指定されると、その広大な地域が合衆国政府の管轄下におかれ、開発ができなくなります。その代わり、政府が相当のお金を注ぎ込み、公園全体を管理し、パークレンジャーが目を光らせ、公園への入園をコントロールします。近視的にみれば、政府にとっては莫大な予算を使う、出資だけの政策になります。

私は毎日、そのコロラド・ナショナル・モニュメントの崖を削って造った、曲がりくねった道路を使って通勤しているのですが、ここに入ったり、通過する人は入園料として原則的に車一台に付き12ドル払わなければなりません。もちろんそんな入園料だけで広大な公園を維持し、何十人もいるパークレンジャーや道路管理、除雪で働いている人の給料など出ませんから、政府からのお金で賄っています。

トランプ大統領は元々ビジネスマンですから、政府の財政を立て直す、赤字を黒字にもって行きたい、それにはまず無駄な支出を抑えることだ…と判断したのでしょうか、27ヵ所のナショナル・モニュメントの存続を検討するよう、そして縮小、早く言えば削ってしまえ、との指示を内務省に出しました。

さすがに、アメリカ人すべてと言い切ってよいでしょうけど、愛されている国立公園はその対象になっていません。ナショナル・モニュメントで、比較的新しく設定されたところ、観光地というより、インディアンの部族の聖地、インディアン虐殺のあった歴史的なところ、などが槍玉に上がったのです。

その一つはベアー・イヤーズ(クマの耳)というユタ州にあるインディアンの遺跡、聖地です。この聖地は130万エーカー(312億平米以上)あり、国有地といっても、元々土地の所有観念のないインディアンのものでしたが、それを開発業者などに売り出す可能性が出てきたのです。

この他、“検討”の対象になっているのは、ニューヨークにあるアフリカ人の墓地、モンタナ州の“リトル・ビック・ホーン”(カスター将軍の第7騎兵隊がシャイアン族などのインディアンに敗れたところ)、カルフォルニアの“ジャイアント・セコイア”、アリゾナ州の“ヴェルミリオン”など27ヵ所で、さすがに4人の大統領の顔を岩に刻んだ“マウント・ラッシュモア・ナショナル・モニュメント”はその対象なっていませんが(トランプさん、自分の顔が、そこに彫られる可能性があるとでも思っているのかしら)、トランプさん、それらをナショナル・モニュメントから外すことで政府の無駄使いを抑えることができるというのです。ここでは、トランプさんがその何十倍になる大判振る舞いをしている軍事予算には触れないことにしますが…。

アメリカが世界に誇れる数少ないモノの一つが、国立公園です。現在、ナショナル・モニュメントを含め157ヵ所ある公園を訪れるためだけにアメリカに来る観光客は大変な数になりますし、それ以上に、アメリカ人自身がどこかに旅行する際、一大目標になるのが国立公園巡りです。この大自然に触れることができる国立公園システムは、超人工的なディズニーランドの何倍、何十倍の訪問者があり、周囲にもたらす経済効果は政府が使う予算の何倍にもなります。

トランプさんが再検討を要求しているナショナル・モニュメントを維持するための予算などは微々たるもので、逆に地元を潤し、そこからあがる税収入の方がはるかに多いはずです。なぜ、彼が急にこんなことを言い出したのか、すぐに誰でも気が付くことでしょうけど、これら27ヵ所のナショナル・モニュメントはインディアン、黒人など少数民族に関連したもの、それに大半は前オバマ大統領が指定したところなのです。

トランプ大統領が躍起になってオバマ政策を廃案にし、歴史から消そうとしていることは周知のことですが、その一環として、オバマさんが指定したナショナル・モニュメントだから登録を取り消してしまえ、他のインディアンや黒人に関係したトコロもついでに削ってしまえとしたことがミエミエなのです。

私が毎日通っているコロラド・ナショナル・モニュメントが私営化されたら、崖の上の見晴らしのよいところに豪華ホテルが立ち並び、見晴台にレスラン、土産物屋が店を広げることでしょう。ありとあらゆる俗化が急激に進み、そして、すぐに飽きられてしまうことでしょう。 

毎日、七つ以上の野生動物を見ることができたら、私はその日一日幸せな気分になります。このコロラド・ナショナル・モニュメント、それに続くナショナル・フォレスト(国有林)を通る通勤道で、エルクや鹿、アンティロープ、ビッグホーンシープ、コヨーテ、野生の七面鳥などを目にする幸運を誰にも奪われたくない、誰も奪うことはできない…と思っているのですが…。

 

  

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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