先日、ある雑誌のベッカム特集号を買った。これまでベッカムについてはワイドショー的な知識しか持ってなかったので、ご近所在住で足掛け4年のマドリディスタ(レアル・マドリー・ファン)の私としては、この際ちゃんと知っておきたいと思ったのだ。決して、等身大ポスターがついていたから、ではない。たぶん。
だけどその雑誌は、等身大ポスターがついているくらいだから、完璧にワイドショー的な内容だったのだった。そりゃそうだわさ。でも、おかげで面白いデータに出くわした。それは、ベッカムの収入内訳グラフ。ワイドショー的なものが大好きな私は、大いに驚き、面白がった。項目を抜粋すると。
-サッカーによる収入:600万ユーロ(約8億1000万円)
(※レアル・マドリーでの年俸)
-レアル・マドリーからのボーナス:200万ユーロ(約2億7000万円)
(※チーム全体の額。バンコクの試合に、タイのスポーツ大臣が提供)
-伝記の出版による収入:280万ユーロ(約3億8000万円)
-明治アーモンド&マカダミアチョコ:150万ユーロ(2億300万円)
-TBC:300万ユーロ(約4億500万円)
-日本滞在時のマスコミからの収入:1300万ユーロ(17億5500万円)
(※最小限に見積もった額、とのこと。「信じられるかい?」って)
記事は、「ベッカムは、スシの国に頭が上がらないのさ」といった調子でまとめられていた。だが私は、このグラフを見て別のことを思った。「ベッカム、月に1度くらいは日本に行かにゃあ」 日本には、こんなにベッカムを高く評価してくれるひとがいっぱいいるんだから。ちょくちょく顔くらい見せな、ねぇ?
というわけで、不肖この私が、皆さんのかわりにベッカムの顔を見に行ってきました。ときは8月中旬、レアル・マドリーが今季の練習を開始した翌日。というのも、朝のニュースで「昨日から練習が始まりました」と伝えるのを見て俄然行く気になり、大慌てでデジカメを手に家を飛び出したのだ。
飛び出しつつ、胸をよぎる懐かしい思い出。そういえば東京に住んでいたとき、夕方のニュースで「阪神初回に1点リード」というので、慌ててタクシーに飛び乗ったっけなぁ。そんで神宮球場まで駆けつけてみれば、目の前でペタジーニの逆転満塁ホームラン。思わず現在のツレアイとともに、ヘナヘナと地面に崩れ落ちた。当時の阪神は再逆転なんてできなかったしね。うーんそんなこと、よくあったなぁ。神宮の阪神は弱かった。
などと思っているうちに、バスは目的地に到着。練習場があるのはシウダー・デポルティーバ、我が家からだと本拠地サンティアゴ・ベルナベウよりさらに近く、車で5分くらい、バスと徒歩でも約15分の距離だ。バスは均一料金で1.10ユーロ(約150円)、お得な10回券は5.20ユーロ(約700円)。
入場料4ユーロ(約540円)を払って中へ入る。おぉ、やってるやってる。目に止まった順に、ジダンでしょ(あのヘアスタイルはすぐ目に止まる)、ロベルト・カルロスでしょ(ひときわ小さくてよく動く)、グティでしょ(金髪で、うつむき加減)。おっとそこにいたのかラウル、なんだ、気配消すんだよなぁわりと、決めの場面になるまでねー。あぁゴール横にはカシージャス(ひたむきな青年キーパー)、隣はセサル(バジャドリーで城選手と一緒にプレーしてた)。
おぉ、あれに見ゆるはフィーゴ。その足取りは戦車のごとく、重くてキレがある。ん、あっちゃからもうひとつ重いのがやってくるぞ。どすどすと走りこんできたのはロナウド。まぁ髪伸びちゃって。ほらあそこにはモリエンテスもいる、サルガドもいる、ポルティージョもいる、ラウル・ブラボもいる、マクマナマンもいる、カンビアッソもいる。それで、えーっと。
おっとぅ。いましたいました。8月の陽光を浴びて輝く金髪、スッキリ整った端正なマスク、ボールひとつ蹴っても洗練された香りがどこか漂ってくる身のこなし。まるで美しいサラブレッドのように、緑のターフが良く似合う。って、喩えが間違ってるかもしれないが。ハイそのひとの名は? ・・・ベッカァーム!
ホゥ、と溜め息を吐いて、私は日陰席に腰掛けた。これが、あの、ベッカムか。目の前ではベッカム「様」が、パスを出し、パスを受け、身体をほぐし、声援にはにかんだような笑顔を見せたり、なにやら芝をみつめて一瞬動きを止めたりしている。なるほど、こいつは美しい。
どのくらいのサッカーをするのかは知らないのでそれについてはなにも言えないけれど、こりゃ悪くないわ。いくら私が、砂鉄のように渦をまく胸毛もりもりのフィーゴが最高の男前だと思うおかしな基準な持ち主でも、ベッカムが格好良いということには、素直に頷かせてもらいやす。ターフ(だから違うってば)を見やり、もひとつ溜め息。
あとは、折に触れちょこちょこと言葉を交わしたスペイン人の多くが口を揃えるように、「まぁ実際にどれくらいの選手なのかは、シーズンが始まればおのずとわかってくるさ」ということなのだろう。これは、フィーゴのときも、ジダンのときも、ロナウドのときも、一様に言われてきたことだ。マドリディスタは、どうやら評価を急がないらしい。
選手は約2時間をかけて、ゆったりとしたペースで練習を続けた。前日にはマケレレという選手が処遇に不満を訴えて練習をボイコットしたというのを聞いて少し不安だったのだけれど、この日見ている分には、ギクシャクしたかんじや、とげとげしいかんじや、空気が澱んだかんじは、しなかった。悪くないな、と思った。
ベッカムは、ごく普通に、レアル・マドリーの選手の中で身体を動かしていた。なんせ周囲にいるのはジダンにフィーゴにロナウドにラウルにロベルト・カルロス。ベッカムが超一流でも、その移籍にアワアワする器じゃあないからね。そうさ、それがレアル・マドリーなのさ。
背中に3番と大きく書かれたユニフォームを着込んた私は、ちびっこたちに交じってグランドに大きな声援を送った。せーの。「ロベルトォ!」 ……ごめん、実はロベカリスタなのでした。どの選手も好きなのだけど、ロベルト・カルロスがとくに好きなのさ。
さて、ここで問題です。この日、練習場に詰め掛けたマドリディスタから大きな声援を受けていた選手、ベスト3とは誰でしょう? 回答は、画像の下。
はい、回答です。
第3位、ベッカム。
第2位、ロベルト・カルロス。
そして、栄えある第1位は。ジャガジャガジャーン。
レアル・マドリーとスペイン代表のキャプテン、ラウルでした。
スペインじゃやっぱり、いちばんはラウルです。
第44回:人類最初の芸術、アルタミラへ(1)