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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第447回:空港のセキュリティーチェック

更新日2016/01/14



空港でのセキュリティーチェックは嫌なものです。自分に何も非がないと知っていても、乱数表でも使うのかしら、X線に怪しげな物が映っていたのか、別室や別のコーナーに連れられ、身体検査を受けるのを喜ぶ人はいないでしょう。たとえそれが、自分を含めた旅行客の安全のためであるにしろ、なんだか自分が疑われているようで、とても喜んで身体検査を受ける気分にはなりません。

アメリカのセキュリティーチェックはT.S.A. (Transportation Security Administration,)という国家安全局の下の準政府機関が行っているのですが、その現場で働く人たちは、最低賃金に毛が生えたほどのお給料で、基本的なトレーニングは受けているのでしょうけど、旅行客をまるで牛か馬を柵に追い込むような態度で接するのです。尊厳も何もあったものではありません。教育のない、思いやりに欠ける人間に制服を着せると、とたんに制服の権威をカサに着る典型とでも言って良いでしょう。

アメリカの制服組は、日本やヨーロッパのセキュリティーチェックを行う人たちとは、天と地の違いなのです。日本、ヨーロッパでは、慇懃にしかも手際よく仕事をこなしており、こちらもご苦労さんとか声をかけたくなります。

ところが、アメリカのT.S.A.制服組は、私たちが航空料金に含まれて強制的に取られている安全チェック料金?が彼らの給料に回っていることなど意に介さず、無愛想に、横暴に徹しているのです。しかも、長蛇の列で、長い時には1時間も並ばされた末に、そんな扱いを受けるのですから、腹が立つというものです。

そんな権威を笠に着て、勿体をつけた横柄な安全チェックが、まったく役に立っていないことが今回分かったのです。T.S.A.の親分格のお役所、国家安全局(N.S.A)のエージェントが、試しに爆発物、銃などを空港、さらに機内へと持ち込めるか試みたところ、なんと96%はそのままスルリと空港の安全チェックを通り抜けてしまったのです。

ですから、多少なりとも意図的に危険物、火薬、爆発物、ピストル、ナイフなどを機内に持ち込もうとすれば、いとも簡単に安全チェックをくぐり抜けることができる…というのです。これでは何のために、あのうっとうしい安全チェックを受けなければならいのか分かりません。

そこで、身体検査を強化するため、乗客の全身をX線で透視しても良い…という法案が可決されました。おそらく大半の男性が夢に描いたように(一部の女性も)、マジックメガネをかけると服を透して裸の身体が見える状況になったのです。

マー、90何%の人はプレイボーイマガジン、プレイガールマガジンに登場するような鑑賞に堪えられる肉体を持っているわけではありません。それにしても、自分の体はとてもプライベートなモノですから、自分の意志に反して裸を人前にさらしたくない、と思う人の方が多いでしょう。

どのように実際は観えているのか試しにインターネット上で覗いたところ、ボディーラインがはっきりと映っていました。これからアメリカで飛行機に乗る予定のある人は、鏡の前でどのようなポーズで自分の裸を見せるか、チョット練習した方が良いかもしれませんよ。

まずは大きな飛行場で実施され、徐々に全米の飛行場でX線透視を実施していく方針のようです。

ハイジャカーと安全チェックのイタチゴッコ、知恵比べになってしまいますが、そのX線透視でいくらかでも飛行機が安全な乗り物になるなら、T.S.A.エージェントに裸を曝すのもしかたがないのかもしれませんが、他にもっといい方法はないのかしら、と思わずにはいられません。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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