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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第580回:不幸はまとめてやってくる

更新日2018/09/27



私たちが以前住んでいたプエルトリコを去年ハリケーンが二つ続けて襲いました。1年以上経過した今でも電力は一部が回復しておらず、長く、大変な1年を過ごしています。

ダンナさんの実家は北海道です。北海道に行く度に、「北海道は良いよ、台風は来ないし、地震も少ないし、なんといっても食べ物が美味しい…」と聞かされていましたが、この秋は少し事情が違ってきました。まず、台風21号が勢力を落とさないまま北海道をかすめ、更にその翌日の早朝、苫小牧近くの厚真町を震源とした大きな地震が起こり、ダブルパンチを喰ったのです。こうした災害に慣れていないのでしょう、停電、断水程度のことで騒ぐことはないのですが、なにか大災害のようなニュースがアメリカにも伝わってきています。

私は4人兄弟、女3人、男1人の長女です。どこでどうなっているのか分からないのですが、不幸はいつも真ん中の妹ローリーに起こるのです。

子供の頃4人でソファーに座り、寝っ転がって遊んでいた時、棚から物が落ちてきて当たるのは決まってローリーなのです。家族でメキシコへ出かけた時も、テキサスに住んでいた二人の従姉妹を乗せ、お父さん、お母さんと一台の車に8人乗って、勇躍国境に向かったところ、かなり走ってからローリーの姿が見当たらないことに気が付いたのです。

今でも、お父さんとお母さんは、あんなにびっくりしたことはないと言っています。どこかでローリーを落としてしまったと思ったのです。私たち5人で、後ろの席、60年代のアメ車でズローンと長い座席の分捕り合戦に忙しく、騒がしく、一人足りないと気が付かなかったのです。お父さん、次のガソリンスタンドに車を止め、彼の姉の家に電話したところ、ローリーはソファーの後ろで、歌を歌いながら一人で遊んでいたのです。これは“ローリー積み残し事件”として、家族の語り草になっています。

今でも、他の人には起こりえないようなローリー事件、物語を頻繁に起こしています。彼女は現在、看護婦さんです。大きな病院の冷蔵薬品室で急にドアが閉まり、出られなくなり、凍死寸前になったとか、飛行場で自分が預けたスーツケースなどをピックアップせずに家に帰ったとかは日常茶飯事なのです。

運の良い人、悪い人がいるのは致し方がありません。それにしても、よく色々なことが一人に集中して起こる傾向があり、神様はどうも、皆全員に平均して幸運、不運を分け与えていないようなのです。こちらの諺で、“Bad things come in threes.”というのがあります。悪いことは3回まとめてやってくる、“二度あることは三度ある”という日本の諺と同じでしょうか。

私が勤めている大学のある町はグランド・メサと言う国有林の3,200メートル程の高さの天辺が真平らな、一体山頂があるのかないのか分からない連山が東側を塞ぎ、西側はコロラド・ナショナルモニュメントの岩山が迫り、その谷間をコロラド川とガニソン川が合流して平野を造っています。アウトドアスポーツがとても盛んなところで、自転車、ハイキング、マウンテンバイク、ランニング、渓流下り、ゴルフ、スキー、山登り、岩登り、渓流や湖での釣り、おまけに1年の晴天日が320日以上と、お天気に恵まれていますから、外に出て遊ばない人は余程の身体障害者だけというようなところです。

この町の青年、デラン・マックウィリアムズ君は、アウトドアで稀にみる三つの悪いことのすべてを体験し、しかも生き残ったという、きわめて珍しい存在です。彼はまず、ガラガラヘビに噛まれ、危ういところで命をとり止め、翌年には熊に襲われて齧られ、これも大手術の末どうにか元の体に戻りましたが、今年の夏、ハワイでサメに齧られてしまったのです。

インターネットで調べたところ、毒蛇に噛まれる確率は3万7,000分の1、熊に噛み付かれるのは210万分の1、サメに齧られるのは1100万分の1だそうです。この三つを3年間で体験?する確率は、手元のカシオの計算機の桁数がパンクするほど稀なことです。

しかし、これも統計と確率のトリックで、全くアウトドア的な活動をしない人、家の周りを散歩するか、街中のジムで汗を流すだけの都会人が大勢いますから、私たちのように年間凡そ40日くらいは山歩きをしている人は、ガラガラヘビや熊に遭遇する確率が相当高くなるでしょう。

カリブ海に住んでいた時は水上生活者でしたから、海の幸は自分で漁っていました。ダンナさんが水中銃で魚やエビ、タコ、イカを突くのを日課にしていていました。その時、数え切れないくらいサメとご対面しています。今、思うと実際、大いにヤバカッタな~という瞬間が何度もあったようなのです。これが妹のローリーなら、ガラガラヘビ、熊、サメにやられていたのではないかと……思わずにはいられません。

“二度あることは三度ある” ―これは次の災害に備えよという教訓でしょうか、でも、どうか北海道に台風、地震に続き、一挙に“食べ物が不味くなる”ような災害が起こりませんように…。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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